第十三話 過去:更なる訓練の日々
はい、「過去編」の話です。注意してください。
過去
ある日、アンヌリーゼはトビーとヴァージルがいつものように、とりとめもない話をしているのを見かけた。今日の話題は「青色」についてらしい。
「どうやら、青い染料を最初に合成できたのはエジプト人だったらしいよ」とトビーが言った。「銅や石灰岩なんかを材料にして作れたみたいだね」
「一体どうやってそんなことを見つけ出したんだろうな?」とヴァージル。「まあ、銅は錆びると青っぽくなるし、それがヒントになったのかもしれないけど」
「おはよう、二人とも」とアンヌリーゼが声をかけた。「で、今日の話題は何だったの?」
トビーとヴァージルは顔を見合わせた。「そうだな、ヴァージルが『おはよう、いい天気だね』って言ったんだ」とトビー。
「そしたらトビーが『ああ、きれいな青空だね』って返して」とヴァージル。「そこから話が広がっていったんだ」
「それで、エジプトの青い染料の話になったわけ?」とアンヌリーゼ。彼女は呆れたように目を回し、「あなたたちって、どうなってるの?」と言った。
「いつものことさ」とヴァージルは言った。「で、今日の予定は?」
「午前中は剣術の稽古、そのあとナイフ投げね」とアンヌリーゼ。
「うわっ、剣術か」とヴァージルは不満げに呟いた。「勘弁してくれよ。5番のやつ、またうるさく言ってくるぞ」
「でも、ナイフ投げは楽しみだな」とトビーは言った。「トランプを使った技を試してみようと思ってるんだ」
「まったく、お前は本当にトランプを主力遠距離武器にする気なんだな」とヴァージルは言った。「正直、なんで普通の投げナイフじゃダメなのか理解できないけど」
「それで、何を試してみたいの?」とアンヌリーゼが尋ねた。
「ええと、上級職超力者の防御力って、一見矛盾しているように見えるだろ?」とトビーは言った。「上級職超力者なら、銃弾を弾き飛ばしたり、爆発を受けても無傷で済んだりすることがよくある。それなのに、同じ上級職の相手だと顎への強烈な一撃で気絶させられたりされるんだ」
「それがサイリック・シールドの仕組みなのさ」とヴァージルは言った。「上級職同士のサイリック・シールドが接近すると、互いに打ち消し合うような効果がわずかに生じる。だから大体の上級職は、遠距離武器よりも素手での格闘や近接武器を好むのさ」
「その通り、近接武器は使えるんだ」とトビーは言った。「サイリック・シールドの一般的な理屈から言えば、素手での格闘だけが有効なはずだよね。それなのに、刃物で上級職の皮膚を切り裂いたり貫いたりできなくても、鈍器としては有効だったりする。あれはどうしてだと思う?」
ヴァージルとアンヌリーゼは足を止めた。「なるほど、興味深いな」とヴァージルは言った。「で、どうしてなんだ?」
「まあ、あくまで俺の仮説なんだけどね」とトビーは言った。 「だが、上級職超力者が近接武器を使う際、無意識のうちにその武器を覆うように『サイリック・シールド』を展開しているのではないか、と俺は推測しているんだ。いわば『シールド・エクステンション』とも呼ぶべき技術だね。もしこのプロセスを意識的に再現できれば、遠距離武器にシールドを纏わせることも可能になるかもしれない。そうなれば、遠距離武器であっても、近接武器と同様に上位の能力者に対して有効な手段となり得るだろう。」
「まあ、うまくいったら教えてくれよ」とヴァージルは言った。
3人が角を曲がると、すぐに剣術の訓練エリアに出た。そこでは、他の訓練生たちが5番の周りに集まっていた。トビーとヴァージルはこのプログラムにおける総合トップの訓練生だったが、だからといってあらゆる分野で一番というわけではなかった。例えば、ナイフや短剣といった短身の刃物を扱うことに関しては、アンヌリーゼが一番の腕前を持っていた。そして、剣術において最も優れていたのが5番だった。彼は中国人の若者で、いつの間にか訓練生たちの非公式なリーダー格となっていた人物だ。彼はトビー、ヴァージルに次ぐ総合3位の訓練生でもあったが、その順位であることをひどく嫌っているのを隠そうともしなかった。
現在、5番は剣をくるくると回して腕前を誇示していた。だが、トビー、ヴァージル、アンヌリーゼに気づくと、彼はニヤリと笑みを浮かべて彼らの方へ歩み寄ってきた。「よっ、楽しみにしてるか? 19番、20番?」
「俺たちが楽しみにしてると思うか?」とトビーが言った。
「ふん! まあ、せいぜい気をつけることだな」と5番は言った。「今日はタッグ戦のスパーリングがあるんだ。言っておくけど、6番と組んだ俺が、お前らを徹底的に叩きのめしてやる。そして俺こそが、このプログラムで最強の座にふさわしいと証明してやるよ」
「そのセリフ、ありきたりすぎるよ」とヴァージルが言った。
5番はトビーとヴァージルにニヤリと笑いかけると、今度はアンヌリーゼの方を向いた。彼は口笛を吹いてから言った。「で、18番。なんでまだこんな負け犬連中とつるんでるんだ? 俺のところに来ればいいのに」
「誰と一緒にいるかは、自分で決めるわ」とアンヌリーゼは言った。
「勝手にすればいいさ」と5番は言い、クスクスと笑いながら剣を回しつつその場を立ち去った。
「ウーン、いきなりあいつとやり合うことになるのかよ」とトビーが不満げに言った。
「そうみたいだな」とヴァージルは答え、トビーに向かってニヤリと笑いかけた。「まあ、いつものことだろ。お前が俺を支え、俺がお前を支える。それだけさ」
トビーもニヤリと笑い返し、「決まりだな」と言って、二人で拳を合わせる「フィストバンプ」を交わした。
グループが準備を始めていると、二人の女性新兵――11番と12番――が噂話をしているそばを通りかかった。
「ねえ、聞いた?」と11番が言った。「どうやらシャドウ・ストーカー達が、ここ数日のうちにまた暗殺を行うらしいわよ」
「ええ、聞いたわ」と12番が応じた。「標的はエル・パサ市長のエヴレン・オクサスだって話ね。彼を排除できれば、カオス・ジェネレーションズに理解のある人物、あるいはカオス・ジェネレーションズのメンバー自身を新しい市長に据えられるかもしれないって言われてるわ。そうすれば、エル・パサに足掛かりを築けるから」
その噂話を耳にしたアンヌリーゼは、ふと足を止めた。困ったような表情でしばらく立ち尽くした後、彼女はトビーに追いつき、その肩を軽く叩いた。「ねえ、トビー」
「ん?」トビーは彼女の方を向いた。
アンヌリーゼは少し黙り込んでから言った。「あのね、明日って休みじゃない? だから、またあの町に行ってみないかなって思って」
トビーは微笑んで言った。「もちろん、大歓迎だよ。君がそう言ってくれるなら、いつでも町に連れて行く準備はできてるからね」
「じゃあ、決まりね」アンヌリーゼも彼に微笑み返した。「デートってことで」
面白かったですか?何度も忠告しますが「過去編」と「現在編」の二種類の話があるので注意してください。




