第七話 騎士団本部
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「さあ、起きた!ほら、ベッドから出るんだ」ローランはそう叫びながらカーテンを開け放った。窓から差し込んだ光がカイルの顔を直撃する。彼はうめき声を上げると頭からすっぽりと布団をかぶった。
「あっち行ってくれよRJ」と彼はうめいた。
「はい、おはよう」ローランは応じた。「ほら、起きろ。お前とサーラに本部を案内してやるから」
「土曜日だし、まだ早い時間だろ」カイルは不満げに言った。
「まったく、もう朝の九時近いんだぞ。サーラはもう食堂で朝食をとっているよ」
「朝食?」カイルは突然起き上がり「どうしてもっと早く言ってくれなかったんだ?」と言った。数分もしないうちにカイルは目を覚ましシャワーを浴びて服を着た。「よし、ここはどんな食べ物があるんだ?」
「いつも胃袋のことばかり考えているな、カイル」とローランは言った。「さあ、行こうか?」
「ところで」とカイルは言った。「あの光はどこから来たんだ?ここは地下だと思っていたのに。」
「技術騎士の創意工夫とでも言うか」とローランドはニヤリと笑って言った。「詳しい仕組みは分からないが鏡に関係していると思う。後でコーディに聞いてみろ。」
「コーディ?」
「彼が技術部隊の隊長だよ」ローランはそう言いながらカイルを連れて部屋を出た。「でも彼に会うのは後回しにして、とりあえず何か食べに行こう」
「いい考えだ」カイルは言った。「そういえば眼鏡をかけてないんだな」
「ああ、正直なところ眼鏡は必要ないんだ」ローランは答えた。「制服姿に似合うと思ってかけているだけだよ」
「なるほどね」カイルは言った。「ところで俺はまだお前に対して少し怒ってるからな」
「わかっているよ」ローランは言った。「さて、ここがメインホールだ」
昨夜は周囲が暗すぎて何も見えなかったが、明るい光の中でその「大広間」を目の当たりにしたカイルは思わず息を呑んだ。広さはサッカーフィールドほどもあり天井の高さは野球のドーム球場に匹敵するほどだった。壁面には4層のフロアが設けられ、そこから多種多様な機能を持つ部屋や区画へと通じる通路が伸びている。数多くの階段に加えエレベーターやエスカレーターも設置され人々を各階へと運んでいた。1階の中央には噴水があり、そこには稲妻のように少し上向きに傾いたアルファベットの「E」を模したホログラムの彫刻が据えられていた。その「E」の文字の基部には「正義の栄光のために、騎士たちよ、集結せよ」という言葉が刻まれていた。
「なんてこった」とカイルは呟いた。「それにしても随分と人が少ないな」――彼は人の気配の乏しさに目を向け、そう口にした。
「戦闘部隊の『戦闘騎士』の多くは現在海外の各支部に派遣されているんだ」とローランは言った。「俺の弟もその一人だ。それに、今は全体的に人手不足でもあるしな」
「弟さんもか? ふむ、どうりで最近学校で見かけないと思ったよ」
「まあ、もうすぐ帰ってくるはずだけどね」とローランは続けた。「だから、彼らの多くは海外にいてここでは戦闘騎士の姿を見かけることはないだろう。むしろ目にするのは『警察騎士』ばかりになるはずだ」そう言ってローランはメインホールに点在する黒いスーツを身にまとった男たちを指し示した。
「『ファイターナイト』だの『ポリスナイト』だのって一体どういうことなんだ?」
「ああ、そういえば説明し忘れていたな」とローランは言った。「それは騎士団の組織構造のことだよ。俺が騎士団長で、そのすぐ下が副団長のトビー。トビーの下には騎士団内の六つの部隊を統括する隊長たちがいる。最大かつ最も一般的なのが戦闘騎士を擁する『戦闘部隊』だ。それから、警察騎士の『治安部隊』、技術騎士の『技術部隊』、治癒騎士の『医療部隊』、隠密騎士の『諜報部隊』、そして最後に聖騎士の『聖職部隊』がある」
「ホーリーナイト?」
「ああ、彼らは宗教関連の活動に加えカウンセリングや士気高揚の任も担っているんだ。図書室の運営もね。おっ、着いたぞ」ローランとカイルは噴水の近くにある一階の部屋に入った。そこは食堂だった。猛烈な食欲に駆られていたカイルがビュッフェの料理を貪る一方でローランは軽めの朝食をとった。
食事の最中ローランは噴水の向こう側で何やら騒ぎが起きていることに気づいた。彼は食事中のカイルをその場に残し様子を見に向かった。数名の警察騎士たちが何者かを囲んでいたがローランが近づくと彼らはすぐに道を空けた。そのうちの一人の警察騎士がローランの方を向き敬礼した。
「団長、まさに絶妙なタイミングでお越しいただきました」と彼は言った。「侵入者を捕らえたところです。」
「一体何度言えばわかるの!私は侵入者じゃないの!もう放してよ!」ローランにとって恥ずかしいことにその「侵入者」はサーラ・サンダースだった。
「ああもう、最悪だ」とローランは額に手を当てながら呟いた。「ランドール、仕事に熱中しすぎるなと何度言えばわかるんだ?彼女は客だ。俺と一緒だ。」
かの警察騎士はこれを耳にし、「失礼いたします」と彼は言い、他の警察騎士たちにサーラを放すよう合図を送り彼らはそれに従った。サーラは服についた埃を払いながらその男を睨みつけた。「乱暴な扱いをしてしまい申し訳ございませんでした」
「どうでもいいわ。さっさと仕事に戻りなさい」とサーラは言い放った。
「承知いたしました。騎士団へようこそ」そう言って警察騎士たちはそれぞれ持ち場に戻った。
「今の男は治安部隊の隊長であるランドール・ギブンズだ」とローランは言った。「すまなかったね、サーラ。彼は『治安部隊』の組織・運営に関しては実に優秀なんだが、時折仕事に熱中するあまり少々生真面目すぎるところがあってね」
「おい、何があったんだ?」カイルが彼らの輪に加わりながら尋ねた。
「気にしなくていいわ」サーラはきっぱりと言い放った。
カイルは眉をひそめ「俺はお前の兄だぞ。気にしないわけがないだろう」と言った。
「ほんのちょっとした行き違いだよ」とローランは言った。「さあ、行こう。医療棟はこの先だ。君たちもメレディスに会いたくて、うずうずしているんだろう?」
ローランは彼らをすぐ近くの階段へと案内した。白く塗られた壁や簡素な椅子が並ぶその空間は病院のロビーによく似ていた。そこではトビー・ハートウェルが彼らを待っていた。
「団長、朝の報告があります」と彼は言った。
ローランは頷きカイルとサーラに向かって「中で待っていてくれるか?」と言った。カイルとサーラは互いに顔を見合わせると医療棟の中へと入っていった。ローランはトビーに向き直り「よし、報告を聞こう」と尋ねた。
トビーは頷いてから手に持っていた書類を読み始めた。「まず、メレディス・テランスの経歴が判明しました。彼女はニューヨーク州クイーンズにあるテランス児童養護施設で育った孤児です。」
「つまり、彼女の姓は育った孤児院に由来するんだね?」
「その通りです。彼女は18年前、孤児院の正面玄関に置き去りにされた赤ん坊でした。孤児院の職員が名前を付けたのです」とトビーは言った。「しかし、彼女は約3週間前に孤児院から逃げ出しました。」
「それから間もなくしてカオジェンが赤毛の娘たちをさらい始めた」とローランは言った。「彼女はどうやって生き延びていたんだろうな。あんな魅力的な若い女性が食いつなぐために、どんな極端な手段に出たかもしれないと思うと心配だよ」
「幸いなことに、エリザベスによれば、彼女はまだそこまではしていなかったようです」とトビーは言った。「もっとも、エリザベスは彼女が真剣にそれを検討しかねない瀬戸際まで追い詰められていたのではないかと見ていましたが」
「それより前にカイルやサーラと出会えたのは本当に幸いだったよ」ローランは顎を指で軽く叩きながら言った。「赤毛で緑の目をした『上級職』か。どれくらいの確率なんだ?」
「上級職の超力者全体で見ればおよそ3700万人に1人といったところでしょう」とトビーは答えた。「もっとも、カオジェンが探しているのが女性の上級職に限定されるなら確率はその半分になりますが」
「7400万人に1人、か」とローランは言った。「しかも、その彼女はまさにこの本部にいる。それにしてもなぜカオジェンは彼女を探しているんだ?」彼は首を振った。「で、他には?」
「次の報告ですが」とトビーは言った。「先日ニューヨークで捕獲したカオジェンの監督者の身元が判明しました。名はジョナサン・タウンゼント。カオジェンの『シャドウ・ストーカー』です」
ローランは驚きと呆れが入り混じったような表情を浮かべた。「あいつ『シャドウ・ストーカー』だったのか? あまりに弱すぎて俺は気づきもしなかったぞ」
(実際にはローランが強すぎるせいで並のシャドウ・ストーカーが弱く見えてしまうだけなのだと思うのですが)とトビーは考えた。「いずれにせよ、彼が仕えている人物も特定できました。ジェイムソン・カーンです」
「カーン?」ローランは言った。「あいつはカオス・ジェネレーションズの幹部の中でも最下層だぞ。一体何を企んでいるんだ?アルカンタラが弟子を解雇した後に生じた権力の空白を埋めるために、名を上げようとしているのか?それならなぜメレディスが必要なんだ?」
「残念ながら、私にはさっぱり分かりません」とトビーは言った。「彼が権力の空白に何とかして入り込もうとしているというあなたの推測には同意しますが、具体的にどうしているのかは分かりません。『カオス・ジェネレーションズ』にはあまりにも多種多様な伝統や信仰、慣習が存在するため何か特定のものを断定するのは困難です」
「つまり、彼女の命が危険にさらされている理由として我々が提示できるのは、単に彼女が『7400万分の1』の確率に該当する存在だということだけか」とローランは言った。「彼女はそんな話を素直には受け入れないだろうな」
「それだけではすべての辻褄が合いません」とトビーは困惑した様子で言った。「『闇の預言者』アルカンタラこそが『カオス・ジェネレーションズ』における最終的かつ絶対的な権威です。しかし、ジョナサン・タウンゼントから得た情報によればジェイムソン・カーンは独自の権限でテランス嬢の捜索を行っているようです」
「『闇の預言者』の承認なしにということか」とローランが言葉を継いだ。「だとすればあり得るのか? メレディスが教団内部の権力争いの焦点になっているという可能性が」
「その可能性はあります」とトビーは答えた。
「だが、なぜ彼女なんだ?」とローランは言った。「なぜ『7400万分の1』の彼女なのだ? 『カオジェン』の権力構造を揺るがしかねないほどその遺伝子の組み合わせには何があるというんだ? カーンは何を狙っている?」ローランは少しの間、考えに耽っていた。やがて彼は口を開く。「まあ、あの男は強烈な自尊心の塊であること以外にこれといった取り柄もないから、ソランやブラックハートのような大物を呼び出すとは思えないな。とはいえ、用心は必要だ。カーンが何を企んでいるのかしっかりと警戒しておこう」
『エンデクライオンの騎士団』をお読みいただき、誠にありがとうございました。
物語は続きますので、どうぞお楽しみに。




