外伝その2 ― ヴァルキリーズ(中)
引き続き外伝ストーリーです。
地上ではネイサンと香は、まだ公園のベンチに座り込み、沈んだ様子でいたが、やがて猫たちが走り去っていくのに気づいた。その直後、パトカーのサイレンが鳴り響くのが聞こえてきた。
「えっ? 何が起きてるんだ?」ネイサンが声を上げた。
「テロリストだ!」と野次馬の一人が叫んだ。「テロリストがビルを占拠したんだ!」
「テロリスト?」香が驚きの声を上げた。「ここで? 日本で?」
「何だか妙な話だな」とネイサンは言った。「様子を見に行ってみよう」
***
高層ビルの上層階では、テロリストたちが人質を一か所に集めていた。人々が集められる中、ノーラはアンヌリーゼにささやいた。「このテロリストたち、カオジェンじゃないみたいね」
「気づいているわ」アンヌリーゼもささやき返した。「エンデクライオンはカオス・ジェネレーションズとばかり戦っているから、超力者の犯罪者の中には、カオス・ジェネレーションズとは無関係な連中もいて、エンデクライオンが対処すべき相手になり得るってことを忘れがちになるのよね」
「黙れ!」テロリストの一人が彼らに向かってライフルを突きつけ、怒鳴り声を上げた。「リーダーが演説をしている間は、大人しくそこにいろ」
人質の中にはテレビの撮影クルーが混じっており、テロリストのリーダーは彼らの生中継を利用して自らの要求を突きつけた。「我々は『至高の存在組織』だ」と彼は宣言した。「人類を超越し、より高次の存在へと進化した半神の集団である。ゆえに、至高の存在として、ここに要求を提示する。第一に、日本政府は東京の特別区のうち三つを我々に割譲すること。第二に、人質の解放と引き換えに、日本政府は500億円の身代金を支払うこと。要求を呑むまでの猶予は24時間だ。そして、我々が本気であることを示すため、人質の一人をその見せしめとする」
リーダーは人質たちをちらりと見ると、「あの外国人の女を捕まえろ」と命じた。人質の一人がアンヌリーゼの腕を掴み、無理やり立たせた。ノーラが抗議の声を上げようとしたが、アンヌリーゼが「動かないで」と目で制したため、口をつぐんだ。
リーダーはアンヌリーゼをじろりと見回した。「ふむ。外国人だという理由で見せしめにしようかと思っていたんだが……こうして間近で見ると、なかなかのいい女じゃないか」とリーダーは言った。「よし、こうしよう。見せしめにする代わりに、いくつか選択肢をやる。一つ、お前自身が見せしめにする人質を選べ。そうすれば、お前は俺たちの側について、愛妾になれる。あるいは、解放してくれと懇願する手もある。そうすれば、俺や部下たちが生放送中にたっぷりとお前を可愛がってやれる。それとも、いっそ撃ち殺して終わりにするか」
アンヌリーゼは哀れむような眼差しでテロリストを見つめた。「あなたには分からないでしょうけれど、私はかつて、あなたと非常によく似た思想を持つカルト教団に身を置いていたのよ。やがて私はその教団の手法に賛同できなくなり、幻滅するようになった。そこで、教団が敵とみなす相手に情報を流し始めたの。何か崇高な理念のためとか、世間に何かを訴えるためといった理由ではなかったわ。私としては、ただ命を救いたかった、それだけのことだった。でも、その行為が教団に露見すると、私は暴行や拷問を受け、死の淵まで追い込まれた。あのような目に二度と遭うつもりはないし、ここにいる誰にも、あんな目に遭わせるつもりはないわ」
テロリストは一瞬アンヌリーゼを凝視すると、銃を構え、彼女の額に向けて発砲した。アンヌリーゼは床に崩れ落ちた。「惜しいことをした」とテロリストは言った。「実にいい女だったんだがな」
テロリストがカメラクルーの方を振り返ると、驚いたことに、カメラに投げナイフが突き刺さっていた。気づいた時には、彼自身の銃が不意に真っ二つに切断されており、アンヌリーゼが彼の隣に立って、その喉元にナイフを突きつけていた。彼女はラベンダー色のスーツを脱ぎ捨て、黄金のグレコ・ローマン様式の鎧を身にまとっていた。
「痛っ、今のすごく痛かったわ!」とアンヌリーゼは呟いた。彼女は呆気にとられているカメラクルーに向かって輝くような笑みを浮かべ、こう言った。「ねえ、後で『銃撃を受けたけれど生き延びて、完全に回復する見込みだ』っていう報道を流しておいてくれる?」。それから、同じように呆気にとられているテロリストに目を向け、言った。「何に驚いてるの? あなただって同じでしょう?」
「お、お前も『上位存在』なのか?」とテロリストはどもりながら言った。
アンヌリーゼは呆れたように目を回した。「正しくは『上級職超力者』よ。それに、私たちは上位存在でも、進化した半神でもないわ。超力者じゃない人たちと同じ、ただの人間よ」彼女はテロリストの喉にナイフをさらに深く押し当てた。「私が外国人だからという理由で私を選んだのかもしれないけれど、同じ超力者だからという理由もあったかもしれないわね。超力者には互いに惹かれ合う性質があるの。どうやらその性質が、あなたにとっては仇となったみたいね」
***
地上に降り立ち、超高層ビルの入り口のすぐ前で、ネイサンと香は女子高生のセーラー服を着た少女と鉢合わせた。日本刀を堂々と携えていなければ、ごく普通の少女に見えただろう。
「な……何、あなたは?」と香が言った。
「あら、あんたらもうちとおんなじような人種みたいね」と、その少女ははっきりとした京都弁で言った。「ごきげんよう。うちは琴葉夕霧。いわゆる『至高の存在組織』だかなんかの組織で、傭兵として働いてんねん」
香は目を細めた。「同じような人種って……あなたも『上級職超力者』だと言いたいの?」
「それが正式な呼び方やの?」と琴葉は尋ねた。「勉強になるわ」
ネイサンが一歩前に出た。「どいてくれ、琴葉さん。これ以上、争いを大きくする必要はない」
琴葉は日本刀に手をかけた。「そらできひん相談な」と言いながら、彼女は刀を抜いた。「契約があるさかい、誰でも好き勝手に中へ入らすわけにはいかへんのやで」
ネイサンが言い返そうとしたその時、香が彼の前に立ちはだかった。「ネイサンくん、あなたがこの子を相手にする必要はないわ」香はすでに、竹刀袋から自身の日本刀を引き抜いていた。「彼女の相手は私がする」
ネイサンは一瞬ためらった後、「わかった、香さん。ここは君に任せるよ」と言った。
ネイサンが高層ビルへと駆け出すのと同時に、香は琴葉に向かって疾走した。香が力ずくで琴葉をその場に押し留めようとすると、二人の刀が激しくぶつかり合った。
「あらあら、香はん、どしたかいな? うちら、ほんまに同類みたいね。『上級職超力者』かいな?」琴葉は狂気じみた笑みを浮かべ、その瞳には凄まじい殺気が宿っていた。「ようやく見つけたわ。一撃で首を刎ね飛ばせへん相手ってやつをな!」
琴葉は踏み込み、刀を横薙ぎに振るった。香は後方へ跳んでその一撃をかわすと、困惑した表情で琴葉を見つめた。「あなた、どうかしてるわ!」
琴葉はただ不敵に笑い、再び香に斬りかかった。金属同士がぶつかり合う音が響き渡る中、二人の女剣士はたちまち超高速の斬り合いを繰り広げ始めた。
***
アンヌリーゼは周囲に鋭く視線を走らせた。テロリストのリーダーを人質に取ってはいたものの、残りのテロリストたちは依然として招待客や観光客を人質に取っていた。実質的に、膠着状態に陥っていたのだ。
突如、テロリストの一人が顔面にエネルギー弾を直撃され、その場に倒れ込んだ。他のテロリストたちが事態を把握する間もなく、ブレア・タイラーが現場に駆け込み、二丁の銃からエネルギー弾を放ち始めた。彼女はテロリストの集団の只中へと飛び込み、巧みな連射で次々と敵を撃ち抜いていく。わずか数秒のうちに、およそ7人のテロリストが彼女の銃撃によって吹き飛ばされた。
混乱に乗じて、テロリストのリーダーがアンヌリーゼから逃れようとした。しかし、アンヌリーゼは鋭い手刀を彼の喉元に叩き込む。さらに彼を地面に投げ倒し、頭部を床に打ち付けて気絶させた。続いて彼女は短剣とグラディウスを巧みに操り、周囲にいた数人のテロリストが持つ銃器を次々と切り裂いて無力化した。突然の武装解除に不意を突かれたテロリストたちに対し、アンヌリーゼは二人の頭を互いに激しくぶつけ合わせ、気絶させる。さらに三人目のテロリストの腹部に肘打ちを見舞い、グラディウスの柄頭をこめかみに叩き込んでとどめを刺した。背後からアンヌリーゼを襲おうとした別の二人のテロリストも、ブレアの銃撃によって無力化された。
「何をしているんだ!」と、残党の一人が叫んだ。「我々と同じく、お前たちも選ばれた超越的な存在のはずだ! それなのに、あの凡庸な愚か者たちの味方をするというのか? 無知な大衆を支配するのは我々に与えられた神聖な権利であり、神となることこそが我々の宿命なのだ――」
ブレアは銃口を彼に向けた。「シェイクスピアの言葉を借りるなら、『これ以上ないというほど無意味な戯言』だわ」彼女が引き金を引くと、エネルギー弾の直撃を受けたテロリストは意識を失い、その場に倒れ伏した。
数分のうちに、テロリストたちは全員片付けられた。
「ふぅ、時間がかかってごめん」とブレアは言った。「どうしてもという状況じゃない限り、こいつらをテレビの生放送に映すのは避けたかったのさ」。彼女はアンヌリーゼの方を向き、「カメラを潰してくれて助かったわ。おかげでタイミングを合わせやすかった」と礼を言った。
「どういたしまして」とアンヌリーゼは答え、意識を失って倒れているテロリストたちを見回した。「全員気絶させちゃったのは問題かもしれないわね。まだ他にテロリストがいるかどうかわからないんだから」
「それは私がなんとかするわ」ブレアはそう言うと、テロリストのリーダーの襟首を掴み上げ、その顔を平手で叩き始めた。やがてリーダーは朦朧としながら目を覚ました。「おい、この辺りに仲間は他にいるのかい?」
事態を理解したテロリストのリーダーは、即座に口を閉ざした。
ブレアは怒りの声を漏らし、銃口をリーダーの頭に向けた。「喋らないと……」と脅しをかけるが、リーダーは頑として口を開こうとしない。
「私にやらせてみて」と、近くから小さな声が聞こえた。その間、人質たちをなだめていたノーラだった。彼女は前に出ると、「あの……テロリストさん。失礼しますね」と言った。
「何だ?」ノーラが額に触れると、リーダーは声を上げた。ノーラの指先から柔らかな青い光が放たれ、リーダーはトランス状態に陥ったようだ。
「ノーラ?」とアンヌリーゼが尋ねた。
「私のエレメンティアン能力は、心を読めるの」とノーラは目を閉じたまま言った。「表面的な思考だけだけどね。深いところまでは無理。この人が今まさに考えていることなら……」突然、彼女は目を見開き、恐怖に満ちた表情で叫んだ。「爆弾があるわ!」
外伝ストーリーは面白いですか?外伝はあと一話残っていますのでお楽しみください。




