第五話 騎士団長
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「どうして、どうして私たちの名前を知っているの?」サーラが問い詰めた。
トビーは何も言わずスマートフォンのような端末の向こう側のスピーカーから聞こえてくる声に耳を傾けていた。やがて、3人を見上げて言った「団長が君たちと話したいそうです。通信機をスピーカーモードにします。」そう言い彼は通信機のタッチスクリーンにあるボタンを押し3人に向けて掲げた。
「おい、カイル!サーラ!二人ともそこで何してるんだ?」通信機から聞き覚えのある声が響いた。
カイルとサーラは二人とも驚いて目を丸くした。「ローラン?!」二人は同時に叫んだ。
「ああ、僕だよ」と聞き覚えのある声が言った。「それで、さっきも聞いたけど、あんたら二人はそこで何をしているんだ?」
「俺たちがここで何をしているかって?」とカイルは叫んだ。「お前はどうなんだ? なんでこの人はお前のことを『団長』って呼んだんだ?」
「それは、僕がエンデクライオン騎士団の騎士団長だからだよ」ローランはいかにも当然といった様子で言った。「あのさ、通信越しに話すにはあまりに複雑な話だよ。トビー、彼らを本部へ連れてきてくれ。カイル、サーラ、お前たちもトビーと一緒に行ってくれ。彼のことなら僕が保証する」
「それでは、ついてきてください」とトビーは言った。彼は木々の間を縫うように続く森の小道へと皆を案内し始めた。時折誰かに後をつけられていないか確かめるようにあたりを見回しながら。やがてトビーが彼らを連れて行ったのはカイルがすぐにそれと分かった大きな空き地だった。
「パイクの巨岩だ」とカイルは言った。彼が指していたのは、空き地の中央にぽつんとそびえ立つ、高さ約6メートル、幅約4.5メートルもの巨大な岩の塊だった。その岩の大部分は地中に埋まっているようで、カイルと親しい友人たちは子供の頃よくその岩を遊び場にしていたものだ。
「そう、これは『パイクの巨岩』です。騎士団がこの地に移転してきた当初の騎士団長の一人にちなんで名付けられました」とトビーは言った。「外見はただの巨岩に見えるかもしれませんが、実は……」トビーは巨岩に歩み寄りその表面に手を当てた。周囲の者たちが驚く中トビーが触れていた部分が光り始め甲高い機械的な声が響いた。本人確認完了。お帰りなさいませ、ハートウェル副団長」巨岩の表面に扉の輪郭が浮かび上がると重厚なものが動くきしり音を立てながら扉は内側へと開いた。
「なんだ、これは!」とカイルが声を上げた。サーラとメレディスは言葉を失い何も言えずにいた。
「中へどうぞ」とトビーが言い入り口へと入っていった。一瞬ためらったもののカイル、サーラ、メレディスの3人も彼に続いて中に入った。彼らが入るとすぐに扉は閉じ森の空き地にはただ大きな岩が残るだけとなった。
カイル、サーラ、メレディスの3人は完全に閉ざされた薄暗い小部屋の中に立っていた。カイルが何か言おうとしたその時部屋が実際に下降していることに気づいた。彼らはエレベーターの中にいたのだ。
「エンデクライオンの本部はパインシャックル・フォレストの地下にあるのです」とトビーが説明した。「地下なら組織を運営するのに十分なスペースがありますし秘密も守りやすいですからね」
「そう言うなら……」サーラはどこか呆然とした様子でそう言った。
エレベーターはやがて停止し今度は反対側の扉が一般的なエレベーターと同じように横へと開いた。「こちらへどうぞ」とトビーが言い、二人を外へと案内した。カイルとサーラは自分たちが何らかの広い空間にいることには気づいたが、照明があまりにも薄暗く細部までは判別できなかった。
「ここ、本当に暗いな」とカイルは言った。
「もうかなり遅い時間ですからね」とトビーは答えた。「今夜はもう全部閉まっています。明日の朝には本部の様子が見られましょう」
「明日の朝?」とカイルとサーラは同時に言った。
「そうです、団長があなたたちの寝床を用意してくれました」とトビーは言った。「だけど、まずは君たち二人に会いたいそうです。さあ、ここです」
トビーは「騎士団長室」と書かれた看板のある大きなマホガニーの扉まで歩いて行った。彼は扉を三度ノックすると中から聞き覚えのある声が返ってきた。「どうぞ」
トビーはドアを開けて中に入り「連れてきましたよ、団長」と声をかけた。カイルとサーラも続いてオフィスに入った。通信機越しに声は聞いていたものの、オーク材の立派な机の向こうに座るその人物を目の当たりにして二人は大きな衝撃を受けた。そこにいたのは赤と青のボディスーツに身を包み、白い手袋と黄色の靴底の白いブーツを着用した、紛れもないローラン・エカルドだったからだ。
ローランは満面の笑みを浮かべて言った。「カイル! サーラ! よく来てくれたね。正直なところ少し心配していたんだよ」
カイルとサーラは目の前の光景をまだ理解しきれずにいた。「ロ、ローラン?」とサーラは言葉を詰まらせた。「ど、どうして……な、なぜ……」
ローランは照れくさそうににやりと笑い、「ああ、驚いたか?」と尋ねた。
「驚いたかって?」カイルは声を上げた。「RJ、お前が騎士団長なのか?」
「そうさ。もう一年近くになるかな」ローランは自分でもまだその事実に馴染んでいないかのような口調で言った。「想像もつかないだろ? この俺が騎士団のトップ、全騎士の総大将だなんてさ」彼は思案深げな表情を浮かべるとこう続けた。「建前上は最高評議会の指揮下にあることになってるんだけど、あの連中は所詮過去の栄光にしがみつく官僚連中にすぎないんだよな。だから実質的には俺が全権を握っているようなもんさ」彼は声を潜めこう付け加えた。「もちろん、俺がそんなことを言ったなんて絶対にあいつらには言うなよ」
「そ、それじゃあ、ずっと二重生活を送ってたってことか?」カイルは言った。「エンデクライオンの騎士として?」
「ああ。この3年間な」ローランは答えた。「俺の弟もだ」
「弟もだって!?」カイルとサーラは声を揃えて叫んだ。
「いいか、怒ってるのはわかるけど……」
「怒ってる?『怒り』なんて言葉じゃ俺の今の気持ちを言い表すことなんてできないんだよ!」カイルは怒鳴った。「俺たちは親友だろ!それなのに俺には何も教えてくれなかったのか?リアンナにだって!」
「事前に『騎士団』のことを話さなかったのにはちゃんとした理由があるんだよ」ローランはいささか苛立ちを滲ませながら言った。
「お兄ちゃん、もういいじゃない」とサーラが言った。カイルはまだ不満げな様子だったが何度か深呼吸をして心を落ち着かせると小さく頷いた。
「もう遅い時間だから詳しい説明は明日にしよう」ローランは立ち上がりながら言った。「君のお母さんには電話して今夜は僕のところに泊まるって伝えてある。明日は土曜日だし学校の心配はいらないよ。ついでに言っておくが――もう顔は合わせているだろうけど改めて紹介させてくれ。彼は僕の部下の騎士、トバイアス・ハートウェルだ。通称はトビー。僕の副団長であり最も優秀な騎士の一人だよ」
「買いかぶりですよ、団長」トビーは謙虚に言った。
「謙虚でもあるんだな」ローランは言った。「こちらはサンダース家の兄妹、カイルとサーラだ。そして……」そこでローランはようやく三人目の人物へと視線を向けた。「君とは、まだ会っていなかったかな?」
「私?あ、すみません」とメレディスはおずおずと言った。「私の名前はメレディス。メレディス・テランスです。」
ローランは目を細めた。「それで、トビー、彼らがカオジェンに襲われているところを見つけたのか?」
カイルはローランの口調に不安を感じたがトビーが先に口を開いた。「その通りです。森の中を進むカオジェンの一団の後を追っていたところ偶然その現場に遭遇しました。」
ローランは怒って机を拳で叩いた。「ちくしょう!こんなことになるはずじゃなかった!」と彼は叫んだ。「カオス・ジェネレーションズめ!」
メレディスはうつむき目に涙を浮かべた。「ええ、わかっているわ。彼らは私を狙っていたのよ。もし私がカイルとサーラに無理やりここへ連れてきてもらわなかったら……」彼女は小さくすすり泣いた。
「いや、違う! 君を責めているわけじゃないんだ」ローランは声を上げた。「すまない、配慮が足りなかった。カオジェンに狙われているのは君のせいじゃないからね」彼は少し考えこう言った。「こうしてみてはどうかな。もし君がカイルやサーラと一緒にいなかったら今頃はカオス・ジェネレーションズの手に落ちていただろう。言っておくけどそれだけは絶対に避けたい事態だよ」
「でも、どうして彼らは私を狙うの?」メレディスは悲しげに尋ねた。「ずっと彼らから逃げ回ってきたけれどその理由はずっとわからないままなの」
ローランは再び目を細め黙ったままメレディスのほうへ歩み寄った。彼はその茶色い瞳でメレディスの戸惑う緑の瞳を射抜くように見つめ「信じられない」と呟いた。
「何が信じられないんだ?」とカイルが語気を荒らげた。彼はすでに怒りを抑えるのがやっとの状態だった。
「信じられないというのはね」とローランは説明した。「今こうして俺が赤毛で緑の瞳をした『上級職超力者』と向かい合っているということだよ」
カイルとサーラはその言葉に当惑した。だがトビーは衝撃を受けた様子で同じく戸惑うメレディスに歩み寄りその顔をまじまじと見つめた。「なんてことでしょう」と彼は声を上げた。「彼女、緑の瞳をしています」
ローランは頷いた。「テランス嬢……メレディス。メレディスと呼んでもいいかな? ともかく、今夜は騎士団の医務室で休んでもらいたい。明日の朝僕の治癒騎士たちが君のことを診て異常がないか確認するから」
「は、はい。あ、あの……ありがとうございます」メレディスはまだ戸惑った様子で言った。
「もう遅い時間だ、そろそろ休むとしよう」ローランはそう言うと、「詳しい説明は明日に回す」と付け加えた。そしてトビーに向き直りこう命じた。「彼女を医務室へ連れて行きエリザベスを呼んでくれ。彼女にしっかり診察してもらうように」
「承知いたしました。すぐに手配します」トビーはそう答えた。
ローランはサンダース兄妹の方を向き「カイル、サーラ、ついてきてくれ。君たち二人を客室に案内するよ」と言った。
サーラはあくびをして「いい考えね。美容のために睡眠が必要だから」と言った。一方、カイルはメレディスと離れることに少し抵抗があり、ローランにもまだ少し腹を立てていたが何も言わずに彼の後について行った。
ローランは兄妹を2階分の階段を下りホテルのようにドアが並ぶ廊下へと案内した。ローランが部屋の一つに案内するとそこはホテルのようなクイーンサイズのベッドが2台置かれたシンプルな部屋だった。
「さあ、どうぞ」とローランは言った。「ゆっくり休んでね。明日は朝早いから」そう言って彼は二人を部屋に残して出て行った。
サーラは再びあくびをして「じゃあ、寝る前にちょっとシャワーを浴びようと思うわ。お兄ちゃんは何かいる?」と言った。
「いや、もう疲れたから」とカイルは答えた。 「一日で情報量が多すぎるし、出来事も多すぎる。もう限界だ。」そう言うと彼はベッドに倒れ込みあっという間に眠りに落ちた。
『エンデクライオンの騎士団』をお読みいただき、誠にありがとうございました。
物語は続きますので、どうぞお楽しみに。




