第十三話 ミストカリアの歴史
引き続き、第二章です。お楽しみください。
その後の3日間、リアンナは舞踏会の準備に追われていない自由時間のすべてを、宮殿の図書室や資料室で過ごした。そこで彼女は、閲覧可能なあらゆる書物、報告書、記事に目を通し、熱心に知識を吸収した。その甲斐あって、今や彼女は「超力者」とは何者か、下級職と上級職の違い、そして「フィジカル」と「エレメンティアン」の区別について理解できるようになっていた。さらに、ミストカリア王国そのものについても、人口構成、政治、経済、歴史といったあらゆる側面を可能な限り学んだ。自分がいま置かれている状況にもかかわらず、リアンナはこの王国について知れば知るほど、そのすべてに魅了されずにはいられなかった。
リアンナは、扉のそばに立つ衛兵に目を向けた。彼女は今、図書室にいた。日中、彼女は常に女性の衛兵たちに護衛されていた。彼女たちは単独、あるいは二人一組で行動し、身辺警護(そして、リアナが苦笑まじりに思った通り、実質的には「看守」)の役割を担っていたのだ。その時、彼女の監視にあたっていたのは衛兵隊長のシャルロット・デュ・フレイン伯爵令嬢だった。長身で金髪の彼女は、髪をピクシーカットに短く整えていた。他の衛兵たちと同様に、ブーツ、ズボン、ベスト、そしてジャボ(胸元のひだ飾り)を身にまとい、腰にはレイピアを帯びていた。
リアンナは彼女に話しかけるのをやめた。以前、デュ・フレイン伯爵令嬢に話しかけようとした際も、返事は一言だけか、あるいは全くの無言だったからだ。リアンナが彼女から視線を外そうとしたとき、昨夜の出来事がふと脳裏をよぎった。
(リアンナは夜中にトイレへ行くために起き出した。用を済ませて寝室へ戻る途中、隣の部屋から話し声が聞こえてきたのだ。そっと覗いてみると、デュ・フレイン伯爵令嬢とエヴァンテイル侯爵が言い争っていた。
「間違ってるわ、ジェラール! あの可哀想な娘がこんな目に遭うなんて、あんまりよ! 相手が王女だろうと関係ないわ。彼女を家に帰してあげるべきよ!」
「どうしたんだい、シャルロット? 王女の護衛隊長を務めることを楽しみにしていたはずじゃないか」
デュ・フレイン伯爵令嬢は少し沈黙してから言った。「昨夜、彼女の寝室に私物を置き忘れたことに気づいたの。寝ている間に入ってはいけないことは分かっていたけれど、こっそり忍び込んでさっと取ってこようと思ったのよ。中に入って眠っている彼女の顔をふと見たら……頬に乾いた涙の跡があったの。その時、ハッとしたわ。私は護衛なんかじゃない、ただの看守なんだって!」
エヴァンテイル侯爵はため息をつき、両手で顔を覆った。「分かっているが、私にはどうすることもできないんだ。ようやくそのことに気づき始めたところだよ。『昇星の評議会』のメンバーは身分に関係なく対等だと言われているが、実際にはフォン・クロフト公爵が『同輩中の第一人者』として君臨している。彼らが『彼女と話し合って、我々と来るよう説得する』と言ったのは、単に私をなだめるための方便に過ぎず、最初からそんなつもりなどなかったのではないかと疑い始めているんだ」
「ジェラール、何かできることはないの?」
エヴァンテイル侯爵はため息をつきながら言った。「評議会にもう一度話してみるよ。せめてクリスマスの舞踏会が終わったら彼女を家に帰すよう、説得できるかもしれない」)
リアンナはため息をつき、首を横に振った。エヴァンテイル侯爵とデュ・フレイン伯爵令嬢が自分を助けようとしてくれていることには感謝していたが、クリスマス舞踏会の後にフォン・クロフト公爵が自分を帰宅させてくれるなどとはこれっぽっちも思っていなかった。彼女は、そう簡単に手放すにはあまりにも価値のある存在だったからだ。
彼女は本に視線を戻し、ぶつぶつと呟き始めた。「ええと……ミストカリア王国。現在の人口は約1200万人で、国民は全員超力者……主要都市には首都アルクス・レガリウス、カンタースバーグ、グラウンズヴィルなどがあり……識字率は98%……公用語は英語、フランス語、ドイツ語、オランダ語で、イギリスに近いことから英語が最も広く使われている……信仰されている宗教はローマ・カトリックが最多で、次いでカルヴァン派……国民が超力者として存在しているだけで王国に必要な電力を賄えるため、発電所は不要……化石燃料についても同様……独自のバージョンのユーロを通貨として使用している……産業面では、必要な物資はすべて国内で生産されている。ただ、小売やサービス業に関しては、海外の大手企業のフランチャイズに大きく依存している……そもそも、それらの親会社はミストカリアに支店があることさえ認識しているのかしら……」
「あ、殿下!こんにちは!どうしたんですか?」
リアンナは顔を上げ、ルム男爵が図書室に入ってきたのを見た。「あら…御機嫌よう、ルム男爵。」
「あの、アントワーヌと呼んでください。先日お伝えしようとしていたことです。」
リアンナは心からの笑顔を見せた。「わかりました。ただし、私のことはリアンナと呼んでください。」
「あ…えっと…わかりました。こんにちは…リアンナさん。」
「ありがとうございます、アントワーヌさん。」とリアンナは言った。「それで、宮殿の図書室に何をしに来たのですか?」
アントワーヌは少し気まずそうに言った。「えっと…実は、歴史の試験で…あまり良い点数が取れなくて…それで先生が、宮殿の図書室を使えるのだから勉強に使うように勧めてくれたんです…」
アントワーヌは貴族のための私立学校、アルクス・レガリウス貴族学園の生徒だった。リアンナは、彼の裕福な両親が、彼を『昇星の評議会』の地位に金で買ったのではないかと疑っていた。 「歴史ってすごく面白いのよ!私は大好き!」
「でも、すごく退屈だよ」とアントワーヌは不満そうに言った。
「退屈じゃないわ!」リアンナは声を上げた。彼女は椅子から飛び起きるとスライド式の梯子を駆け上がり、一番上の棚から一冊の本を掴み取った。「これ、すごく面白いのよ!聞いて。この王国は5世紀初頭、私の直系のご先祖様であるアウレリウス・ミストカリアという裕福なローマ貴族によって建国されたの」彼女は一息ついて言った。「そう考えると、なんだか不思議な気分ね。とにかく、アウレリウスは西ローマ帝国の衰退に伴い、超力者への迫害が広まることを恐れていたの。特に、彼らの存在が人々に広く知れ渡るようになったらなおさらね。そこで彼は、莫大な私財を投じてその後10年間にわたり帝国の東西を巡り、さらにはゲルマニアにまで足を延ばして、ブリテン島で見つけられる限りの超力者たちを集めて回ったわ。10年の歳月を経て、彼らは9隻の船で東へと出航し、この島に上陸したの。そしてアウレリウスを初代国王としてミストカリア王国が建国されたというわけ」
リアンナは猛烈な勢いで本のページをめくっていた。彼女の熱意は周囲にも伝染し、アントワーヌ・ルムだけでなく、シャルロット・デュ・フレインまでもがその興奮に巻き込まれ始めていた。
「最初は順調だったのよ。でもやがて、ミストカリアをローマのような征服帝国へと変貌させ、ヨーロッパ中の非超力者を支配しようと目論む超力者の一派が現れたの。一方、国王派はあくまでヨーロッパとは距離を置き、この島で平和に暮らすことを望んでいたわ。事態は悪化の一途をたどって、ついに戦争が勃発したの。それが『建国戦争』よ。アウレリウス自身はその戦争で命を落としたけれど、最終的には国王派が勝利を収めたわ。そしてアウレリウスの息子が第二代国王となり父の平和的かつ孤立主義的な政策を受け継いだの。ちなみに、国王派のエリート戦士集団が『エンデクライオンの戦士』として知られるようになったのも、この建国戦争の最中のことよ。国王自身もそのメンバーの一人だったの」
リアンナは本を棚に戻し、梯子を別の区画へと滑らせた。そして別の本を手に取ると、言葉を続けた。「でも、それが後々問題になるのよね」。彼女は本を開きながら言った。「『エンデクライオンの戦士たち』は、やがて『エンデクライオン騎士団』として知られるようになり、その団員たちは『騎士』と呼ばれるようになったわ。およそ千年の間、エンデクライオン騎士団はミストカリア王国の精鋭戦士として仕えていたの。また、王位継承者が『王室連絡騎士』という特定の役割で騎士団に加わるという伝統も確立されていたわ。この称号は、次の継承者が騎士団に加わるまで、君主となった後も保持されるものだったのよ」。リアンナは言葉を切り、下のアントワーヌを見下ろした。「あ、ごめんなさい。退屈させてしまったかしら?」
「いや、大丈夫だよ」とアントワーヌは言った。「むしろ興味が湧いてきた。続けてください」
「それなら」と言って、リアンナは梯子を降りた。「問題が起きたのは、『建国戦争』から約千年後のことよ。王は『王室連絡騎士』の地位にあったけれど騎士団の長は『騎士団長』だったの。騎士団に関する事柄において王が騎士団長に従う立場にあるという事実を、多くの貴族が快く思っていなかったのよ」。リアンナは一呼吸置いてから言った。「もっとも、それはあくまで表向きの理由に過ぎなかったけれど。実際には彼らは騎士団が持つ権力や影響力を妬んでいたというのが真相のようね。ともかく、ある貴族の集団が十分な支持を集めて軍を組織し、エンデクライオン騎士団を排除して王室を直接支配しようと画策したの。その結果起きたのが『ミストカリア内乱』よ。この時も王とエンデクライオン騎士団が勝利を収めたけれど、その代償は大きなものだったわ。再び争いの火種になることを望まなかったエンデクライオン騎士団は自ら亡命の道を選んだの。内乱を終結させた『アルクス・レガリウス条約』によってエンデクライオン騎士団はミストカリアから正式に追放されたわ。もっとも、後に条約が改正されてここから南にあるエンデクライオン城にエンデクライオン騎士団の常駐部隊を置くことが定められたのだけれど」
リアンナは言葉を切り、少しの間考え込んだ。もし今もなおエンデクライオン城に騎士団の一団が残っているのなら、それは騎士団という組織自体が存続しているということではないのかしら?だとすれば、彼らはどこへ行き、これまでの間一体何をしていたの?
外から金属がぶつかり合うような音が聞こえ、リアンナの思考は遮られた。彼女は気になって、読んでいた本から顔を上げた。「あら、何かしら?」
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