第二十一話 黒幕
引き続き、第二章です。お楽しみください。
時刻は深夜1時を回っていた。クリスマス舞踏会はおよそ1時間前に幕を閉じ、招待客の大部分はすでに帰路についていた。「エンデクライオン騎士団」もまた(カイルを含め)エンデクライオン城へと戻っていた。フォン・クロフト公爵は、「昇星の評議会」のいわゆる「緊急会議」を招集していた。ルム男爵を除く全員が、舞踏会場に隣接する応接間の一つに集まっていた。しかし、激昂して怒鳴り散らしながら応接間を荒々しく歩き回っているのはフォン・クロフトただ一人だった。他のメンバーは席に着いたままで、中には退屈そうにしている者さえいた。
「言語道断だ!」とフォン・クロフトは叫んだ。「評議会の意見も聞かずに、あのような重大な決断を下すとは。我々の言うことを聞き、命じられた通りに動けばよかっただけのことだ。それなのに! あの娘はすべてを台無しにした。まずはあの馬鹿げた剣の試合で私に恥をかかせ、今度はエンデクライオンの件でこんな真似をしでかしたんだ」
「彼女のしたことの何がそれほど問題なのですか?」とエヴァンテイル侯爵が尋ねた。「彼女は王女なのですから。我々の意向とは無関係にそうした行動をとる権限は彼女にあります」
フォン・クロフトは、まるで相手が正気を失ったかのようにエヴァンテイルを凝視した。「エヴァンテイル侯爵、あなたは……あの女の味方をするというのか?」
「フォン・クロフト公爵、思い出していただきたいのですが、彼女をミストカリアに連れ戻すことを最初に提案したのはあなた自身ではありませんか」
「最初に私にそれを持ちかけたのはジラス卿だ」
「そんなことはどうでもいい!」エヴァンテイルはきっぱりと言い放った。彼は立ち上がり、フォン・クロフトと真っ向から対峙した。「リアンナ王女は、我々の無責任な行動によって引き剥がされる前、ナイツレストで自分なりの人生を送っていたのです。それなのに、我々の無責任さに人生を左右されることを拒んだ彼女に対し、あなたは『従わない』と不満を漏らすのですか?」エヴァンテイルは肩をすくめ、言葉を続けた。「だが、あなたの描いていたシナリオではこうなるはずではなかったのでしょう? 彼女はただ、自分の出自を知らずにアメリカで育った無垢な少女……。さぞかし操りやすい相手だと、高を括っていたのでしょうね。彼女を『トロフィー・ワイフ』として手に入れ、王家に自身の血筋をねじ込もうと画策していたことも、私は十分に承知していますよ」
「まあ、なんて不快なこと」――頭上から聞き覚えのある声が響いた。見上げると、バルコニーにシャルロットを伴ったリアンナの姿があった。彼女は舞踏会用のドレスから着替え、ナイトガウンの上にローブを羽織っていた。「もっとも、私のために数多いる愛人の一人でも整理する気など、あなたにはなかったでしょうけれど」と、彼女は皮肉めいた口調で言った。
「殿下」とエヴァンタイルは素早く一礼した。フォン・クロフトはただ彼女を睨みつけている。エヴァンテイルは言葉を続けた。「このような場面をお見せしてしまったこと、お詫び申し上げます」
「構いませんわ。あなたが置かれていた苦しい立場は理解しております」とリアンナは言った。「エヴァンテイル侯爵、これまで私にしてくださったことには心から感謝しています」
「それだけでは足りません」とエヴァンテイルは言った。「この茶番劇も、いい加減終わらせるべき時が来たのです!」彼はフォン・クロフトの方を向き、こう告げた。「フォン・クロフト公爵、私、ジェラール・エヴァンテイル侯爵は、ここに『昇星の評議会』の席を辞することを宣言します」
フォン・クロフトの顔から血の気が引いていった。「そんなことは許されん!」彼は声を荒らげた。「エヴァンテイル侯爵、評議会の構成員は常に奇数でなければならんのだ。偶数になってしまえば、あらゆる決定が膠着状態に陥る可能性が高すぎる!」
「あら、その点は心配なさる必要はないかと。ルム男爵もまた評議会の席を辞するのは時間の問題でしょうから」とリアンナは言った。フォン・クロフトが狼狽する様子を見て、彼女は言葉を続けた。「あら、それは困ることなのかしら?ああ、なるほど。つまり、評議会はルム家の莫大な財力を利用できなくなる、ということですね?」それから彼女はエヴァンテイルのほうを向き、言った。「このような事態になってしまい、申し訳ありません、エヴァンテイル侯爵」
「殿下、あなた様が不当な扱いを受けられたことこそ、私がお詫びすべきことです」とエヴァンテイルは言った。「その不当な扱いを正すために、私の力の限りを尽くしエンデクライオン騎士団と協力して取り組むことを誓います」
一瞬、応接間全体が静まり返った。だが、その静寂は突如として笑い声に破られた。「あははは、フォン・クロフト公爵。今夜の余興には礼を言わねばなるまい」笑い声を上げたのはジラス卿だった。彼は立ち上がると言葉を続けた。「いや、それどころか、長きにわたり私を楽しませてくれたことに感謝せねばな。私の掌の上で君が右往左往する様を見るのは実に愉快だったよ。私が投げかける『提案』や『助言』のすべてに、君はまさに私の描いたシナリオ通りに動いてくれた。だが、どうやら楽しい時間も終わりのようだ」
リアンナ、エヴァンテイル、そしてシャルロットがジラスを見つめる中、フォン・クロフトは困惑した様子で彼の方を向いた。「ジラス卿、一体何の話だ?」
「私はただ、エヴァンテイル侯爵の意見に同意しているだけです」とジラスは言った。「彼が言った通り、この茶番劇もそろそろ幕引きの時だ」
ジラスがそう言うと閃光と共に突然、煙が噴き出した。煙が晴れると、ジラスの背後には別の人物が立っていた。豊かな金髪に、身体のラインを強調する黒いドレスを纏い、杖を携えた女。氷のような青い瞳と、温かみの欠片もない不敵な笑みを浮かべていた。
「何だと? 侵入者か?」フォン・クロフトが声を上げた。その女の姿を認めた瞬間、彼の目が見開かれた。「モルガナ……ブラックハート?」
***
「リアンナが評議会と対峙している間、私たちも一緒にいさせてくれたらよかったのに」とメレディスは言った。彼女とサーラは受付にいた。
「リアンナは、これは一人でやらなければならないことだと感じていたみたいね」とサーラは言った。「心配しないで。何かあったら、私たちが駆けつけて…」サーラは窓の外に何かを見て言葉を止めた。
ちょうどその時、ルム男爵が受付に駆け込んできた。「しまった、遅刻だ!フォン・クロフト公爵がこんな夜遅くに会議を開くなんて信じられない」と彼はつぶやいた。「まあ、今が評議会を辞任すると伝える絶好の機会だろう…ぎゃっ!」
サーラは突然ルムを暗い隅に押し込み、メレディスに「隠れて!」と囁いた。ルム男爵は美しい金髪のメイドが突然自分を暗い隅に押し込み、かなり近くに寄り添ってきたこと以外何が起こっているのか全く分からなかった。当然のことながら、彼の十代の想像力は暴走し始めた。
「な、な、なんだって? こ、こ、これは僕が読んだことのある、深夜の逢瀬のことか?」彼はどもりながら言った。「あ、あの、君みたいな可愛い女の子が僕を好きにしてくれるのは全然構わないんだけど。でも、僕は男爵だから、ちゃんと、まずは求愛から始めるべきだと思うんだ…」
「ちょっと黙って」サーラがぴしゃりと言った。メレディスが隅に寄ると同時にルムは黙った。
「サーラ、一体…」サーラに黙るように言われると、彼女も黙り込んだ。
その時、受付のドアが勢いよく開き20人ほどの男たちが建物の中に飛び込んできた。20人全員が同じ黒いフード付きのローブを着ていた。
メレディスは驚いて目を見開いた。「サーラ、もしかしてあれらは…」
「あの人たちはどこにいても見分けがつくわ」サーラは目を細めて低い声で言った。 「あれらはカオジェンの信徒よ。」
みなさん、どうでしたか?もし面白いと思いましたらどうか応援してください。




