第二十八話 カイルvs.ブラックハート、そして...
引き続き、第二章です。お楽しみください。
カイルにとって、モルガナ・ブラックハートはこれまで対峙した中でも特に厄介な敵の一人だった。彼女は短距離の瞬間移動能力を持っていたため、直接攻撃を仕掛けるのが難しく、常に不意打ちを警戒する必要があったからだ。だが、カイルはすぐに彼女が瞬間移動を連発できないことを見抜いた。ブラックハートがカイルの爪による攻撃を瞬間移動でかわした後、カイルが彼女の出現位置を先読みして圧縮空気の弾を命中させた際、その確信は裏付けられた。総合的に見て、カイルは彼女の瞬間移動能力の使用間隔はおよそ60秒に一度だと推測した。
さらに、ブラックハートの卓越したグレイヴ(長柄武器)の腕前、とりわけその武器に搭載された電磁パルス発生装置という問題もあった。しかし、よく考えてみれば、電磁パルス発生装置付きのグレイヴは、エッグゼービエル・ソランの「盾切り」の技とそれほど変わるものではなかった。もちろん、その「盾切り」も決して侮れる技ではなかったが、カイルはソランとの戦いで、すでに対処法を経験済みだったのだ。
そして、そこが重要な点だった。モルガナ・ブラックハートがエッグゼービエル・ソランと並ぶ最強かつ最凶の「シャドウ・ストーカー」の一人として名を馳せているのは、紛れもなく実力に見合った評価だった。しかし、ブラックハートとソランを直接比較するならば、二人の中でより危険な存在なのはソランであることは否定できなかった。
一方のブラックハートは、次第に焦りを募らせていた。彼女はカイルに対して多角的な角度からグレイヴを振り下ろしたが、カイルはそのすべてを爪で受け流した。背後に瞬間移動して奇襲を試みた際も、カイルは彼女の出現位置を的確に読み、腹部に強烈な後ろ蹴りを叩き込んだ。ブラックハートは苦悶の声を漏らしよろめきながら後退した。すかさずカイルが放った凝縮された空気の衝撃波が彼女を襲う。間一髪で回避したものの、カイルの攻撃は塔の石壁を吹き飛ばし巨大な風穴を開けていた。
ブラックハートは壁に空いたその穴を凝視した。高さ約2メートル、幅4メートルにも及ぶ穴――石壁の大部分を吹き飛ばしたカイルの風の攻撃力は疑いようのないものだった。彼女は視線をカイルに戻し、鋭く睨みつけた。「あんた……どうしてそんなに強いの?」と彼女は吐き捨てるように言った。「新人の分際で、なぜ私とこれほど渡り合える? ソランを倒した時はチームでの連携だったはずでしょう? なのに、どうして一人で私を相手にできるのよ?」
「ソランにも言ったことを教えてやろう」とカイルは言った。「お前は暗殺者だ。影に潜み、必要最小限の力で標的を仕留める。お前の瞬間移動能力はまさにそのためにあるようなものだ。対して俺は騎士だ。子供の頃から戦い方を叩き込まれてきた。お前は殺しに特化した暗殺者であり、その技量は凄まじい。だが、泥仕合のように戦いが長引けば、やがて勝機は俺の方に傾くことになることさ」
ブラックハートは信じられないといった様子でカイルを見つめたが、やがてその表情は鋭い睨みつきへと変わった。「いいでしょう、残りはジラス一人で始末させるしかないわね。だけど、屈辱的な敗北を喫するよりはマシだわ。アルカンタラ様の寵愛を得る機会は他にもある」彼女はそう呟くと、壁に開いた穴にちらりと視線を走らせた。「30メートル……サイリック・シールドで防げない距離じゃないわね」
ブラックハートは突如カイルに突進し、グレイヴを振り下ろして攻撃を仕掛けた。カイルは両腕を外側へ大きく振るって強烈な突風を巻き起こし、身を守ると同時に、その風圧で彼女の攻撃を弾き返した。だが、弾かれたグレイヴの刃が彼女の顔をかすめたその瞬間、ブラックハートの姿は消え失せた。
彼女は塔の外、穴の反対側に再び姿を現した。しかし、逃げ切れたことに歓喜し、笑い声を上げようとした矢先、自身の「サイリック・シールド」が消滅していることに気づいた。「なっ……」戦慄と共に彼女は悟った。カイルが攻撃を弾き返した際、グレイヴの刃――そして何より、それが発していた電磁パルス――が、自身の顔をかすめていたのだ。自分が今、サイリック・シールドを失った状態で地上約30メートルの空中にいること、そしてテレポート能力を60秒間使えないこと。ブラックハートは瞬時にその絶望的な状況を理解した。「いやっ! いやっ! いやっ! いやっ! いやあああああああああ!!!」
こうして、モルガナ・ブラックハートは死へと真っ逆さまに墜落していった。
***
寝室には、金属がぶつかり合う音が響き渡っていた。レイピアとマン・ゴーシュの二刀流を駆使しリアンナはこの決闘でなんとか持ちこたえていた。だが、いかに勇敢に戦おうともあらゆる面でジラスの方が勝っており、彼に完全に制圧されるのは時間の問題だった。
リアンナは剣を振るう勢いを利用して身を翻し、目にも留まらぬ速さで刃を操った。しかし、ジラスはわずかな隙を見逃さず、素早い一撃で彼女のポニーテールを縛っていた紐を断ち切った。髪がほどけ、肩へと流れ落ちるのを感じた瞬間、リアンナの胸の奥底には言いようのない恐怖がこみ上げてきた。
「見事な奮闘ぶりだ、姫君」レイピアを向け、なおも反抗的な瞳で彼を睨みつけるリアンナに対し、ジラスは言った。「だが結局は……無駄なことだ!」言葉を裏付けるように、ジラスが剣を振るうと、リアンナのドレスの残りがわずかに切り裂かれた。
リアンナはジラスから後ずさりしようとしたが、恐ろしいことに背後はすでにベッドの縁だった。まるで合図でもあったかのようにジラスが上段からの斬撃を繰り出す。リアンナは必死に二本の剣を交差させてその一撃を受け止めたものの、その衝撃で仰向けにマットレスへと倒れ込んだ。ジラスが強引に体重をかけて迫り、リアンナは交差させた剣で彼を押し返そうとする。彼女の中で焦りの色が濃くなっていく。
「終わりだ、姫君」上からさらに力を込めながら、ジラスは言った。「いい子だ、さあ、私に屈服するんだ」
リアンナは彼を押し返そうとしながら、鋭い視線を向けた。「私の……名前は……リアンナよ!」
突如、激しい爆発と共に寝室の扉が吹き飛んだ。ローラン・エカルドは破壊された入り口から飛び込むと、一瞬バランスを崩しかけたものの、そのまま身を転がして低い姿勢をとった。
「ローラン!」リアンナが叫んだ。ジラスに押さえつけられ、ベッドに押し付けられたままの状態ではあったが、彼の姿を認めた彼女は安堵の念を禁じ得なかった。
「リアンナ!」彼女の姿を見たローランは歓喜の声を上げた。だが、その喜びは瞬時に消え失せた。乱れた髪やボロボロになったドレス、そしてジラスが彼女をベッドに押し付けている光景を目の当たりにしたからだ。代わりに彼の瞳は怒りで赤く燃え上がり、それまで味わったことのないほどの激しい憤りが全身を支配した。「彼女から……離れろ……ジラス!」彼は言葉を一つひとつ噛みしめるようにして、そう言い放った。
ジラスは呆れたように溜息をついた。「それで、塔に囚われた姫君を救いに騎士様のお出ましってわけか。実にありきたりな話だな」彼はリアンナを放すと、彼女はすぐに彼から逃れるように身を引いた。ジラスはローランに視線を向け、彼に歩み寄りながら言った。「まあ、楽しみは後回しだ。なにしろ、お前――エカルドを倒せば、ついに『レドゥーラス将軍』の称号を授かるための功績を上げられるんだからな!」
ローランは信じられないものを見る目でジラスを見つめ、やがて吹き出した。「レドゥーラス将軍? それがお前の目的なのか?」彼は言った。「馬鹿げている! 建国戦争以来、『レドゥーラス将軍』なんて者は一人も出ていないんだぞ! そんな称号を自分が手にできるなんて、どれだけ思い上がれば気が済むんだ?」
「知りたいか?」ジラスはそう言うと、彼に向かって剣を振り下ろした。
ジラスはローランがその斬撃を回避すると予想していたが、その代わりに、ローランが炎を纏った右前腕を掲げて攻撃を受け止めたことに驚かされた。さらに、刃の周囲に電磁パルスを発生させていたにもかかわらず、手応えとして伝わってきた音と抵抗は、明らかに「サイリック・シールド」に刃が阻まれた際のものだった。
「何だと?」ジラスは声を上げた。
ローランはにやりと笑った。「いやあ、サイリック・シールドを無効化できるなんて、その電磁パルスってやつは本当に大したもんだよ」と彼は言った。「でもな、それは極めて精密な周波数で作動するものだから、大気のわずかな変化でも影響を受けて、シールド無効化の効果が働かなくなっちまうんだ」ローランの拳が炎を噴き上げた。「例えば、温度の変化なんかでな」
ジラスは信じられないといった様子でローランを見つめた。「それじゃあ、私の攻撃をすべてその炎で防ぐつもりか? 耐久戦に持ち込む気か? いったいどれだけエネルギーが持つと思っているんだ?」
「知りたいか?」ローランは、先ほどジラスが口にした言葉をそのまま言い返した。
ローランはジラスへの直接攻撃を開始し、一撃ごとに手足から炎を噴き出させた。ジラスも剣を振るって応戦するが、ローランは炎を纏った拳でその攻撃を阻んだ。
しばらくそんな攻防が続いたが、ある光景がローランの目に留まった。リアンナがベッドのシーツで身を隠そうとしていたのだ。無防備な姿のリアンナを目の当たりにしたことで、ローランの心に火がついた。ジラスを彼女から一刻も早く遠ざけなければ、という思いだ。ローランは突如として全身を炎で包み込み、ジラスに向かって一直線に突進した。その凄まじい勢いに押され、二人は窓を突き破り、バルコニーの外へと吹き飛ばされた。
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