第十話 エッグゼービエル・ソラン
どうぞ、お読みください。
「カオス・ジェネレーションズ」の神殿、その薄暗い回廊を一人の人物が大広間へと進んでいく。闇に包まれた回廊に響く足音――その不気味な音色は、いかに勇敢な者であっても不安を覚えるほどのものであった。だが、その人物は微塵も動じる様子を見せなかった。
彼は空色の差し色が入ったオフホワイトの中国風の衣を纏っていた。その下には濃紺の中国風ズボンを着用し、足元もまた中国武術家が履くような靴で固めている。頭には衣と同じく縁が青いオフホワイトのフードを深く被っていた。フードの隙間からは肩にかかる長さの無造作な黒髪が覗き、その奥で輝く茶色の瞳は冷徹な鋼のような鋭さを湛えている。まだ二十歳にも満たない若さではあったがその顔立ちは冷酷さを漂わせ不穏なまでの険しさを帯びていた。
その人物が大広間に入ると壁にもたれかかり腕を組んでいるダンテ・ゴーシャンの横を通り過ぎた。「エッグゼービエル・ソラン」と彼は嘲るように言った。「本当に来たのか」
ソランはゴーシャンのほうをちらりと見ただけで、「疑っていたのか?」と囁くような声で尋ねた。
ゴーシャンはソランに怯えているのが明らかだったが強がってそれを隠そうとした。「よくもまあ、来たもんだ。感心するぞ」とゴーシャンは言った。「何しろタウンゼントを失ったんだからな」
「まあ、相手がローラン・エカルドだったことを考えれば当然の結果だろう」
ソランが広間に入り橋を渡って祭壇へと向かう姿をゴーシャンは言葉を失って見つめていた。ソランが脇の小部屋に入るとそこはほとんど何もない空間だったが中央にはマホガニー製の机が置かれ、その周囲に木製の椅子がいくつか並べられていた。ジェイムソン・カーンはそこで彼を待ち受けていた。
「エッグゼービエル・ソラン」とカーンは言った。「さあ、座ってくれるかのう」。ソランは机に向かい合う椅子の一つに腰を下ろした。「何かいるかね? 飲み物でもどうじゃ?」
「それとも別のものがお望みかしら?」アニタ・エヴァナンスが部屋に入ってきて妖艶な笑みを浮かべながらソランに近づいた。「どうする? サービスしてほしい?」彼女はそう言いながらソランの椅子の背もたれに身を預けるようにして寄りかかった。だが、ソランが冷ややかな視線を向けると彼女は大人しく引き下がった。
「私は遊びではなく仕事で来ている」ソランはカーンに向かって言った。「すぐに任務の詳細を説明してもらいたい」
「も、もちろんじゃよ」とカーンは言い、メレディスの写真をソランの方へ差し出した。「シャドウ・ストーカーよ、これが我々の現在の標的じゃ」
ソランは片方の眉を上げた。「赤毛に緑の瞳か。なるほど、これは確かに驚きだな」
「そうじゃろう。7400万人に一人という極めて稀な娘じゃからな」とカーンは言った。
「承知している」とソランは応じた。「『闇の預言者』様からはこの娘に目を光らせておくよう指示を受けていたからな」
カーンは言葉を詰まらせた。「そ、そうじゃったか」
「その通りだ」とソランは言った。「アリスタ・アルカディアが破門されて以来我々の上層部の多くはアルカンタラ様の筆頭弟子という彼女の後任の座を射止める手柄を立てようと躍起になっている。私自身はその地位に興味はないしアルカンタラ様がこの娘に何を求めているのかを知る必要もない。私はただ与えられた任務を遂行するだけだ。だが、お前はもしかして自ら彼女を『預言者』様に献上したいと望んでいるのか?」
「も、もちろんじゃよ。ええ! ええ! それこそがわしの望みじゃ!」カーンは声を弾ませた。だが内心ではひどく動揺していた。アルカンタラは一体どこまで知っているのだろうか? 彼はためらいがちにワインを口にするとこう言った。「と、とにかく、我々はこの娘の居場所を突き止めました。あいにく、彼女は今『エンデクライオン騎士団』の保護下にありますのじゃ。わしが何を求めているかはお分かりでしょう。この娘を拉致するにあたりあなたに協力していただきたいのじゃ」
ソランは面白がっている様子だった。「冗談だろ?」と彼は言った。「我々の誰かがあの娘を連れ出すためにエンデクライオン本部に正面から突入したり、こっそり忍び込んだりするとでも本気で思っているのか? そんなことをすれば自殺行為だ――私にしてもな。まさに『獅子の巣穴』に飛び込むようなものだ。戦闘騎士、警察騎士、隠密騎士からなる待ち構える軍勢の真っ只中へ、だ。エカルド本人だってそこにいる。私一人をその小さな仲間に加えるだけで形勢を逆転できるなどと考えているならおめでたい夢でも見ているとしか思えないな」
ソランのその態度にカーンは苛立ちを募らせ始めていた。「じゃあ……じゃあ、わしらにどうしろって言うのじゃ?」と彼は吐き捨てるように言った。
「決まっているだろう。出てくるのを待つのさ」ソランは当たり前のことのように答えた。「パインシャックル・フォレストを監視し、じっと待つ。遅かれ早かれあの娘はエンデクライオン本部から出てくるはずだ」
ソランの提案にカーンは戸惑いを隠せなかった。「エンデクライオン騎士団はわしらがその娘を狙っていると知っているはずじゃ」と彼は言った。「そんなに不用心な警備はしないじゃろう」
「確かにね」ソランは応じた。「だが、私はローラン・エカルドという男を知っている。たとえ危険が伴うとしても罪のない人間を本人の意志に反して本部に閉じ込め続けるようなことはしない。それは彼のやり方じゃない。遅かれ早かれ、閉じ込められていることに耐えかねてあの娘は外に出てくることになる。数日かもしれないし、数ヶ月、あるいは可能性は低いが数年かかるかもしれない。だが、いつかは必ずそうなる」
「エカルドのことを……ずいぶんよく知っているようね」とエヴァナンスが言った。
ソランは彼女を横目で見るとこう答えた。「ローラン・エカルドに対して個人的な因縁がある……とでも言っておこうか」
カーンはそれほど長く待つことには乗り気ではなかったが他に方法はないと判断した。それでも疑念は残っていた。「たとえ近い将来その娘が本部から出されたとしてもエンデクライオン騎士団は彼女の周囲を厳重に警備するはずじゃ」
「それも確かだ」ソランはそう言うと不敵な笑みを浮かべて続けた。「だが、エカルドは私が今お前たちのチームに加わっていることなど知る由もない」
***
それから間もなくソランは神殿を後にした。立ち去る前、彼は神殿の方を振り返り独りごちた。「さて、ジェイムソン・カーン。お前は一体何を狙っているんだ? アリスタ・アルカディアが残した穴を埋めるためにこの娘を探しているわけじゃないことくらい私にはお見通しだ。お前はアルカンタラ様に隠れて何かを企んでいるな」彼はメレディスの写真を取り出しじっと見つめた。「それにしても、なぜお前もアルカンタラ様もこの娘を探しているんだ? 彼女の何がそれほど重要なんだ?」写真をしまい彼はしばし思索に耽った。「エカルドと再び対峙する好機だと思ってこのチームに加わっただけだったが……。だが、『闇の預言者』様のためを思えばこの娘が何者でなぜカーンが彼女を追っているのかを探っておくのが最善かもしれないな」
『エンデクライオンの騎士団』をお読みいただき、誠にありがとうございました。
物語は続きますので、どうぞお楽しみに。




