第十九話 過去:裏切り者
はい、「過去編」の話です。注意してください。
過去
訓練プログラム終了の前夜だった。明日の夕方には、新兵たちのうち何人が――あるいは誰もいないかもしれないが――正式な「シャドウ・ストーカー」になれるかが決まる。トビーとアンヌリーゼの関係は、誰もが認める恋人同士と言えるほどに深まっていた。初めてキスをした時のように激しく求め合うことはなくなったが、二人は互いの存在に安らぎと充足感を覚えるような関係になっていた。今、二人は訓練場の外にある砂丘に座り、ただ一緒にいる時間を楽しみながら星空を眺めていた。
「明日で全部終わっちゃうのね」とアンヌリーゼが言った。「すごく長かったようでもあり、あっという間だったようでもあるわ。変な感じよね」
「ああ、そうだな」とトビーが応じた。「いろんなことがあったけど、まるで時間が経っていないような気もする」彼はトランプのカードを一枚、砂の上に放り投げた。「それに、俺はまだ『シールド・エクステンション』のコツを掴めていないし」
「正直なところ、私はこの課程に合格できた気がしないわ」とアンヌリーゼは言った。「合格できなかった人たちはどうなると思う?」
「コロッサイ教官は、合格できなくても信徒として仕えることはできるって言ってたけどな」とトビーは言った。「でも、ここを離れた後もみんなと連絡を取り合えるかどうかは分からない」彼はそう言うと、ポケットから何かを取り出した。「だから、これを今、君に渡しておきたいんだ」
「トビー?」とアンヌリーゼが尋ねた。そして、彼が差し出したものを見て、彼女は息を呑んだ。
それは指輪だった。安っぽい金属製の指輪だったが、紛れもなく指輪だった。アンヌリーゼがトビーの顔を見上げると、彼は真っ赤になっていた。
「婚約指輪じゃないんだ」とトビーは言った。「これは『約束の指輪』。プログラムが終わっても一緒にいようっていう約束さ。それから、いつかこれを本物の婚約指輪に、そして結婚指輪に替えようっていう約束でもある」
「トビー」とアンヌリーゼは満面の笑みを浮かべて言った。彼女が左手を差し出すと、トビーは優しくその指に指輪を通した。それからアナリースは彼にキスをした。二人が離れると、彼女は月がどれくらい高く昇ったかを見上げ、「もう遅い時間ね」と言った。「明日は大事な日だから、そろそろ行きましょう」
「わかった。おやすみ」とトビーは言った。「また明日」
***
翌日はあっという間に過ぎ、やがて夕刻を迎えた。訓練課程を終えた新兵たちは、一部のテーブルが片付けられた食堂へと集められた。そこには、迷彩柄の制服に身を包み、各自の武器を携えた新兵たちが整列していた。
トビーは一日中、アンヌリーゼを見かけていなかった。それは珍しいことではあったが、必ずしも不安を抱くような事態ではない。しかし、食堂に集まった新兵たちの中に、アンヌリーゼを含む数名の姿がないことにトビーはすぐに気づき、嫌な予感を覚えた。
新兵たちが整列し終えると、食堂を見下ろす中二階の通路にマクシミリアン・コロッサイが現れた。「諸君、一年間にわたる訓練課程の修了、おめでとう。カオス・ジェネレーションズは、これほど献身的かつ強力な戦士たちを信徒として迎えられることを誇りに思う。だが、『シャドウ・ストーカー』の列に加わることができるのは選ばれし精鋭のみであり、本日、諸君の中からその栄えある『シャドウ・ストーカー』に加わるのは、わずか二名と決定した」。コロッサイは一瞬言葉を切り、こう続けた。「しかし、その二人のシャドウ・ストーカーのうち、一人はすでに確定している。もう一人の枠については、まだ二人の候補者が残っているのだ」
この異例の事態に、新兵たちの間にざわめきが広がった。トビーの不安が晴れることはなかった。
「まずは、新たな『シャドウ・ストーカー』として確定した者に、心からの祝福を贈ろう」とコロッサイは言った。「前へ出よ、19番、ヴァージル・コリン!」
ヴァージルが前に出ると、新兵たちは一斉に歓声を上げ、喝采を送った。アンヌリーゼへの懸念は拭えずにいたものの、トビーはヴァージルのために心から喜び、彼への声援に加わった。
コロッサイが新兵たちを静まらせるように合図を送った。場が静まると、彼はこう言った。「さて、次は二人目の『シャドウ・ストーカー』の選出だ。まずは、候補者二名が前に出てきてくれ」彼は深く息を吸い込み、声を張り上げた。「5番、張浩宇、そして20番、トバイアス・ハートウェル、前へ!」
トビーは前に進み出ると、5番――いや、張浩宇と並んでコロッサイの前に立った。呼び出されたとはいえ、トビーの胸中には日に日に不安が募っていた。
「本来なら、二人目のシャドウ・ストーカーにはトバイアス・ハートウェルが選ばれるはずだった」とコロッサイは言った。「だが、最近のいくつかの出来事により、トバイアス・ハートウェルの忠誠心を疑うべき理由が生じた。諸君、残念ながら我々の中に裏切り者がいたことが発覚したのだ。候補生の一人がエンデクライオンの密告者となっていた。彼女はエンデクライオンに情報を流し、この地域における我々の作戦をいくつも妨害していたことが判明した。そして、トバイアス・ハートウェルが彼女と結託していた可能性を示す根拠もある」
トビーの不安は、完全な恐怖へと変わった。
「裏切り者を連れてこい」とコロッサイが命じた。
姿を見せていなかった候補生たちが一斉に入ってきて、ある人物を引きずり込んできた。その姿を目にしたトビーは、思わず「噓!」と叫んだ。
それはアンヌリーゼだった。彼女は打ちのめされ、無残な姿をさらしていた。全身は切り傷や打撲傷だらけだった。彼女が上級職超力者であることを考えれば、これほどの重傷を負わされるには、凄惨な拷問を受けたに違いない。トビーは彼女の元へ駆け寄ろうとしたが、ヴァージルが無表情のままその肩を抑え、彼を押しとどめた。
コロッサイは、アンヌリーゼを支えていた新兵たちに合図を送った。彼らが乱暴にアンヌリーゼの顔を掴むと、彼女は悲鳴を上げた。「言え、18番」とコロッサイは言った。「エンデクライオンと接触した際、20番は協力したのか?」
「か、彼には……私の行動は……何の関係も……ないわ」とアンヌリーゼは言った。「す、すべて……私……ひとりで……やったの……」
「ほう、本当か?」と張が薄笑いを浮かべて前に出た。「お前と20番……いや、お前とハートウェルは昔からかなり親密だったはずだ。彼がお前の行動に一切関与していないなんて、信じがたいな」張は明らかにこの状況を楽しんでいた。
「か、彼は……無実よ」とアンヌリーゼは言った。「わ、私が……彼を……利用しただけ……か、彼は……何も……知らないわ」
「ふむ。そうか?」張は少し残念そうに言った。「まあ、ハートウェルが無実を証明する方法が少なくとも一つはある。」彼は強引にアンヌリーゼを掴んで立たせ、彼女に悲鳴を上げさせた。そして彼女をトビーの腕の中に突き飛ばした。「やれよ、ハートウェル」
「何だって?」トビーは信じられないといった様子で声を上げ、アンヌリーゼの体を優しく支えた。
「驚いたな。どうやら、まだ彼女を抱いていないようじゃないか」張は薄笑いを浮かべて言った。「なら、いい機会だ。やれよ、ハートウェル。今ここで、すぐにだ。その後は、俺たち全員が彼女を抱くことになる。もし彼女がそれに耐え抜けば、残りの人生を繁殖プログラムに捧げることになるだろう。それが裏切り者にふさわしい罰だ」
トビーは信じられない思いで張を見つめた。だが、次に彼を驚かせたのはアンヌリーゼの一言だった。「や、やって……トビー……」 苦悩の表情で彼女を見下ろすトビーに、彼女は悲しげな微笑みを向けた。「あ、あなたが相手なら……受け入れられる……。も、もしあなたが……私の……最初の人なら……そ、そのあとは……何だって……耐えられるから」 言葉とは裏腹に、トビーには彼女の涙ぐんだ瞳に宿る恐怖が見て取れた。
「どうしてそんなことが言えるんだ?」トビーは声を荒らげた。「こんなの、間違ってる!」
「こ、こう考えてみて……」アンヌリーゼは言った。「あなたは……『カオス・ジェネレーションズ』の……一員なんだから……つまり、私は……あなたを……裏切ったことになる……。私は……あなたを……利用したんだから」
トビーはアンヌリーゼを見下ろした。それから、自分たちを取り囲む新兵たちに目をやった。彼らは皆笑い声を上げ、明らかにアンヌリーゼと交わる自分の番を心待ちにしていた。女性の新兵たちでさえ、「見もの」を楽しみにしている様子だった。その光景を目の当たりにし、トビーはうなだれるように顔を伏せ、周囲に響く笑い声を耳にした。
その瞬間、彼の中で何かがぷつりと切れた。
狂気を帯びた笑みを浮かべ、彼は言った。「なるほど、これが『カオス・ジェネレーションズ』の正体ってわけか」
「ト、トビー?」急激に変わった彼の様子に気づき、アンヌリーゼが声を上げた。
トビーはアンヌリーゼをそっと床に寝かせると立ち上がり、流れるような動作で大鎌を掴み取った。だが、その大鎌で最初に行ったのは、背後から投げつけられた投擲ナイフを弾き落とすことだった。トビーは肩越しに振り返り、ナイフを投げた相手――ヴァージル・コリン――を睨みつけた。
「それがお前の出した答えか?」トビーは言った。ヴァージルの行動に驚いた様子は微塵もなかった。
ヴァージルもまた、彼を睨み返した。「お前がそう決めたからこそ、俺もこう決めたんだ」
「全員、聞け!」コロッサイが叫んだ。「どうやら我々の中に、二人の裏切り者が紛れ込んでいるようだ」
面白かったですか?何度も忠告しますが「過去編」と「現在編」の二種類の話があるので注意してください。




