第十六話 囚われの王女とそれを救う騎士
引き続き、第二章です。お楽しみください。
落ち着きを取り戻したリアンナの頭には数え切れないほどの疑問が浮かんでいたが、どれから尋ねるべきか決めかねていた。ショールを身にまとった彼女は、ローランと彼の風変わりな服装をじっと見つめながら、口にするべき言葉を探していた。やがて彼女は尋ねた。「ローラン、ミストカリアで何をしているの?」
「もちろん、君を助けに来たんだよ」とローランは言った。
その言葉にリアンナの胸は思わず温かくなった。それでも彼女は問いを続けた。「でも、私がミストカリアにいるってどうやって知ったの?それに、どうやってここまで来たの?空を飛ぶにせよ船で来るにせよ、ここは到達不可能なほど難所のはずよ。それなのにあなたはここにいる。しかも、この塔をよじ登ってきたの?あなたは上級職超力者なの?その服装も……一体どうなっているの?」
「信じてもらえないかもしれないけど、まずは一ヶ月前に君とした約束を果たすところから始めるのが良さそうだね。そして、今日がちょうどその約束の日なんだ」
「えっ?あの約束?今日だったの?」
「ああ、それじゃあいくよ」ローランは少し黙ってから深呼吸をし、まるで舞台に立つかのように恭しく一礼した。「お嬢様、改めて自己紹介をさせてください」彼は言った。「私はエンデクライオン騎士団の騎士団長、ローラン・エカルドです」
ローランが口にすると予想していた言葉は、これではなかった。「えっ?」彼女は戸惑ったような笑みを浮かべた。
「えーと、君ならエンデクライオン騎士団がどういうものか知っているだろうと思っていたんだ」とローランは言った。「だって、もう数日もミストカリアにいるわけだし、君は昔から勉強熱心で機転が利くから、ミストカリアについて可能な限り調べているだろうと思ったんだよ。そして、この王国と騎士団の歴史は深く結びついているから……」
「ローラン・ジェイソン・エカルド!!!」
ローランは身をすくめた。「うわっ、フルネーム呼びか」
「あなたが……『騎士団』に……えっ、どういうこと……?」リアンナは明らかに動揺し、言葉をどもらせた。やがて彼女は、「騎士になって、どれくらいになるの?」と尋ねた。
「ええと、3年だ」
「3年?」リアンナは信じられないといった表情を浮かべた。「3年ですって? それなのに、そんなに長い間私に隠していたの?」彼女は首を横に振りながら続けた。「じゃあ、アンドリューは? カイルとサーラは?」
「アンドリューは僕と同じ時期に騎士団に入ったんだ」とローランは言った。「カイルとサーラは……そうだな、つい一ヶ月前に入団したばかりだよ」
「一ヶ月前?」リアンナの中で何かが腑に落ちたようだった。彼女はうめき声を上げ鼻の付け根を揉み始めた。「州のフェンシング大会の時、隠していた秘密っていうのはそのことだったのね」
「ああ、その件については悪かったと思っている」とローランは言った。
リアンナはしばらく黙り込んでいたがやがてため息をついて言った。「ローラン、全部話して。もう秘密はなしよ。些細なことから明白なことまで何もかも知りたいの。一つも省かないで」
「わかった。最初から話すよ」
***
その後一時間ほどかけて、ローランは「エンデクライオン騎士団」に入団してから先月メレディスを巡る事件が起きるまでの、自身の活動のすべてを語った。リアンナは驚きを隠せなかった。自分が高校生活を謳歌していたその間ずっと、幼馴染である彼が外の世界で冒険し正義のために戦っていたなんて。彼女は、バルコニーで自分たちを暖めてくれているすぐそばの火の玉に目をやった。調べ物をする中で「エレメンティアン」の存在は知っていたが、それまで出会った上級職は皆「フィジカル」ばかりだったため、彼らの存在には少し懐疑的だったのだ。それなのに今、幼馴染が何もない空間から生み出した炎に暖められている。彼が生まれつき持っていた能力でありながら彼女はそれを全く知らなかったのだ。
この頃には、ローランはリアンナの質問に答える形になっていた。彼は今、ミストカリア内乱後の騎士団の歴史について話していた。「戦争の後、騎士団は離散し、ヨーロッパ各地へと散らばったんだ。騎士たちは数世紀にわたり、拠点を定めることなく大陸を放浪していた。それが変わったのは新大陸が発見されてからだ。17世紀、エンデクライオン騎士団は正式に北米へと移転した。当時の騎士団長ジェームズ・パイクがパインシャックル・フォレストにエンデクライオン本部を設立したんだ。彼の後任がトーマス・アヴィントンだ。騎士団長の多くは『戦闘騎士』出身だったが、アヴィントン団長は『聖騎士』から団長になった珍しい例だった。彼は非常に信心深い人物でカトリック教会から聖人に列せられたほどだったんだ」
「だから、私たちの学校は『聖アヴィントン』という名前なのね」
「その通り。でも、それだけじゃない。本部周辺に発展した集落を『ナイツレスト』という町として整備したのもアヴィントン団長だったんだ」。リアンナが驚いた表情を浮かべると、ローランは尋ねた。「なぜあの町が『ナイツレスト』と名付けられたと思っていたんだい?」
話題は、やがてリアンナの冒険譚へと移った。まだ数日しか経っていないとはいえ、彼女には語るべきことが山ほどあった。中でもローランが特に興味を示したのは、「昇星の評議会」についてだった。
「彼らに対する第一印象は、『美青年』だったわ」とリアンナは言った。
「美青年?」ローランは不満げな表情を浮かべた。
「本当よ」とリアンナは続けた。「初めて会ったとき、その美しさに圧倒されて、死んで乙女ゲームの世界に転生したのかと思ったくらいだもの!」
「へえ、じゃあ俺は騎士団長を務める幼馴染って役回りか?」ローランはニヤリと笑った。そして一呼吸置いてから言った。「待てよ、それってまさに今の俺のことじゃないか。ってことは、俺も攻略対象ってこと?」
「私がプレイしたいと思うルートはあなたのルートだけよ」
「ふむ、でも乙女ゲームの主人公って普通は男爵家の非嫡出子とかで王女みたいに身分が高い人じゃないんじゃなかったっけ?」ローランは茶化すような笑みを浮かべて言った。「おや、それじゃあ君は悪役令嬢ってことかな?」
「もう、からかわないでよ」リアンナはそう言って不機嫌な素振りを見せたが、それは彼が当時の彼女の思考を的確に言い当てたからだった。とはいえ、その会話を通じて彼女は自分たちが置かれている非現実的な状況を改めて認識することになった。塔に囚われた王女と、彼女を救いに来た騎士である幼馴染――それはまさに、おとぎ話そのもののシチュエーションだったのだ。
「ともかく、第一印象はさておき」とリアンナは言った。「私の判断はこうよ。エヴァンテイル侯爵とルム男爵は信頼できるわ。フォン・クロフト公爵とハンプトン子爵はできない。残りの三人についてはまだ何とも言えないわね」
そこから話は自然と、次の行動をどうするかという話題に移った。
「今すぐ君をここから連れ出すこともできる」とローランは提案した。「この塔から運び出し、エンデクライオン城へ送り届けて、俺と故郷へ戻り、君を『騎士団』の保護下に置くんだ」
「すごく魅力的な提案ね」リアンナは名残惜しげに微笑んだ。「でも、長い目で見ればそれは解決策にならないわ。『騎士団』に守られていたとしてもまた誘拐されるかもしれないという恐怖に怯えながら一生を過ごすなんて嫌だもの。いいえ、私たちはこの問題を、まさに今、ここ、ミストカリアそのものという根本から解決しなきゃいけないのよ」
「同感だ」とローランは言った。「それに、カオジェン……『カオス・ジェネレーションズ』がこの件に何らかの形で関与しているんじゃないかという懸念も消えない」
「『カオス・ジェネレーションズ』?」リアンナは問い返した。上級職が支配する世界を築こうとしたテロリスト集団については読んだことがあったが、歴史の教科書には詳しいことまでは書かれていなかったのだ。
「『建国戦争』については読んだことがあるだろう?」
「もちろんよ」とリアンナは答えた。「ある超力者の一派が、ミストカリアをローマのような征服帝国に変え、ヨーロッパ中の非超力者(非サイリック)を支配しようとして王国本国と戦争を起こしたのよね。エンデクライオンが創設されるきっかけになったあの戦争のことでしょう」
「その一派こそが最初の『カオス・ジェネレーション』だったんだ」ローランの言葉に、リアンナは目を見開いた。「連中は最初からずっと脅威であり続けてきた。そもそも、王女が国外へ密かに逃がされたのも彼らのせいだったんだから。とにかく」彼はポケットから何かを取り出した。「今後の計画を練るならこれが必要になるはずだ」
「私のスマホ!」リアンナはそう叫びながら、彼からスマホを受け取った。「あぁ、ログイン記録が全部途切れちゃった!」スマホを少し操作した後、彼女はローランを見上げて尋ねた。「これ、何かいじったの?」
「ごめん」とローランは言った。「でも、必要だと思ったんだ。この改造でエンデクライオン城の俺たちと連絡が取れるようになるよ。」
「わかったわ、許してあげる。」
「武器庫からもう一つ持ってきたんだ」とローランは言い、持ってきた細長い箱を取り出した。「ちょっと早い誕生日プレゼントにしようと思ったんだけど、実際はちょっと早い養子縁組記念日のプレゼントって感じかな。」
「ええ、資料室で私の出生証明書を見つけたの。本当の誕生日は9月だったのよ」とリアンナは皮肉っぽく言いながら箱を受け取った。「本名もわかったわ。リアンナ・セレステ・ミストカリア。ミドルネームがあるなんて知らなかった。」
「セレステって素敵な名前じゃん。」
「ありがとう。じゃあ、これからはリアンナ・セレステ・ミストカリア・ケリスって名乗るわ」と彼女は言いながら箱を開けた。箱の中身を見てリアンナは眉をひそめた。
それは短剣だった。刃渡り約35センチもある、かなり大きなものだ。鍔の端が内側に湾曲しており、全体として三叉の矛のような形をしていた。リアンナはそれを手に取り、じっくりと眺めた。
「隠し持つ短剣にしてはずいぶん大きいわね」と彼女は言った。
「それが何なのかよく分かっているだろう?」とローランが言った。
「ええ、分かっているわ」リアンナはため息をつきながらそれを箱に戻した。「本当にそこまでしなきゃいけないと思う?」
「それはあくまで『予備の策』ってことにしておこう」とローランは言った。「でも、その手段に訴える前にまずは本筋の計画をしっかり詰めておかないとね」
二人はさらに一時間ほどかけて行動計画を練り上げた。あらゆる不測の事態や細部、見落としているかもしれないあらゆるシナリオを検討したのだ。大まかな計画がまとまる頃には、リアンナはうとうとし始めていた。
「もうずいぶん遅い時間だ」とローランが言った。「城に戻らなきゃ」 彼の様子からは、立ち去りたくないという気持ちがはっきりと見て取れた。
リアンナはベッドに入った。彼女は顔を上げ、こう言った。「あの、ローラン? お願いがあるの。私が眠るまで……ここにいてくれない?」 頼むのは少し恥ずかしかったが、それでも口に出した。
「もちろん」とローランは言った。彼は手袋を外し、彼女の手を握ってくれた。リアンナは久しぶりに感じる安心感と満ち足りた気持ちに包まれながら眠りに落ちていった。
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