第二十五話 結婚式乱入者
引き続き、第二章です。お楽しみください。
午後12時半になる頃には、アルクス・レガリウスの市民たちは、王宮で一体何が起きているのかと訝しんでいた。その日の朝はずっと門が閉ざされていたが、いざ開かれてみると、王宮の中庭の光景は控えめに言っても異様だった。王宮は、まるで上流階級の結婚式が行われるかのような華やかな装飾が施されていた。それにもかかわらず、中庭の主役として据えられていたのは結婚式には到底似つかわしくないもの――絞首台だったのだ。ミストカリアにおいて、公開処刑が行われるのは200年以上も前のことである。それなのに、結婚式のために整えられた中庭の中央には巨大な処刑台がそびえ立ち、その梁からは3本の絞首用ロープがぶら下がっていた。
午後1時、門はまだ一般には閉ざされていたものの、門の外に集まった群衆は、まるで祝祭が始まるかのように鳴り響くトランペットの音を聞いた。しかし、群衆が目にしたのは、絞首台へと連行されていく3人の人物だった。金髪のメイド、女宮廷衛兵、そして群衆を驚愕させたのは、エヴァンテイル侯爵だった。ジラスの手柄と言えるだろうが、前夜の暴行による傷を負っていたエヴァンテイル侯爵を除けば、3人とも無傷であった。
サーラは首に縄をかけられると、呆れたように目を丸めた。「それで、私たちのサイリック・シールドはどうなるの? きっと難しいと…」彼女は絞首台の足元に電磁パルス発生装置が取り付けられるのを見て言葉を止めた。「ああ、そういうこと」彼女はそう言って、上を見上げ不安そうに呟いた。「みんな、ちゃんと時間に間に合ってくれるよね?」
トランペットのファンファーレが終わりを告げる頃、王室のバルコニーへと続く扉が開かれた。最初に姿を現したのはジラス卿である。彼は、白の燕尾服に同色のズボン、黒のブーツ、金色のベスト、白のリネンシャツ、そしてジャボ(胸元の飾り布)という、貴族の婚礼における伝統的な正装に身を包んでおり、明らかに新郎であることが見て取れた。彼は二振りの剣を携えていた。自身の剣と、どうやら戦利品として保管していたらしいフォン・クロフト公爵の剣である。その姿は実に堂々としていて素晴らしいものだった。彼に付き添っていたのは、リッテンハウス侯爵、ウェルズワース伯爵、ハンプトン子爵、そして金髪の女性だった。その女性は民衆にとってどこか見覚えのある顔立ちだったが、誰なのかまではすぐには思い出せなかった。なお、フォン・クロフト公爵とルム男爵の姿がないことは民衆の目に即座に留まった。
やがて、花嫁がバルコニーに足を踏み入れた。それは民衆がこれまで一度も目にしたことのない娘だった。彼女はスパゲッティストラップのウェディングドレスをまとい、シンプルな花束を手にしていた。顔はウェディングベールで覆われていたが、その佇まいは美しくも、どこか……控えめな印象を与えた。とりわけ、まばゆいばかりの華やかさを放つ新郎・ジラス卿と並ぶと、なおさらそう感じられた。
ジラスは前に進み出て、群衆に語りかけた。「ミストカリアの市民諸君。私の結婚式にお越しいただき、ありがとうございます。花嫁と結婚するこの日は、ミストカリア国民にとって喜ばしい日です。」彼は言葉を区切って群衆を見渡し、その言葉が人々の心に染み渡るのを待った。「しかしながら」と彼は続けた。「この結婚式は、非常に特殊な状況下で行われるため、牧師ではなく私がこの声明を発表する必要があると感じています。もしここにいる誰かが、私と花嫁の結婚に反対する理由があるならば、今申し出るか、永遠に沈黙を守るかのどちらかです。」
その時、宮殿の門で爆発が起こった。しかし、爆発は外側ではなく内側で起こったため、群衆は無傷だった。爆発が続く中、一人の人物が宮殿の門から飛び降り、爆発の真正面に着地した。空手の不動立ちの構えで、その人物は燃えるような赤い目で上を見上げ、「この結婚に異議あり!」と宣言した。
「エカルド」とジラスは、ニヤリとした笑みと冷笑が入り混じったような表情で言った。
一方、花嫁のリアンナはベールをはぎ取り、バルコニーの端まで駆け寄り、身を乗り出した。「ローラン!」と彼女は叫び、明らかに彼を見て喜んでいた。
ローランはリアンナに微笑み返すと、視線をジラスへと向けた。「ジラス卿、あなたは実に興味深い方々と付き合っていらっしゃいますね」彼はそう言いながら、ジラスの隣に立つ金髪の女性、モルガナ・ブラックハートに目をやった。
「ほお、面白い」とジラスは言った。「昨夜、王女も全く同じ言葉を口にしていたよ」彼は声を張り上げ、叫んだ。「衛兵たちよ!エカルドは生け捕りにしろ!他にエンデクライオンの騎士がいれば、そいつらは殺せ!だが、エカルドだけは生かしておけ!」
二百人ほどの衛兵が宮殿から雪崩のように押し寄せてきた。通常の警備兵の数を遥かに上回るその人数から、昨夜宮殿に潜入した信徒たちによって戦力が増強されていることは明らかだった。彼らはローランの前に立ちはだかると、一斉に剣を抜いた。
ローランは一瞬目を閉じ、深く息を吸い込んだ。そして深紅の瞳を開き、衛兵たちを指差して宣言した。「これで決着をつけよう!」
さらに二つの影がローランの頭上を飛び越え、衛兵の群れの中へと舞い降りた。一人はカイルだった。彼は唸り声を上げながら、その爪で衛兵たちに斬りかかった。まるで旋風のように敵陣を切り裂き、衛兵たちを次々と薙ぎ倒していく。時には本物の旋風を放ち、直接斬り伏せられなかった敵をも吹き飛ばした。
もう一人はアンドリューだった。着地するや否や、彼はまず日本刀による回転斬りで周囲の衛兵を一掃した。続いて笠を外し、それを左腕に装着すると、氷の力で補強して即席の盾を作り上げた。そして、剣と盾を組み合わせた王道的な戦闘スタイルで、衛兵たちに立ち向かっていった。
一方、絞首台の上では、サーラが拘束を解こうともがいていたその時、数枚のトランプのカードが飛んできた。最初のカードの束が絞首刑用のロープを断ち切り、続くカードの束が梁に当たって跳ね返り人質たちの腕を縛っていた縄を切り裂いた。サーラは即座に縄を振り払い、シャルロットと協力してエヴァンテイルを支え処刑台から降ろした。
処刑台の下では、トビー、エリザベス、そして(まだメイド服姿の)メレディスが彼らを待っていた。「ああ、よかった。間に合ったのね」とサーラは言い、メレディスと手短に抱き合った。その間、エリザベスはシャルロットと共に座り込んだエヴァンテイルの体を支えていた。
エリザベスが診察を始めると、エヴァンテイルは痛みにうめき声を上げた。「彼は大丈夫なの?」とシャルロットが心配そうに尋ねた。
「一刻も早く手当てが必要だわ」とエリザベスは言い、治癒の力を発動させ始めた。「トビー、時間を稼いで!」
「お安い御用です」とトビーは応じた。彼はすでに、見事な鎌さばきで衛兵たちを追い払っていた。
サーラが彼のいる方へ向かおうとしたその時、メレディスが「サーラ、これを受け取って!」と声をかけ、茶色い布に包まれた荷物を彼女に投げ渡した。その包みを見てすぐに中身を察したサーラは、処刑台のカーテンで仕切られたスペースへと飛び込んだ。数分後、彼女は反対側から転がり出てきた。その姿は、見慣れた白いローブとフード付きの茶色いポンチョを身にまとい、トレードマークである弓矢を構えたものだった。
彼女は素早く矢を放ち、一人の衛兵を撃ち倒した。「よし、これで『シールド・エクステンション』のコツを完全に掴んだわね」と彼女は声を弾ませた。
中庭の別の場所では、アンジェリカが折り畳み扇子を手に何気ない様子で衛兵たちをあしらっていた。それは、クリスマスの舞踏会のためにエリザベスへ貸し出していたものだった。「はぁ、昼間はどうしても調子が出ませんわね」と彼女はぼやきながらも、自分を取り囲む衛兵たちの剣撃を扇子一本で軽々と受け流していく。「さっさと片付けてリアンナを助け出し、もう寝ることにしますわ」そう言って衛兵の一人を扇子で叩くと、一見すると力など込めていないような動作だったにもかかわらず、その衛兵は5メートルほども吹き飛ばされた。さらに別の衛兵の襟首を掴むと、彼女のような小柄な少女(たとえ上級職超力者であっても)には到底不可能な怪力で頭上高く持ち上げ、何でもないことのように放り投げた。
絞首台の近くで、ルム男爵もまた数人の衛兵を相手に戦っていた。「やれるはずだ。何とかして力になれる、きっと……」と彼は呟く。ルムはレイピアの腕がそれなりに立ち、しばらくの間は持ちこたえていた。だが、いかに勇敢に戦おうとも、彼はあくまで下級職であり、上級職の相手を前にしては限界があった。押され始めたその時――。
「はっ!」茶色のポンチョを纏い、フードを深く被った少女が、背後にいた衛兵の一人を掴み上げその頭の後部を自身の膝に叩きつけた。別の衛兵が彼女の方を向くと少女は身を低く沈め、相手の胴体に「ワンインチ・パンチ」を叩き込んで息の根を止め、さらに顎へ強烈なハイキックを浴びせて完全に戦闘不能に追い込んだ。三人目の衛兵が剣で斬りかかってきたが少女はそれを弓で受け止める。衛兵が弓を叩き落とそうと猛攻を浴びせた隙を突き、少女は相手の胸に掌底を叩き込みよろめかせた。そして矢筒から矢を一本抜き放つと弓を落としていたため「シールド・エクステンション!」と叫びながらその矢を衛兵めがけて投げつけ、その衝撃で彼を気絶させた。
「はぁ、トビーみたいには、まだうまくできないな」フードを脱ぎながら、彼女はそう呟いた。
「サーラさん?」とルムが言った。
「アンソニー!」サーラは満面の笑みで声を上げた。「ああ、メレディスをエンデクライオン城まで無事に送り届けてくれて本当にありがとう!あなたのおかげで命拾いしたわ!」サーラは感謝のあまり、思わずルムの手を握りしめていた。
ルムは顔を真っ赤にした。「もちろんです、サーラさん。あなたに頼まれれば、どんな怪物相手でも躊躇なく立ち向かいますよ。さあ、リアンナさんを助けに行きましょう!」剣を高く掲げ、ルムは宮殿に向かって突進していった。
サーラは戸惑いつつも微笑みながら走り去る彼を見送った。「まあ……あの熱意は嫌いじゃないけど」そう呟くと彼女も彼を追って駆け出した。
ジラスは眼下の戦いを見下ろしながら、眉間に皺を寄せた。計画通りにはいっていなかった。エンデクライオンの騎士たちは圧倒されて敗北するどころか、衛兵たちをいとも簡単に倒していたのだ。彼は眼下の戦いに見入っていたリアンナの方を向きその手首を掴んだ。「儀式は必要ない。今すぐ進めることができる」
リアンナは驚愕して彼の方を向いた。「嫌!やめて!ローラン!」ジラスに宮殿へと引きずり込まれながら、彼女は悲鳴を上げた。
リアンナの悲鳴はすぐにローランの耳に届いた。「リアンナ!」彼は叫び返した。バルコニーに近づこうと衛兵の壁を切り崩しながら進む。「どけ……邪魔だ……!」
メレディスもリアンナの悲鳴を聞き取っていた。彼女がバルコニーを見上げると、ジラスがリアンナを宮殿へと引きずり込んでいるのが見えた。「カイル!」彼女は声を上げた。「これ、受け取って!」彼女は抱えていたもう一つの包みを恋人に向かって投げた。
近くで衛兵を次々と倒していたカイルは、その包みを受け止めた。それは彼のロケットボードだった。「了解!」彼は叫びながらボードを足に装着した。エンジンを点火すると彼はすぐにバルコニーに向かって飛び立った。
同じ頃、ローランもバルコニーに届く距離までたどり着いていた。彼は即座にグラップル・ショットを放ち、その反動を利用して上へと飛び上がった。二人の騎士は同時にバルコニーへとよじ登ると、互いに意志を通わせるような視線を一瞬交わし、そのまま宮殿の中へと突入していった。
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