第十一話 秘密を抱え続けることの結末
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その後数日のうちに、ローランとカイルの間にどこかぎこちない空気が流れていることは明らかだった。授業中も食事や勉強も普段通り二人で行動してはいたが、そこには妙に丁寧な振る舞いや気まずい沈黙が漂っていた。二人の間のそうした緊張感に最も振り回されることになったのはリアンナだった。親友同士である二人の関係がなぜこじれているのかその理由が全く分からなかっただけに、彼女にとってその状況はなおさら厄介なものだった。一度カイルにその件を尋ねてみたこともあったが返ってきた言葉は「気にしなくていい」というものだった。一方のローランはその話題が出ると決まって急に話をそらそうとするのだった。
ローランとカイルの間に流れる険悪な空気はさておき聖アヴィトン校の他の生徒たちと同様、彼らもまた、強豪として知られる女子フェンシング部の活躍に胸を躍らせずにはいられませんでした。州大会を勝ち抜いたフェンシング部は決勝戦を控えており誰もがその行方に期待を寄せていたのです(一部の不満げなアメフト部員やチアリーダーを除いては)。ある晴れた土曜日、同校を会場として女子フェンシングの州大会決勝が行われました。それまでの試合結果は同点であり勝敗の行方は各校の主将同士が戦う最終戦に委ねられていました。観客席ではローランとカイルが並んで座りその試合の行方を見守っていました。
「すごい試合だろ?」ローランは親友との会話の糸口を探るように言った。カイルはただ肩をすくめるだけだった。「何か買ってくるか? ホットドッグとか、コーラとか」とローランが尋ねる。
「何でもいいよ」とカイルはつぶやいた。
ローランはうんざりしたようにため息をついた。カイルとの間にこれほど距離ができてしまうことには慣れていなかったが、同時に、彼を責めるわけにもいかないとも感じていた。ローランは「エンデクライオン騎士団」に加わって以来それが友人たちとの関係に及ぼすかもしれない影響を恐れていたのだ。二重生活を送っていることを友人たちに打ち明けるのを避けるためこれまでずっと言い訳を重ねてきたことに彼は今さらながら気づかされていた。
ローランが再びカイルに話しかけようとしたその時、聖アヴィントン校のフェンシング部主将が対戦相手に決定的な一撃を浴びせた。「トゥシェ」――審判が彼女の勝利を告げる中、彼女はそう応じた。
ローランは即座に周囲の歓声に加わった。カイルは不機嫌だったもののその勝利を目の当たりにして思わず笑みをこぼした。「下りて行ってお祝いを言おうぜ」とローランが叫ぶ。
カイルは肩をすくめて「ああ、そうだな」と応じた。二人が観客席からフェンシング部の方へ下りていくとちょうどチームの主将がマスクを外したところだった。現れたのは汗ばみ上気してはいるものの勝利の喜びに満ちたリアンナ・ケリスの顔だった。
「リアンナ! おめでとう!」ローランが叫び彼女を力いっぱい抱きしめてそのまま何度かぐるぐると回した。
「ローラン!」リアナが声を上げた。「やめてよ、恥ずかしいじゃない」そうは言ったものの彼女の顔には隠しきれない笑みが浮かんでいた。
「悪かったな、ただ嬉しくてさ」とローランが言うとリアンナは彼に向かってにっこりと微笑みお団子ヘアからこぼれ落ちた髪を直した。ローランは言葉を続けた。「だって、州大会のチャンピオンだぞ! この勝利は本当に大きいよな?」
「これから全国大会が控えているのよ」とリアンナは答えた。「本当の勝負はそこなの。チームにはまだたくさん練習をさせなきゃいけないわ」
「でも、優勝は大きな意味があるよ」とローランは言った。「そう思わないかい、カイル?」
「まあ、君の言う通りさ」とカイルは肩をすくめて言った。彼はすぐにローランから顔を背けリアンナに視線を向けた。「おめでとう」と言って彼は手を差し出した。
リアンナは眉をひそめた。ローランとカイルの間にある緊張感が明らかにカイルの気分を落ち込ませている一方で、ローランは時折やや過剰に熱狂しているように見えたからだ。それでも彼女はカイルと握手し彼に満面の笑みを向けた。「ありがとう」と彼女は言った。「ところで、あなたたち二人の間に一体何が起こっているのかもう教えてくれる?」
ローランもカイルも、少し困ったような様子を見せていた。だが、二人が答えるより先に金髪の少女が勢いよく駆け寄ってきてリアンナに力いっぱい抱きついた。「ああ、リアンナ! おめでとう! 本当によかったね! 州大会優勝だなんてすごすぎるよ!」
「ちょっとサーラ、息ができないわ」とリアンナは笑いを含んだ声で言った。サーラ・サンダースは少し気まずそうな顔をしてリアンナを解放した。
「まあ、とにかくお祝いしなきゃね」とサーラは言った。「州大会優勝、女子フェンシングチーム。ガール・パワー! 女性の勝利に万歳!」
「サーラ、それはもっともなんだけどこのチームを何かの『主張』の象徴みたいにはしたくないの」とリアンナは言った。
「あら、じゃあ何がしたい?」サーラはニヤリと笑いながらリアンナの肩に肘を預けた。「いいこと思いついた。私の大事なお兄ちゃんの新しい彼女についてからかってやろうよ」
リアンナは驚いて目を見開いた。「彼女?」
「彼女なんかじゃない!」カイルは顔を真っ赤にして叫んだ。「メレディスは俺の彼女じゃないよ」
「あれ、私がメレディスのことを話しているってどうして思ったの?」サーラはさらに悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「えっ……」カイルは声を上げた。「いや、その……えーと……」
「まあ、実際メレディスのことだったんだけどね」サーラは口元をさらに大きく歪めて笑った。「でも、そう言われると……」カイルは言葉を失いトマトのように顔を真っ赤にしていた。
「えっと…カイルに彼女ができたの?」リアンナはためらいがちに言った。「あの、私も会えるかな?」
「もちろんさ」ローランは他の誰かが答える前に言った。「もうすぐ聖アヴィントン校に入学するんだ。」
今度はカイルとサーラが驚く番だった。「そうなの?」カイルが尋ねた。
「ああ」ローランは答えた。「『全て』が落ち着いたらね。」
「全て?」カイルが尋ねた。「ああ、『全て』が片付いたらね。」
リアンナはローランとカイルを交互に見つめ少し眉をひそめた。頭の中で何かが繋がり始めその考えが向かう方向が気に入らなかった。彼女はローランの方を向き、「あなたはカイルとサーラには秘密を教えて私には何も知らせないのね」と、小さく静かな声で言った。
ローランは、どこか動揺した様子でリアナに向き直った。「リアンナ、僕は……」
「やめて! 何も言わないで!」リアンナはきっぱりと言った。「私……自分が首を突っ込むべきじゃないことに口出しするあのすごく鬱陶しいアニメの女の子達みたいな振る舞いをしてるってことは分かっている。私に秘密を教えない権利があなたにあることも分かっている。でも……ただ……だって、私とあなた……あなたとカイル……カイルと私、みんなであなたの親友だと思ってたから。それに……もし私たちが二人ともあなたの親友なら、当然、平等に扱われるべきだよね? 片方の親友だけを特別扱いしたりはしないはずだよね? だって、明らかに片方をもう片方より『いい友達』だと思っているならどうして二人とも親友なんて言えるの? そんなふうに扱われた方の親友は一体どうなるっていうの? ああもう、私ってば嫉妬深くてしつこい女みたい!」リアンナはすっかり取り乱して支離滅裂なことを口走っておりローランの愕然とした様子に直面し彼女のヘーゼル色の瞳には涙が浮かび始めていた。
ローランが何かを言う間もなくフェンシング部の他のメンバーや大勢の支持者たちが祝福の言葉をかけようとリアンナを連れて行ってしまった。カイルとサーラは惨めな表情を浮かべるローランに厳しい視線を向けた。「こっちへ来て話そう」とサーラが言い、ローランの手首を掴んで人目につかない隅へと引っ張っていくとカイルもその後に続いた。
「さあ、話して」とサーラは腰に手を当て決意を込めた表情で迫った。
「何について?」とローランは尋ねたがサーラが何の話をしているのかは分かっていた。
「なぜリアンナに『エンデクライオンの騎士団』のことを話さないのか、ってことだ」とカイルが言った。
ローランはためらいがちに口を開いた。「……いくつか理由があるんだ」
「で、具体的にその理由って何なんだ?」とカイルが問い詰める。
一方、サーラは別のことを考えているようだった。「もしかして、リアンナも騎士候補生なの?」
「それが……理由の一つだ」とローランドは認めた。
「ちょっと待てよ」とカイルが言った。「つまり、リアンナは上級職超力者だってことか?」
「ああ、彼女はかなりの実力を持つ『フィジカル』だよ」とローランは言った。「君も彼女のフェンシングの試合を見ただろう。あの流れるような身のこなしや才能は上級職の超力者でなければ決して持ち得ないものだ。ちなみに、君の親しい人間がなぜ皆上級職なのかと不思議に思うかもしれないが、それは決して偶然じゃない。超力者には無意識のうちに同類を求める傾向があって、だからこそ彼らは集団でいることが多いんだ。幼馴染の上級職同士は大人になっても親密な関係を続けることが多く結婚も比較的早い年齢でする傾向がある。すべては超力者の生理的な特性によるものさ。もっとも、一つの友人グループに上級職が5人もいるというのは極めて異例なことだけど、僕らの場合はその中に2組のきょうだいがいるという事情があるからね」ローランはため息をつき、こう続けた。「だけど、それだけじゃないんだよ。正直なところリアンナには『騎士団』のことなど決して話したくないという気持ちが僕の中にはあるんだ」
「えっ? どうして?」とカイルが尋ねた。
「まあ……リアンナだからさ」ローランはそれ以外の説明のしようがないといった様子で言った。「彼女が『騎士団』のことを知らなければ超力者を巡る争いに巻き込まれることもない。彼女にはもっと幸せになってほしいんだ。俺たちが戦う戦争の惨禍から離れて自由に生きてほしい。俺にとって彼女は自分が何のために戦っているのかを象徴する存在なんだ。いや、彼女そのもののために戦っていると言ってもいいかもしれない……彼女が俺にとって意味するもの、それはこの暗く腐敗した世界に残された『善』のすべてであり、歪んだ混沌の中にある希望と光の筋なんだ。彼女は俺にとって純粋さの象徴でありそれを汚すような真似はしたくない……」ローランは自分がとりとめもなく語り続けていることに気づき言葉を切った。
カイルは片方の眉を上げローランを値踏みするように見つめた。「なあ、RJ」と彼は言った。「リアンナは正しかったのかもしれないな。お前が親友の一人をもう一人よりも特別視しているって言ったことさ。ただ、どっちの親友を特別視しているかという点では彼女は間違っていたと思うけどな」
「えっ?」
「……なんでもないよ」カイルは疲れたように息を吐き出すと、先ほどよりずっと明るい表情でローランに向き直った。「最近、少し落ち込んでいたかもしれないな。君にも君なりの考えがあってのことだったんだろう。これからはもう少しうまくやっていけるようにするよ」
今度はローランが眉を上げた。「へえ? ってことは、俺たちはもう大丈夫ってことか?」
カイルはにやりと笑って言った。「ああ、もう大丈夫だ」。二人は互いにハイタッチを交わし笑い合った。
***
その日の夕方、カイルはエンデクライオン本部の訓練用ジムでエレメンティアンの力を習得しようとしていた。
「集中…集中…」彼は両手に集めたエネルギーに集中しようとしながらそう呟いた。すると、突然真空状態になったかのような音がしてカイルの右手に圧縮された空気の球が形成された。「行ッケエ!」彼は叫びながら部屋の反対側に設置されたダミーに向かってその空気の球を野球のボールのように投げつけた。空気の球はダミーに激突しソニックブームのような轟音とともにダミーの残骸はジムの反対側の壁に吹き飛ばされた。
「見事です」カイルの訓練を監督していたトビーが言った。「もちろん、傍観者が怪我をしないように力を制御できるようになることは不可欠ですが。」
「それでも、なかなかすごかっただろ?」カイルはニヤリと笑いながら言った。「でも、ちょっと疲れるな。何回やったら倒れちゃうか分かんねえ。」
「君は風を操るエレメンティアンです」とトビーは言った。「今のレベルなら人を吹き飛ばすほどの突風やさっき見せてくれたような圧縮された空気の塊を作り出すことがでましょう。ですが、十分な訓練を積めば理論上は小さな竜巻やさらには小規模なハリケーンさえも生み出せるようになるでしょう」
「へえ、すごいな。そんなことができるようになるまでどれくらいかかるんだ?」とカイルは尋ねた。
「君の今の成長のペースなら」とトビーは思案深げな表情で言った。「そうですね、2、3年はかかるでしょう」
「がっかりだな」カイルはうなだれて声を漏らした。それでも、部屋の向こう側に座っているメレディスに気づくと彼の表情はぱっと明るくなった。「やあ、メレディス! 今の風の塊、見た? すごいだろ?」
「えっ?」メレディスは驚いたように声を上げた。「あ、ごめんなさいカイル。何て言ってたの?」
その時になって初めてカイルはメレディスが窓辺に座って人工の太陽ランプをじっと見つめ、とても憂鬱そうな顔をしていることに気づいた。「大丈夫か?」
「もちろんよ。どうして大丈夫じゃないと思うの?」
「うーん、分からないな。もしかしたらまるで迷子の少女みたいに偽物の太陽を見つめているからかな?それでバレちゃったかも」カイルは彼女のそばにしゃがみ込んだ。「どうしたんだ?」
メレディスは悲しそうにため息をついた。「別に何でもないの」と彼女は言った。「ただ…もうしばらく太陽を見てないから。ずっと地下に隠れているから、なんだか落ち着かなくって。閉塞感って感じかな」
「外に出かけてもいいんじゃない?」とカイルが提案した。
「カオス・ジェネレーションズの信徒たちが私を狙っているのに?無理よ。」
「まあまあ、ちょっと外の空気を吸うくらいならいいじゃないか」とカイルはニヤリと笑って答えた。「さあ、RJに相談してみるよ。きっと君をしっかり守ってくれるはずだ。」
メレディスはまだ迷っているようだった。「どうしようかな」と彼女は言った。
「心配すんなって。俺も一緒に行くから」とカイルは言った。「君に何も起こらないようにするよ、約束する。」
「ええ、わかったわ」とメレディスはついに笑顔を見せた。
「よっしゃー」とカイルは言った。彼はトビーの方を向き、「おい、ローランがどこに行ったか知ってるか?」と叫んだ。
***
ケリス邸で、リアンナは自室のベッドに横になり指でシーツに落書きをしていた。州選手権優勝の喜びは友人たちと話した後すっかり消え失せチームメイトたちと祝う気分にはなれなかった。ただただ、圧倒的な悲しみと孤独感そしてもしかしたら見捨てられたような感覚に襲われていた。
「もう、馬鹿げてる!」リアンナは突然叫び、体を起こした。「彼は以前もし私に秘密にしておくことがあったとしてもいつか必ず明かすと約束してくれたのよ。ローラン・エカルドが約束を破ったことなんてあった? 彼が私を見捨てるなんてありえない! そんなことする人じゃないわ!」
(でも、今のあなたは彼のことを本当によく知っているの?)リアンナの頭の中から意地悪な声が聞こえた。リアンナは首を横に振り、その声を振り払おうとした。
「彼のことなら誰よりもよく知っているわ!」彼女は自分に言い聞かせるようにそう言った。その時、ドアをノックする音が聞こえ彼女は考え事から引き戻された。
「リアンナ、僕だよ。」
「ローラン?」リアンナがドアを開けると、案の定、ローランがすぐそこに立っていた。
「ああ、玄関が開いていたから入ったんだ。」ローランは少し緊張した様子だった。「あの…入ってもいいかな?」
「ええ…もちろん。」リアンナはそう言って彼を中に入れた。「何の話?」
「今日のことなんだ。」ローランは言った。「あの…ごめん。君の優勝の日を台無しにしてしまって。」
「台無しになんてしてないわ」とリアンナは断言した。
「いや、したんだ」とローランは言い返した。「そのことについて謝りたかった。それから君より先にカイルとサーラに秘密を明かしてしまったことも。……そうしたのにはちゃんとした理由があったんだ。君よりサンダース家を優先したわけじゃない。実際、カイルはむしろ君に秘密を明かさないことこそが、君を特別扱いしている証拠だと言いたげだった……少なくとも、僕にはそう聞こえたよ。でも、いつか君には話すって約束したしその言葉に変わりはない。どうか、そのことだけは分かってほしい」
少しの沈黙の後リアンナは「分かっているわ」と呟いた。
「えっ?そうなのか?」ローランはリアンナがそんなことを言うとは明らかに予想していなかった。
リアンナはくすりと笑い、「もちろん分かっているわよ、この大のつくお人よしさん」と言った。
「あ!えっと、あの、ありがとう…たぶん…僕のことを理解してくれて…ええ、それで…」ローランは少し間を置いてため息をつき、「リアンナ、どうしてそんなに僕を信じてくれるんだい?」と言った。
「だって、あなたのことをよく知っているから」とリアンナは、今度はもっと確信を持って言った。「よほどの理由がない限りあなたは私を仲間外れにしたりしないって分かっている。あなたは私の親友だしこれから何があってもそれは変わらないわ。」
「ああ、ちょっと顔が赤くなってきたな」とローランは言った。「とにかく、理解してくれてありがとう。」
「来てくれてありがとう」とリアンナは答えた。「とても親切にしてくれたわ。」
「『衝動的』という言葉が適切だと思う。間違いじゃなかったらいいんだけど」とローランは言った。「それから、州選手権優勝おめでとう。」
「ありがとう」とリアンナはすでに感動で胸がいっぱいだった。 「せっかくここまで来たんだから一緒に『大決闘・バッシュ・ブラザーズ』でもやらない?」
「プレイヤー1のコントローラーは僕が先に予約するよ。」
***
しばらくしてローランはすっかり気分の良くなった様子で本部へと戻ってきた。角を曲がったところで彼はカイルと鉢合わせた。
「いたいた!」とカイルが言った。「探してたんだよ」
「リアンナのところに行ってたんだ」
「で、二人の仲はうまくいったのか?」
「そうだといいんだけどな」とローランは言った。「まあ念のため、彼女に『イーグル・パンチ』を何発か食らわさせてやったけど」
「ああ、『大決闘・バッシュ・ブラザーズ』でひと勝負ってわけか。そりゃあ効きそうだ」
「いつだって効くさ」ローランは手袋を整え服についた埃を軽く払った。「で、何の用だ?」
「メレディスを外に出してやれ」
「はあ?」
「メレディスを外に出してやれ。新鮮な空気を吸わせてやれ。日光を浴びさせてやれ」とカイルは言った。「彼女はもう何日も地下に閉じ込められているんだ。もし俺が彼女の立場だったら、きっとキレて外に出させてくれない奴らを全員ぶちのめしていただろう」
「冗談じゃない。お前がお前を取り囲んでいる騎士たち全員をぶちのめせるわけがないだろう」とローランは言った。「だが真面目な話、俺が聞き間違えたのか? カオジェンの信徒どもが彼女を探しているのに彼女を外に出すって言うのか?」
「警備はついているだろう?」
「もちろんだ」
「よかった」とカイルは言った。「俺も一緒に行く」
「お前はまだ騎士になるかどうかさえ決めていないじゃないか」とローランは言った。
「いいか、たった一日だけだ」とカイルは言った。「一日だけでいいんだ。氷の彫刻祭に連れて行くだけさ。ここからたった10キロもしない場所にあるんだから。RJ、頼むよ」ローランがまだためらっている様子だったのでカイルは付け加えた。「彼女はあんたの囚人じゃないんだからな」
ローランはうんざりしたようにため息をついた。「自分の判断としては間違っているかもしれないし後悔することになるかもしれないが……まあ、君には借りがあるからな。いいよ、彼女を連れ出してやれ」
「やった、RJ! 最高だよ! 本当にありがとう!」カイルはそう叫ぶと駆け出そうとしたがローランに呼び止められた。
「それからもう一つ」とローランは言った。「後でデートの詳しい話を聞かせてもらうからな」デートなんかじゃないと抗議し始めたカイルを横目にローランはくすりと笑った。
『エンデクライオンの騎士団』をお読みいただき、誠にありがとうございました。
物語は続きますので、どうぞお楽しみに。




