第十五話 到着、そして再会
引き続き、第二章です。お楽しみください。
アルクス・レガリウスの南には、何キロにもわたって広がる広大な森があった。正式名称は「南レガリウスの森」だが、かつて吸血鬼が住んでいると信じられていたことから人々からは単に「夜の地」と呼ばれていた。そして、今でもそう信じている者たちがいた。
森の奥深くには城があった。中世後期の様式で建てられた巨大な石造りの城で、門、城壁、塔、主塔、そしてジェット機さえ収容できるほど広大な中庭を備えていた。その中庭にストームVTOLジェット号が降り立ったのだ。
「エンデクライオン城へようこそ!」騎士たちがジェット機から降り立つとローランが言った。「中世の城だから大したことないように見えるかもしれないが、実際はもっと快適なんだ」
「そ、そ、そ、その『快適』ってとこ、ほ、ほ、本当かよ?」カイルは震えながら深い雪の中を、足を引きずるようにして言った。「こ、こ、ここ、凍えるほど寒いぞ!」
「そうか?」ローランとアンドリューは、少し当惑した様子で他の者たちの方を向いた。カイルはすぐにこの二人に不満を言っても無駄だと悟った。ローランは炎を操る能力者、アンドリューは氷を操る能力者であり、二人とも極端な温度に対する生まれつきの耐性を持っていたからだ。
「そ、そ、そうよ!」エリザベスが語気を強めた。「こ、こ、この寒さは、ま、ま、まずいわ。ロ、ロ、ローラン、お、お、お願い……」
「わかった、問題ない」ローランはそう言うと右手を鮮やかに動かして火の玉を作り出し、自分たちのすぐそばの空中に浮かべておいた。炎の温もりが凍えていた騎士たちに即座の安らぎをもたらした。
「あら、こんなに大勢の方が一度にいらっしゃるとは思いもしませんでしたわ。もし分かっていれば、もう少しこの場所を綺麗に整えておいたかもしれませんのに」
そう口にしたのは一人の女性だった。小柄な女性ではあったが、その立ち居振る舞いには威厳が漂い、実際よりも背が高く見えた。長い金髪は赤いリボンでツインテールに結われ、瞳はエメラルドグリーン。肌は雪に溶け込んでしまいそうなほど白かった。黒いボンネットを被り、赤をあしらった黒いヴィクトリア朝後期のドレスを纏い、肘まである黒いリネンの手袋を着用している。手には赤いフリルのついた黒い日傘を携えていたが、夕刻かつ降雪中という状況ゆえ実質的には雨傘として機能していた。寒さもさほど気にしていない様子だった。
彼女の姿を一言で表すなら、日本でよく使われるあの言葉がぴったりだろう――「ゴシック・ロリータ」である。
ローランは女性の方を向いた。「アンジェリカ!会えて嬉しいよ。城がもう少し準備万端だったらよかったんだけどね。」
「次は気をつけますわ」アンジェリカは気だるげな笑みを浮かべた。アンドリューの方を向くと、笑みはさらに大きくなった。「あら、アンドリュー。そんなに私にお会いたかったなんて思いませんでしたわ。こんなに早くお会いに来てくれるなんて。」
ローランの隣で、アンドリューはそわそわしてかなり緊張している様子だった。「ええと…そうですね…仕事のせいで…」アンジェリカはただくすっと笑った。
カイルはアンジェリカに視線を向けた。「ローランが『アンジェリカ』という名前を何度か口にしていたのでまさかとは思っていたけど、もしかして…アンジェリカ・セルヴァンスなのか?」
「エカルド家で時々見かてた女の子?」サーラが言った。「あなたも騎士団の一員だったの?」
アンジェリカはサンダース兄妹の方に視線を向けた。 「あら、サイモンの子供たちね。私のささやかな住まいへようこそ。」彼女は肩をすくめて続けた。「私が騎士団の一員かどうかは…まあ、名目上ですわね。公式には戦闘騎士と見なされているかもしれませんけれど、正直に言いますと、私はエンデクライオン騎士団の一員というよりは『エカルド忠誠派』なのですわ。」
アンジェリカは他の騎士たちに挨拶を始めた。「トバイアス……エリザベス……二人とも、会えて嬉しいですわ」。しかし、メレディスの前で彼女はふと足を止めた。「あら、新入りさんね」
「は、はじめまして。メレディス・テランスと申します」メレディスは丁寧ながらも、緊張した面持ちで一礼した。
「赤い髪に緑の瞳……」アンジェリカは言った。「驚きましたわ! まさかこの時期に、私の遠い親戚に会えるなんて思ってもみなかったですわ」
アンジェリカの言葉にメレディスは呆気にとられた。だがローランは指を鳴らし、「ああ、なるほど! そういえばそうだったな」と納得した様子を見せた。
「と、遠い親戚……?」メレディスは言葉を詰まらせた。「本当に?」
「まあ、あなたは7400万分の1という遺伝的な確率から生まれた存在なのでしょう? つまり、あなたと私は遠い親戚同士ってことになりますわ」アンジェリカは言った。「でも、気にしなくていいのですよ。あまりに遠い血縁ですから実質的には赤の他人と変わらないようなものでございますわ」
***
エンデクライオンの騎士たちは、二時間もしないうちに城内での拠点の設営を完了させた。ローランは大広間を前線指揮所に変え、エリザベスは礼拝所に診療所を設けた。兵舎は男女別に分けられ、厨房には食料が運び込まれた。
ローランはエンデクライオン城の最も高い塔の頂上に立ち北の方角を眺めていた。北にはアルクス・レガリウスの街の明かりが夜の闇の中で輝いていた。しかし、ローランの視線はさらにその先、街を見下ろすようにそびえ立つ暗く不吉な山脈に向けられていた。
「うわっ、すごい眺めだな」塔の頂上でローランに合流したカイルが言った。「何を見てるんだ? 街か?」
「今は違うさ」ローランはそう言うと、山脈の方を指差した。「あの山々だ。ヴァルム山脈と呼ばれている」
「あの山か?」カイルは言った。「うーん、何て言えばいいか……なんか……不気味だな?」
「不気味で当然さ」ローランは言った。「あの山々の奥深くに、『カオス・ジェネレーションズ』の本拠地である『カオス・パレス』が隠されているんだ」
カイルは目を見開いた。「えっ? 本当か?」
「まあ、名目上はな」ローランは言った。「カオジェンの連中が実際にそこへ行くことは滅多にない。実質的にはアルカンタラが何やら怪しいことをしているだけで、他の連中は呼び出された時に行くくらいだ。少なくとも、俺たちの情報ではな。上級職にとっても、あの山々は極めて険しく、踏み込むには危険すぎる場所なんだ」
「それでもやっぱり不気味だな」とカイルは言った。
「ああ、そうだな」ローランは言った。彼の視線はアルクス・レガリウスの方へと移った。「ところで、今日は何日だ?」彼はリアンナのスマートフォンを取り出し日付を確認した。
日付を確認すると、ローランは塔から飛び降り一直線に地上へと舞い降りた。
「なっ――RJ!」とカイルが声を上げ、階段を使って下り始めた。
ローランは軽やかに中庭へ着地した。彼は厨房の近く、木箱に腰を下ろして休んでいるアンジェリカを見つけた。「アンジェリカ、武器庫から何か持ち出してもいいかな?」と彼は言った。「その後、アルクス・レガリウスへ行って来る」
アンジェリカは眉を上げた。「今から行きますの? アルクス・レガリウスまでは12キロ以上もありますし、しかも深い森を抜けていかなかなければなりませんわ。それに、街に入ってからも移動がありますわ。目的地に着く頃にはかなり遅い時間になっているはずですのよ」
「街に着いたら高架鉄道を使うから」とローランは言った。「いずれにせよ、行かなきゃならないんだ。今日は、果たさなきゃならない約束の日だからね」
***
日中は、図書室での勉強や――今日のように――剣の試合といった様々な活動に打ち込むことでリアンナは気を紛らわせることができた。だが、夜は話が別だった。夜になると彼女はたった一人、誰にも邪魔されず、ただ自分の思考と向き合うだけの完全な孤独の中に置かれるのだ。そして、そんな瞬間にこそかつて誘拐された時に味わった絶望が再び彼女を押しつぶさんばかりに襲いかかってくるのだった。リアンナは孤独に慣れてはいたが、ミストカリアで感じる孤独はそれまでとは全く次元の違う恐ろしさを伴うものだった。夜中にふと目を覚ますと自分が涙を流しながら眠っていたことに気づくことも一度や二度ではなかった。
その夜もまた、そうして目を覚ましたリアンナは再び眠りにつけなくなっていた。冷たい空気に当たれば気分が変わるかもしれないと思い、彼女はベッドから抜け出してバルコニーへと向かった。だが、外に出た途端、ある物音を耳にして彼女は立ち止まった。恐怖を覚え始めたリアンナは自分に言い聞かせた。ここは王宮で最も高い塔の一つにある寝室であり、人が塔をよじ登ってくるなど不可能だと。しかし、そう考えた直後、彼女は思い至った。上級職であればそんなことなど造作もないことなのだと。リアンナがシャルロットを呼ぼうとしたその時、ある声が聞こえてきた。それは、あまりにも懐かしく、愛おしい声だった。
(いや、まさか! そんなはずはない!) リアンナはそう思った。期待してはいけないと自分を抑えながら。(ありえない! そんなことが――)
「あぁ、しまった!ちくしょう!くそっ!もう二度とグラップル・ショットを使わずに塔を登ろうとはしないぞ!あの音は無視してとにかく使っておけばよかった!」バルコニーの壁を乗り越えてバルコニーに降り立ったのは、他でもないローラン・エカルドだった。「コーディにこのグラップル・ショットに消音器を付けられるかどうか聞いてみようかな…」
ローランはリアンナがぼんやりとした表情で自分を見つめているのを見て言葉を詰まらせた。彼女を探すのに必死だったローランはいざ見つけたとなると何を言えばいいのか分からなかった。「えっと…こんばんは…リアンナ…あのさ…」リアンナの目から涙が溢れ出たのを見てローランは驚いた。しかし次の瞬間、彼女が彼に抱きつき胸に顔をうずめて泣きじゃくったので彼は完全に不意を突かれた。
リアンナはローラン・エカルドがミストカリアにいるという奇妙な状況も、彼が着ている変わった服も、ましてや自分が薄手のナイトガウン一枚しか着ていないことさえも気にしていなかった。彼女にとって大切なのは、ローランが今、まさにそこにいて、自分を腕の中に抱きしめてくれていることだけだった。「あ、あ…もう…二度と…会えないと思って…いた…」彼女はすすり泣きながら、かろうじてそう口にした。
その言葉はローランの心を深く揺さぶった。「ああ、分かっている。本当にごめん」彼はそう言い、自分の目にも涙が溢れてきた。「よかった、君を見つけられてよかった!ああ、よかった!よかった、君を見つけられてよかった!」ローランは彼女を強く抱きしめ二度と彼女を離したくないと願った。
彼らの頭上には、月が明るく輝いていた。
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