第九話 明かされる過去
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その後まもなく、ローランとトビーはサンダース兄妹とメレディスを1階の本部の反対側へと案内していた。ローランは落ち着いているように見えたがカイルはローランを長年知っているので彼が少し緊張していることに気づいていた。
ローランの頭の中には昨晩の電話での会話がフラッシュバックしていた。
(「この吹雪が猛威を振るっているのでカイルとサーラには今夜は僕の所に泊まってもらうのが一番だと思ったんだ。だから、二人のことは全く心配しなくっていいよ。」
電話の向こうでアデレード・サンダースはしばらく沈黙した後ようやく尋ねた。「ローラン、『あなたの所』というのはご家族の家のこと?それとも…」
今度はローランが少し沈黙した後、「いや、本部のことです」と答えた。
「そう」とアデレードは言った。「じゃあ、申し訳ないけれどその難しい話はあなたにお任せしてもよろしいかしら?」
「はい、お任せください。」)
時間が近づくにつれローランは自分でその役目を引き受けたことを後悔し始めていた。「みんな、ちょっとお腹が空いたよ。次の目的地に着く前に何か昼食でも食べに行かないか?」と彼は言った。
「ローラン」とカイルとサーラは警告するように言った。
「団長、不愉快なことは後回しにするより早く済ませた方がいいですよ」とトビーが言った。
「分かったよ」とローランはため息をついた。「もう遠回しな言い方はやめるよ」
一行がさらに進もうとしたその時、興奮した声が「団長!エカルド団長!」と叫ぶのが聞こえた。若い男が彼らに向かって走ってきた。紫のローブをまとい、長い黒髪で、まるで子供のような元気とエネルギーに満ち溢れていた。
ローランは息切れして目の前でしゃがみ込む若い男を見て眉を上げた。「ハウラン、どうしたんだ、そんなに興奮して?」
「ヘレコンから戻ったことをお知らせしたくて」とハウランは興奮気味に答えた。
「なるほど、ということは君の休暇だろう?楽しんでこい」とローランは言った。「ああ、そうそう、ハウラン、この二人はカイルとサーラ・サンダースだ。カイル、サーラ、彼は隠密騎士のソール・ハウランだ」
「皆さんにお会いできて光栄です」とハウランは言った。「では、失礼します」
「ちょっと待ってください、ハウラン」とトビーは言った。「ジョナサン・タウンゼントの尋問で何か成果はありましたか?」
途端にハウランの様子が一変した。彼は姿勢を硬くし灰色の目を細めてトビーを睨みつけた。「いいえ、副団長。残念ながら彼はまだショックが大きすぎてなかなか口を開こうとしません。ですが、次の勤務の時にまた当たってみます」と、その口調はかなり冷ややかになっていた。
「わかった、続けてください」とトビーは言った。彼はまだ微笑んではいたがその表情にはどこか悲しげな色が混じっていた。ハウランの態度の変化に気づいたローランは首を横に振りため息をついた。
「それでは、団長」とハウランは言い、再び陽気な態度に戻って「また後ほど」と告げると反対方向へと走り去っていった。
一行の間に気まずい沈黙が流れた。その沈黙を破ろうとサーラは尋ねた「ヘレコンって何?」
ローランははっとした様子で言った。「ヘレコン? ああ、ヘレコンのことか! ヘレコン刑務所だよ。あれは『騎士団』が運営する施設で上級職超力者囚人を収容するために作られたものだよ。管理しているのは警察騎士で、彼ら以外でそこに出入りするのは尋問を行う隠密騎士くらいなものだ。場所はグリーンランド沖の島にある」ローランは両手の埃を払い大きく息を吸い込んだ。「よし、みんな。いよいよ腹をくくる時間だ」
結局のところ、彼らが目指していた部屋はすぐ近くメインホールのエレベーターを挟んだ反対側にあった。ローランに案内されて入ったのは小さなスタジアムにも匹敵するほど広大な部屋だった。そこには神聖な空気が漂い、部屋を支配する静寂はどこか神秘的な雰囲気を帯びていた。一行の目の前には黒い大理石の壁が連なっていた。その数は12枚ほどで、一枚の厚さは約60センチ、高さは約7.6メートルもあり、奥行きは約21から24メートル近くに及んでいた。高いアーチ状の天井には一連の採光窓が設けられそこから差し込む光が壁を照らし出していた。その光はまるで太陽光のようだった。
「ここは…一体何なんだ?」とカイルは尋ねた。
ローランは一瞬ためらった後、「ここは我々が『記念碑』と呼ぶ部屋だ。この壁一面には何世紀にもわたって任務中に命を落としたエンデクライオン騎士たちの名前が刻まれているのさ」と答えた。
「つまり、戦死した騎士の名前が全てこの壁に刻まれているということか?」とカイルは言った。
「その通りです」とトビーは答えた。「記念碑は騎士団のために犠牲を払った者たちを称えるためのものです。我々が戦い続けるためにどれほどの犠牲を払ってきたかを決して忘れてはならないために。」
サーラは不安げに頷いた。「で、それが私たちとどういう関係があるの?」と彼女は尋ねた。だが、その口調からはそこで何を目にすることになるのかをすでに悟っており、ただ覚悟を決めようとしているだけなのが明らかだった。
ローランは無言のまま二人を一番右側の壁へと案内した。その瞳には深い悲しみが宿っていた。彼は何も言わずその壁を指し示した。カイルとサーラは深く息を吸い込み、壁に刻まれた名前を上から順に追っていった。そして、ある一つの名前に目が留まった――サンダース、サイモン・ナサニエル――ファイターナイト。
カイルとサーラは長い間解けなかった疑問の答えがすべてそこに記されているかのようにただその名前を見つめていた。やがてカイルは怒りに燃える声で叫んだ。「知ってたんだな!親父がどう死んだか知ってたのに俺たちには何も言わなかった!この一年間、親父がどうやって殺されたのかずっと気になっていたのにあんたはずっと前から知ってたんだ!」彼はローランの方を向き非難の色を帯びた青い瞳を向けた。
「ごめん」ローランはそう短く言い顔を背けた。
「ごめんだと?それだけか?」カイルが叫んだ。
「ど、どうやって殺されたの?」サーラが声を震わせながら尋ねた。
「およそ1年前、フィラデルフィア近郊の古い大聖堂に非超力者の孤児の集団が人質として捕らえられているという情報が『騎士団』にもたらされたんだ。当時戦闘部隊の責任者を務めていた君たちの父さんは6人の騎士を率いて救出任務に赴いたんだ。彼らは孤児のほとんどを救い出すことには成功したが、シャドウ・ストーカーのエッグゼービエル・ソラン率いるカオジェンの集団との激しい戦闘の末、父親を含めた7人の騎士全員が命を落とした。カオジェンの大半は制圧されたもののソランだけは逃亡を許してしまったんだ」
カイルとサーラは言葉を失った。ローランは沈痛な面持ちでこう言った。「ごめん、二人とも。どう説明すればいいのか分からなかったんだ。以前から話そうとは思っていたんだけどつい先延ばしにしてしまって……」
カイルはしばらくローランをじっと見つめていたがやがて鼻を鳴らすと足早に部屋を出て行った。カイルが去った方角を見やりメレディスは一瞬ためらいを見せたものの彼の後を追った。
ローランはもう一人のサンダース一家の方を見てためらいがちに「サーラ?」と尋ねた。
「今は少し一人にして」とサーラは小声で言い彼女も部屋を出て行った。ローランはため息をつき慰霊碑の壁にもたれかかり顔を手で覆った。
「団長」とトビーが言った。ローランが何も言わないのでトビーは「きっと大丈夫ですよ、ローラン」と言った。
「ああ、神様にそう願うよ」とローランはつぶやいた。
***
メレディスはメインホールを見下ろす客室のバルコニーで思い詰めた様子で佇むカイルを見つけた。「……大丈夫?」彼女はおずおずと尋ねた。
「大丈夫なわけないだろ!」カイルは声を荒らげた。だが、メレディスが恐怖に満ちた表情を浮かべているのに気づくとすぐに後悔の念に駆られた。「ご、ごめん。君に怒鳴るつもりじゃなかったんだ」彼は膝を抱え込み体を丸めるようにしてその場に座り込んだ。「ただ……親父の死をまだ完全には乗り越えられていなくて。よく言うだろ、古い傷口がまた開いてしまったってやつさ」
メレディスは彼の隣に腰を下ろした。しばらく沈黙した後、彼女は口を開いた。「何か力になれるような言葉をかけられたらいいんだけど……。でも、私は親の顔も知らずに育った孤児だから私の言葉が役に立つかどうかわからないわ。親を亡くすのと最初から親がいなかったのとはやっぱり違うことだし」
「いいんだ」とカイルは言った。彼は少しの間黙り込んでいたがやがてこう続けた。「君の話を聞けばこの状況を整理する助けになるかもしれない」
「わかったわ」とメレディスは言った。「私はクイーンズにある孤児院で育ったの。生まれたばかりの頃にそこの玄関先に置き去りにされていたらしいわ。『メレディス』という名前は孤児院の職員がつけてくれたもので苗字もその孤児院から取ったものなの。自分の出自を知らなかったから子供の頃はよくどこか隠された王国の迷子のお姫様なんじゃないかって空想したりしていたわ」彼女は少し言葉を切り、こう続けた。「3週間ほど前、ある男たちの集団が孤児院にやってきて私のことを尋ねてきたの。私はもう18歳だし、養子縁組なんてとっくに諦めていたわ。高校を卒業すればどのみち自立することになっていたしね。だから、今さら大人が私のことを聞きに来るなんて本当に理解できなかった。それで、彼らが院長と話している隙にこっそりと事務室を覗いてみたの」
メレディスは再び言葉を止め、身を震わせた。「一見すると彼らはごく普通の人間のように見えたわ。でも、何かが……彼らには何か『異質な』ところがあったの。それがすごく怖かった。あまりに怖くて、その夜、私は自分の持ち物とかき集められるだけの食料を抱えて孤児院から逃げ出したのよ」
「それから間もなくして誘拐事件が始まった」とカイルは言った。
メレディスは頷いた。「今思えば、あの男たちはカオジェンだったんだと思うわ。昨日彼らに出くわしたとき同じ恐怖に襲われたもの」彼女は続けた。「とにかく、私はクイーンズから北へ向かい始めたの。ヒッチハイクや列車、時には徒歩で移動してようやくナイツレストにたどり着いた。でも、その頃には食料もお金も尽きかけていて生き延びるために……何か……極端なことをしなきゃいけないんじゃないかって真剣に考えていたの」彼女はカイルを見上げて言った。「あなたとサーラに出会ったのはちょうどそんな時だった」
カイルは少し気まずい思いをせずにはいられなかった。悲しみの深さを比べるようなことはしたくなかったが、自分の抱える問題などメレディスのそれに比べれば大したことではないように思えたからだ。他にどうしていいかわからず彼はそっと彼女の肩に腕を回した。メレディスは身を寄せ彼の肩に頭を預けた。久しぶりに心から安らぎを感じながら。
***
ローランはゲスト用宿舎へ向かう途中サーラに追いついた。「大丈夫?」と優しく尋ねた。
サーラはしばらく黙っていた。「教えて、ローラン。どうして私たちをここに連れてきたの?」
「君はもう答えを知っていると思うよ」とローランは言った。
サーラはうなずいた。「お兄ちゃんと私を騎士団に、エンデクライオン騎士団の騎士にしたいんでしょ?」
ローランもうなずいた。「まだ気づいていないかもしれないが、君の父さんは君たち二人を幼い頃から騎士になるための訓練をしていたんだ。ほとんどの騎士は正式なエンデクライオン騎士になる前に最低でも1年間の見習い騎士としての訓練を受ける。だが、君の父さんの訓練のおかげで君とカイルは既に正式なエンデクライオン騎士団の騎士になる資格を十分に備えているんだ。」
「どうしてパパは私たちに秘密にしていたの?」
「はっきりした理由は分からないんだ」とローランは言った。「分かっているのは君の父さんが亡くなる前、君の両親は『エンデクライオンの騎士』になれる年齢になるまでは君たち二人に『騎士団』のことを秘密にしておこうと決めていたんだ。でも最終的には騎士団に加わるかどうかは君たち自身に決めてほしかったのさ」
サーラは少しの間黙り込んだ後こう尋ねた。「教えて、ローラン。『カオジェン』って一体何なの?」
「一言で言えばカルト集団だな」とローランは言った。「何世紀も前に創設された組織で彼らは『上級職超力者』こそが他のすべての上に君臨すべき神聖な権利を持っていると信じている。『カオス・ジェネレーションズ』の最終目的は超力者以外の全人類の抹殺と下級職超力者の完全な支配さ。そのために彼らは政治家や企業、革命家、さらには国家そのものまでをも操り時には露骨なテロ行為さえ行ってきた」ローランは言葉を継ぐ前に一呼吸置き、こう言った。「カオジェンの中でも最も危険なのが『シャドウ・ストーカー』だ。彼らは高度な訓練を受けた暗殺者集団で、隠密裏であれ戦場での正面衝突であれ極めて残虐な所業を行っている。たった一人のシャドウ・ストーカーを戦闘に投入するだけで戦況を覆すことさえあると言われているほどさ。もっとも、それはエンデクライオン騎士についても同じことを言われているけどね」
「つまり、エンデクライオン騎士とカオジェンのシャドウ・ストーカーは何世紀にもわたって争い続けてきたというわけなの?」
「ああ、何世紀もだ。彼らを率いているとされるのは自らを『闇の女預言者』と称するアルカンタラという人物で、彼女は数世紀もの時を生きていると主張している。今のアルカンタラが本当に何世紀も生きているのか、それとも何世紀にもわたって受け継がれてきたその名を名乗っているだけの最新の継承者なのかは分からない。だが、彼女が実在する人物であることは確かだ。もっとも、今のカオジェンの内部では少しばかり権力の空白が生じているようだがね」
「権力の空白状態?」
「そうさ。数ヶ月前、アルカンタラの弟子の長が何か問題を起こし教団から追放されてしまったんだ。そのため、高位のカオジェンたちがアルカンタラの新たな弟子に任命されるべく何か功績を残そうと必死になっているのさ。俺たちは最近の誘拐事件もその一部であると考えているんだ」
サーラはしばらく黙っていたがやがてこう言った。「これはちょっと情報量が多すぎて、お兄ちゃんの気持ちは分からないけど、私は少し考える時間が必要」
「必要なだけ時間をかけていいよ」とサーラと客室に入りながらローランは言った。
サーラは部屋に入るとすぐに何かに気づき思わず立ち止まった。それまでの沈んだ表情はたちまち消え彼女らしい茶目っ気たっぷりの笑みが浮かんだ。「あらあら、あれを見てよ」と彼女はくすりと笑った。
「何? どうしたんだ?」とローランが尋ねた。彼はサーラの肩越しに視線を向け目にした光景に驚かされた。そこにはカイルとメレディスが地面に座り込み実に仲睦まじげにぐっすりと眠っていたからだ。メレディスはカイルの肩に頭を預けカイルもまたメレディスの頭に自分の頭を寄り添わせていた。カイルはメレディスをかばうように腕を回しており二人の顔には満ち足りた表情が浮かんでいた。
「うちのお兄ちゃん、私に言わなきゃいけないことがあるみたいね」とサーラは嬉しそうに言った。
「いやはや、これは全く予想外の展開だな」とローランは言った。
「彼がメレディスに悲鳴を上げさせて逃げ出させるようなことをしなかったなんて正直驚きだわ」とサーラは言った。「お兄ちゃんの女性関係の『実績』は私たちもよく知っているでしょ? 2年前にリアンナと少しだけ付き合っていた時のこと覚えてる?」
ローランは額に手を当ててうめいた。「やめろ、あの悪夢のような3週間のことは思い出させないでくれ。なかったことにしたいんだ」と彼は言った。「あの期間中ずっと口をきかない二人の間を取り持ったり、話している時は互いに殺し合わないように必死だったりしたんだから。友達に戻るのが一番だと決めた時どれほどホッとしたか想像もつかないだろうね」
サーラはにやりと笑って言った。「あら、本当に? あなただって可愛いところもあったって認めざるを得ないでしょう?」
「勘弁してくれよ。二人の関係は付き合う前からすでにハルマゲドンとラグナロクが合体したような破局が待ち受けていたんだ」とローランは答えた。「もちろん、僕にも多少の責任はあるけどね。当時あの二人があんなに長い時間を一緒に過ごしていた理由の一つは、ちょうどその頃、僕と弟が『騎士団』の活動に深く関わるようになっていたからなんだ」
「まあ、物事がどう転ぶかなんてどうにもできないこともあるわよね」とサーラは言った。「それじゃあ失礼するわ。兄を散々からかってやらなきゃいけないから」
『エンデクライオンの騎士団』をお読みいただき、誠にありがとうございました。
物語は続きますので、どうぞお楽しみに。




