第六話 カオス・ジェネレーションズの神殿
第6話です。どうぞ、お楽しみください。
ダンテ・ゴーシャンの機嫌はお世辞にも良いとは言えなかった。屈辱にまみれ激しい怒りを露わにした彼は「カオス・ジェネレーションズ」の神殿の一つ、その薄暗い回廊を荒々しく突き進んでいった。神殿の建築様式は暗黒時代を彷彿とさせるゴシック調のものだった。壁や床は黒い石で築かれ天井は高いアーチを描いている。唯一の明かりは壁に3メートル間隔で吊るされた蝋燭の炎だけでその光はアーチから垂れ下がる無数の蜘蛛の巣を時折きらめかせていた。そして、ゴーシャンの足音以外に聞こえる物音といえば遠くで水が滴る音だけだった。
やがてゴーシャンは重厚な中世風の扉に行き当たった。ひどく古びて重い扉だったが彼はそれを軽々と押し開け勢いよく中へと踏み込んだ。そこは圧倒的な広さと威容を誇る大広間だった。広間の床はすぐに途切れその先には底の見えない巨大な裂け目が口を開けていた。その裂け目の中央には円形劇場のような巨大な建造物が鎮座していた。神殿の回廊と同じ黒い石で築かれ同じ種類の蝋燭で照らされたその場所は、回廊と同様に暗く陰鬱な雰囲気を漂わせていた。その建造物は何本もの木製の橋によって広間の縁と結ばれていた。劇場の奥には黒い縁取りが施された三又の赤い炎を描いた大きなタペストリーが掲げられていた。その炎の形は三叉の槍の穂先を思わせた。劇場内には人影がなかったが、ただ一人豊満な肉体を持つ黒髪の女がそこにいた。灰色の瞳をした彼女は体に密着する黒い衣装を纏い悪意を微かに滲ませた蠱惑的な笑みを浮かべていた。彼女は劇場へと続く橋の一つを渡り終えた威圧的な巨体の男を見上げると不敵な笑みを漏らした。
その女性の姿を認めるとゴーシャンは言った。「アニタ・エヴァナンス」
「あら、ダンテちゃん」エヴァナンスは応じた。「どうして一人で戻ってきたの? 客人を連れてくるはずだったでしょう」
「ちょっとした厄介事に巻き込まれてな」ゴーシャンは吐き捨てるように言った。
「つまり、『エンデクライオンの騎士』に出会っちゃったわけね」エヴァナンスは言った。「ああ、どうして女に仕事が向いているのにいつもこんな野蛮な男に仕事をさせるのかしら」
「あの忌々しい『現代の騎士』相手に、貴様だって大した働きはできていないだろう」ゴーシャンは唸るように言った。「前回遭遇した時だって、貴様は尻尾を巻いて逃げ出し信徒たちが連れ去られるままにしたじゃないか」
「私が臆病者だとでも言いたいのかい?」エヴァナンスは唸るように言った。
「貴様には他にもいろいろ言いたいことがある」ゴーシャンは言い放った。
「あんたは――」
「そこまでじゃ、二人とも!」タペストリーの背後から別の人物が円形広場に現れるとカオジェンたちは言い争いをやめた。その人物は灰色の髪と長い灰色の髭を蓄えた老人だった。彼は優雅な紫の法衣をまとっており、その胸元にはタペストリーに描かれていたのと同じ三叉の炎の紋章があしらわれていた。エヴァナンスとゴーシャンはその老人の前に跪いた。
「ジェイムソン・カーン様」とゴーシャンが言った。
カーンはゴーシャンに深い軽蔑の眼差しを向けた。「それで、ダンテ、あの娘は今どこにいるのじゃ?」
「奴らと一緒です」とゴーシャンは答えた。
「愚か者め!」カーンは唸った。「貴様は事の重大さを理解しているのか?」カーンは二人の前を行ったり来たりし始めた。「赤毛で緑の目の上級職の超力者の女。そんな女が実際に現れる確率は7400万分の1じゃ!カオス・ジェネレーションズはこの娘を何世紀も探し続けてきた!ついにわしが彼女を見つけたのに、わしの指揮下にあるシャドウ・ストーカーたちは何をした?彼女を逃がしたのじゃ!」
「カーン様」とエヴァナンスは言った。「私たちはどうしようもなくて…」
「くだらん言い訳など聞きたくはない!」カーンは怒鳴り声を上げた。「それに、あの愚か者のタウンゼントめ!他の連中の失態なら許せたかもしれん。だが、あの馬鹿者ジョナサン・タウンゼントときたら、こともあろうにローラン・エカルドに我々の計画を悟られるようなヘマをしでかしやがった!おかげで娘はエンデクライオン騎士団の手に落ち、もうアルカンタラにわしの狙いが露見するのも時間の問題じゃろう!」
「カーン様、どうか……もう一度だけチャンスをください」エヴァナンスは懇願した。「必ずやあの娘を捕らえてみせます!」
カーンはエヴァナンスを値踏みするかのようにじっと見つめ首を横に振ると再び歩き出した。「ダンテ・ゴーシャン、ジョナサン・タウンゼント、そしてアニタ・エヴァナンス。わしが『シャドウ・ストーカー』であるお前たち3人を計画に引き入れたのは何よりもその野心を買ってのことだ。お前たちは『カオス・ジェネレーションズ』の現状に満足していなかった。わしと同様、お前たちもまた預言者アルカンタラの指導下にあるこの組織が時代遅れで無用なものになり果てていると考えていたのじゃ。わしと同じように組織の指導体制に変革をもたらそうとしていたはずじゃ」彼は歩みを止め残る二人を睨みつけた。「それなのに、二流の『シャドウ・ストーカー』を選んだ結果がこれか!」
ゴーシャンとエヴァナンスは何も言わなかったがその背筋はこわばった。カーンは再び歩き回りはじめた。「これ以上の二流の仕事は許さん」と彼は言った。「エンデクライオン騎士団からあの娘を奪うとなれば真のプロが必要じゃ。エカルドを相手に互角以上に渡り合える正真正銘の一流エリート『シャドウ・ストーカー』でなければならん」。カーンは歩みを止め吐き捨てるように言った。「エッグゼービエル・ソランを呼べ」
エヴァナンスが息を呑む一方でゴーシャンはあんぐりと口を開けた。「ソランだと?」彼は叫び勢いよく立ち上がった。「ソランを仲間に引き入れるなんてとんでもない!奴は『預言者』と近すぎる」
「今となってはあの男のアルカンタラへの忠誠心などどうでもいい」とカーンは低い声で言った。「わしが気にしているのはあの男がエンデクライオン騎士を殺せる力を持っていることじゃ!今すぐエッグゼービエル・ソランを呼べ!」
ゴーシャンはしばらくの間金魚のように口をぽかんと開けていた。エヴァナンスは震えながら立ち上がり「すぐに呼びます」と言った。
「必ずそうしろ」とカーンは言い、強固な硬直した姿勢で立ち右手を胸に当てて敬礼し「アポカロン・カオスに栄光あれ」と唱えた。
『エンデクライオンの騎士団』をお読みいただき、誠にありがとうございました。
物語は続きますので、どうぞお楽しみに。




