第十二話 氷の彫刻祭
どうぞ、お読みください。 もし、難しい漢字などがありましたら是非教えください。
サーラはカイルのように、生まれつき武術の才能に恵まれていたわけではなかった。父親から長年にわたりあらゆる戦闘技術を叩き込まれてきたものの、カイルの驚異的な習得スピードについていくことさえ容易ではなく彼女は常に人一倍の努力を強いられていたのだ。ただ一つ例外があった。それは弓術である。サーラは幼い頃から弓の才能があることに気づいており機会さえあれば絶えず練習に励んでいた。そうした経緯もあり彼女は今「騎士団」の弓術場で次々と標的に向かって矢を放っていた。
「やった、ど真ん中!」放った矢の一つが的の中心を射抜くと彼女は声を上げた。
「素晴らしい」と、訓練を見守っていたトビーは言った。「弓矢の腕前は相当なものです。これは役に立つでしょう」
「本当?」とサーラは尋ねた。「サイリック・シールドを持った相手に矢を放っても効果はないと思っていたわ」
「役に立つテクニックがあるんです」とトビーは言いながらトランプを取り出した。「サーラさん、思い出してください。パインシャックルでの小競り合いの間私がトランプを投げた時、何か変わったことに気づきましたか?」
サーラは少し考えた。「あなたのカードが私たちの拘束具に当たった時はナイフのように切り裂いたわ」と彼女は言った。「でも、カオジェンの信徒に正面から当たった時はもっと固い衝撃だった」
「その通りです」とトビーは言った。「普段、私はカードを投げる時は投げナイフのように使っています」。実演するために彼はカードを的に投げつけるとダーツのように突き刺さった。 「しかし、ある特定のテクニックを使えば――」彼は別のカードを投げると今度はまるで砲弾が命中したかのように標的が完全に吹き飛んだ。
「わおっ」とサーラは言った。「どうやったの?」
「カードに『サイリック・シールド』を広げて重ねました」とトビーは言った。「これは『フィジカル』が『エレメンティアン』のような指向性エネルギー攻撃を効果的に利用するための手法なんですけど、物理的な投射物をエネルギーで包み込む必要があります。それに、エレメンティアンの場合と同じで使いすぎるとサイリック・シールドを消耗してしまいます」
「わかった、私もやってみる」サーラはそう言って弓に別の矢をつがえた。
「自分のサイリック・シールドを思い浮かべてみてください」とトビーは指示した。「体を包み込むバリアのようなものを想像する。それから、そのバリアが自分だけでなく矢も一緒に包み込んでいるところをイメージしてみてください。視覚的なイメージを作ることが鍵です」
サーラは自分だけでなく矢も包み込むようにサイリック・シールドをイメージしてみて矢を放った。矢は標的に命中して1メートルほど吹き飛ばしたがトビーのカードの時のように完全に破壊することはできなかった。
「まあ、イメージを使ってサイリック・シールドを自在に操れるようになるにはある程度の練習が必要ですからね」とトビーは言った。
「おや、これは? 『シールド・エクステンション』の練習中か?」弓術場に入ってきたローランが言った。「サーラ、訓練が終わったなら作戦室に付き合ってくれないか?」
「作戦室? 何のために?」サーラが尋ねた。
「カイルとメレディスの様子をこっそり探るんだ」
「案内して!」
***
毎年、11月下旬の初雪からクリスマスにかけてナイツレストの町の郊外では「氷の彫刻祭」が開催されます。半世紀近くにわたり世界中から集まった雪や氷の彫刻家たちがこの小さな町を訪れ、氷を削り出して美しさと気品に満ちた芸術作品を作り上げてきました。しかし、このフェアの魅力は氷の彫刻だけにとどまりません。町最大級の社交イベントとしても親しまれているのです。冬のカーニバルならではのゲームは定番の楽しみですし、近くのスケートリンクも多くの人々を惹きつけています。屋台では絶品の軽食が味わえるほか、雪の降る寒空の下での食事を好まない方々のために屋内フードコートや休憩エリアも用意されておりそこは人々が交流を楽しむ心地よい空間となっています。
カイルは今、高さ約7.6メートルあるペンギンの彫刻を眺めていた。「氷、雪、ペンギン……悪くはないけど、いかにも『そのまんま』なテーマって感じだな。もっと独創的なものは思いつかないのか?」と彼は言った。
「人は馴染みのあるものを好むものよ」と、すぐ隣にいたメレディスが言った。彼女はまたしても厚手の冬用コートを着込み、ファー付きのフードを深くかぶっていたがその緑色の瞳は楽しげに輝いていた。「そういうのは間違いない選択だもの。『馴染みがある』っていうのは無難で安全なのよ」
「『馴染みがある』なんて退屈なだけだ」とカイルは言った。「だって、そうだろう? 独創性はどこにあるんだ? 革新性は? あの失敗を恐れずに突き進むような気概はどこへ行ったんだ?『当たって砕けろ』はどうした?」
メレディスは笑いながら言った。「カイル、あなたアーティストになったらどう?」
「まさか。彫刻なんてどうやったってまともに作れないよ」カイルは素っ気なく答えた。「九つの頃、粘土でトラの彫刻を作ろうとしたことがあるんだけどRJに『出っ歯のブタみたいだ』って言われたんだ」メレディスがまた笑い出すとカイルはうんざりした様子で彼女を睨み、「笑い事じゃないよ」と言った。
「笑えるわよ」とメレディスは言った。「その小さな彫刻を抱えたあなたとローランがズケズケと感想を言う姿が目に浮かぶもの。いかにも彼らしいわ」
カイルはしばらくメレディスを睨みつけていたがやがて観念したように自分も笑い出した。「ああ、そうかもな。確かに笑える話だ」彼はメレディスの手をつかむとフードコートの方へと引っ張っていった。「ほら、何か食べに行こう」
メレディスは二人の手を見つめながら顔を赤らめ、言った。「ええ、そうね。……お腹も空いてきていたし」
「いいよ!好きなものを選んで。俺のおごりだ」カイルは彼女をフードコートに連れて行き、「何にする?」と尋ねた。
「チョコレートアイスをお願い」とメレディスは答えた。
カイルは信じられないといった表情を浮かべた。「外は雪で凍えるほど寒いのにアイスがいいの?」
メレディスはふんと鼻を鳴らし腰に手を当てた。「好きなものを選んでいいって言ったじゃない」と、彼女は不満げな口調で言った。
「わかった、わかったよ」カイルはそう言うと売り場の方を向いて言った。「彼女にはチョコレートアイスを一つ。それから俺はホットドッグを二つ、フライドポテトのLサイズを三つ、チーズバーガーを一つ、プレッツェルを二つ、ポテトチップスの小袋を一つ、あとルートビアを一本」彼はメレディスの方を向き彼女が片方の眉を上げて自分を見ていることに気づいた。「何?腹減ったんだよ」
メレディスはにやりと笑って言った。「あなたらしいわね」
***
「ここはどこ?」とサーラは尋ねた。彼女とローランはエンデクライオン本部の、彼女がこれまで見たことのない一角にいた。そこは青い光に照らされた部屋だった。部屋中には大型のコンピュータ画面が整然と並びそれぞれが多種多様なデータを映し出している。画面の多くには座り心地の良さそうな椅子に腰掛けた騎士たちがつき監視にあたっていた。部屋の奥には映画館のスクリーンほどの巨大な画面がありそこには周辺地域の気象状況が表示されていた。
「ここは作戦司令室だ」とローランは説明した。「『騎士団』のコンピュータ・システムがすべてここで運用されているんだ。衛星スキャンで得たデータを集約する場所でもある」
「『騎士団』が軌道上に衛星を飛ばしているの?」サーラは信じられないといった口調で尋ねた。
ローランはにやりと笑って答えた。「ああ、そうだよ。それもかなりの数をね」。彼は身を乗り出し秘密を打ち明けるような調子で囁いた。「NASAには内緒にしておいてくれよ」。サーラはただ呆気にとられたようにまばたきをするばかりだった。
ローランは部屋の中を歩き回りコンピュータに向かう隠密騎士の面々に声をかけていた。あるコンピュータの前で足を止めるとそこには深い眠りに落ちた隠密騎士の姿があった。彼はキーボードに顔を伏せ頬にはよだれが少し伝っている。ローランがわざとらしく咳払いをする、眠っていたその隊員は半ばパニックに陥った様子で勢いよく身を起こした。「眠ったままでも仕事ができるほど優秀だったとは気づかなかったよ、ソール」ローランは冷ややかな口調で言った。
「申し訳ありません!」ソール・ハウランは狼狽しながら叫んだ。「二度とこのようなことはいたしません!どうか、処分だけは勘弁してください!もう一度だけチャンスをください!」
「おいおい!落ち着け。罰するつもりはないぞ」とローランは言った。「それに、懲戒処分は直属の上司の指示によるものだ。そして今、その上司は君のすぐ上にいる」
「えっ!」サーラとソールは同時に叫んだ。その直後、天井から女性の姿が落下し宙返りをしてしゃがみ込んだ状態で着地した。彼女はそれまで天井の影に隠れて逆さまにぶら下がっていたようだった。
「ローレンス隊長!」ソールは普段とは違う甲高い声で叫んだ。「大変申し訳ございませんでした!カオジェンのタウンゼントを尋問していた夜が長引いてしまい、彼がなかなか頑固だったもので。どうか私の無礼をお許しください!」
その女性が服の埃を払いながら立ち上がるとサーラはようやく彼女の姿をはっきりと目にすることができた。彼女は息をのむほど美しくエキゾチックな魅力を放つ女性だった。肩まである漆黒の髪は絹のように滑らかで毛先は内側にカールしていた。瞳は深みのある翡翠色がかった茶色で唇は鮮やかな赤色をしていた。肌はわずかにオリーブがかった色調で彼女がアジア系、あるいは少なくともアジアの血を引いていることは明らかだった。身にまとっていたのは身体のラインにぴったりとフィットする黒い忍び装束だ。腕の防具から足元の足袋に至るまでその装束は本格的な作りだった。首元には黄色いスカーフをゆったりと垂らし腰にはそれと対になる黄色い帯を締めていた。その帯の両脇には長さ約46センチの武術用武器である「釵(十手に似た金属製の武具)」がそれぞれ差し込まれていた。
女性はハウランを睨みつけ、「今はそんな気分じゃないの、ソール。今は忘れてちょうだい」と言った。
「アイリーン」ローランは厳しい声で言った。「騎士団の懲戒制度を変更するつもりなら僕に相談してほしいものだ」
アイリーン・ローレンスと名乗る女性はローランに気付くと驚いた。「エカルド団長!まあ!」彼女は顔を輝かせて叫んだ。「ここにいらっしゃったなんて気づきませんでした!いついらっしゃったんですか?」
ローランは眉をひそめて言った。「誰の目の前に降り立ったのかも気づかずに俺の前に降り立ったのか?」
「あら、私の腕が少し鈍っているみたい」アイリーンは頬を赤らめながら言った。「最近ちょっと腕が鈍っていたもので。私も任務に出かけた方がいいかもしれませんね」
「気にすんな」ローランは手を振ってその件を片付けた。 「ところでアイリーン、こちらは僕の友人のサーラ・サンダースだ。サーラ、こちらはアイリーン・ローレンス。諜報部隊の隊長で隠密騎士のリーダーだ。」
「あ、ええと、お会いできて光栄です」とサーラはアイリーンに手を差し出した。
「こちらこそ」とアイリーンはサーラの手を取らずにそっけなく答えた。彼女は再びローランに視線を戻し顔に笑みを浮かべた。「団長、何かお手伝いできることはありますか?何でも構いませんよ。」
ローランは瞬きをして、「ええと、いや、大丈夫だよ。どうも」と言った。
「何かあったら…」とアイリーンは甘ったるい声で言った。サーラは思わず吐き気を催したがローランはただ困惑した表情を浮かべた。
「団長、ちょっとこちらを見ていただけますか?」と部屋の向こう側から隠密騎士の一人が声をかけた。
「え?ああ、もちろんさ」とローランは我に返り、「ちょっと席を外すぞ」と言った。
ローランが立ち去るやいなや、アイリーンはサーラに向き直りこう問い詰めた。「一体あなた団長とどういう関係なの?」
「えっ?」サーラは相手の態度の急変に驚き声を上げた。
「聞こえたでしょ」アイリーンは隠しきれない軽蔑を滲ませた声で言った。「はっきり答えなさい。私は団長が親しくする女性には目を光らせているの。団長をいいように利用する女なんて許さないわ。ましてやあなたみたいな『お嬢ちゃん』にね」
「お、お嬢ちゃんですって!」サーラは憤慨して言葉を詰まらせたがなんとか声を抑えて言い返した。「そうね、確かに昔――11か12歳の頃――は、彼にちょっとした憧れを抱いていたかもしれないし、今でも彼が素敵だとは思っているわ。でも、彼は私の友達なの!それだけよ。最初は兄の親友とその親友の妹という関係だったけど時を経て私たちはそれとは別の友情を築いてきたの。過去のくだらない憧れのせいで彼との友情を台無しにするつもりなんて毛頭ないわ!」
アイリーンは少し考えた後、「まあ、それならいいわ。お互い理解し合えたようだし」と言った。彼女はサーラに微笑みかけ、「私たち、仲良くやっていけるはずよ、サーラちゃん」と告げた。
サーラはただ目を丸くして、「あなたがリアンナに会う日が来るのが怖いわ」とつぶやいた。
「何ですって?」とアイリーンが尋ねた。サーラが何か言う前にローランが戻ってきた。
「わりぃ」と彼は言った。「騎士の一人が気象観測について意見を求めてきたんだ。信じられるか?ニューイングランド沖のある一帯に霧がずっと続いているとか言っていたんだ。」
アイリーンは肩をすくめて、「まあ、私の隠密騎士がどんなものかご存知でしょう?ものすごく用心深いんですから…」と言いかけたところで通信機のビープ音が鳴った。彼女は通信機を取り出し話しかけた。「こちらはローレンス…何?」
***
「隊長! 襲撃を……」隠密騎士は言葉を最後まで言い終えることができなかった。刃がその体を切り裂いたからだ。彼は地面に倒れ込み、赤い血が雪を染める中、その亡骸はすでに倒れていた二人の仲間のそれと重なった。フードを被った暗殺者は足元に転がった通信機を靴底で踏み潰すと、刃を外側へと振り抜き付着した血を払った。
「おいおい、お前がプロだって話は本当だったんだな」ダンテ・ゴーシャンは森の中を進む暗殺者の後を追いながら呟いた。
「自分の仕事をしろ」ソランは囁いた。
ゴーシャンは血だまりに目をやりこう呟いた。「こいつらのサイリック・シールドはどうしたんだ?」
***
「この天気ならアイスクリームを食べるのも悪くないかもね。溶けたりしないし」とカイルが言った。彼とメレディスは、屋内のフードコートにあるテーブルの一つに座っていた。
「ああ、このアイス本当に最高よ」メレディスはそう言いながらその絶品をスプーンですくった。「あなたも食べる?」
「ん? さっき俺がすごい勢いで食事を平らげたの見てなかったの?」カイルは口元にニヤリと笑みを浮かべて言った。
「あなたみたいにあれだけ食べても全然太らない人ならアイスを少し食べたって平気でしょ」メレディスもまたニヤリと笑って言い返した。
「その理屈、気に入ったよ」カイルは笑いながら言った。「さあ、食べさせてよガールフレンド!」
「ガールフレンド」という言葉を聞いてメレディスの胸の奥が温かくなった。彼女はそれを悟られないようにしながらアイスをすくいカイルの口元へ運んで食べさせてあげた。カイルは少しも恥ずかしがる様子を見せなかった。
「んー、最高だね」とカイルは言った。
メレディスは微笑んで言った。「こんなに楽しいのは…そう、ずいぶん久しぶりだわ。」
カイルはメレディスの手を握り、「話したくないなら話さなくてもいいよ。でも、もし話したくなったらいつでも聞くからね。」と言った。
メレディスはうなずき目に涙を浮かべながら「ありがとう」と囁いた。二人の視線が交わり彼の青い瞳が彼女の緑の瞳を数秒間見つめた後二人とも顔を真っ赤にして目を逸らした。
「えっと、あの、アイススケートやってみない?」とカイルが尋ねた。
「え?もちろんよ。」とメレディスは答えた。二人は立ち上がり、手をつないだままアイスリンクへと向かった。
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「ドーソン? ドーソン? 返事をしてよ、頼むから!」アイリーンは通信機に向かって叫んだ。ノイズしか聞こえないと彼女は通信機をしまい困惑した様子でローランの方を向いた。「団長、氷の彫刻展の周辺を警備していた私の隠密騎士に何かが起きたようです。襲撃されたような音がしました」
サーラは驚いてローランの方を振り向いた。ローランは目を細めその表情は恐ろしいほど険しくなっていた。「カオジェンか?」彼は危険なほど低い声で尋ねた。
「その可能性が高いわ」とアイリーンは言った。彼女は一瞬ためらってから続けた。「あ、あの……襲撃者の声が聞こえた気がするの。すごく低い声だったから聞き間違いかもしれないけれど……確かなことは言えないけど、でも……」
「いいからさっさと言え!」ローランが声を荒らげた。
アイリーンはローランの視線を受け止めた。その瞳には恐怖が色濃く浮かんでいた。「団長、私……あれはエッグゼービエル・ソランだったと思うわ」
『エンデクライオンの騎士団』を読んでありがとうございます。前書きにも書きましたがもし、難しい漢字などがありましたら是非教えください。物語は続きますのでこれからもお楽しみください。




