第八話 王女?
引き続き、第二章です。お楽しみください。
リアンナが呆然としたというのは控えめな表現だった。「な、な、何を言っているんですか?」彼女はどもりながら言った。
「申し上げた通りです、殿下」と男の一人が言った。彼はプラチナブロンドの髪をしたハンサムな青年だった。彼の声から誘拐に訴えたもう一人の男を叱責していたのが彼だと分かった。「私はジェラール・エヴァンテイル侯爵です。あなたはリアンナ王女、ミストカリア王国の長らく行方不明だった王位継承者です。」
「いやいやいや、そんなのデタラメよ」とリアンナは首を振った。「私はただのリアンナ・ケリス。アニメや漫画、ゲームが好きなごく普通の十代の女の子にすぎないわ」
「数週間もすれば、DNA鑑定が決定的な証拠をもたらしてくれるはずです」とエヴァンテイル侯爵は言った。「だから、それまでは辛抱強く待ってもらいたい」
「そんなに待っていられるか」と、もう一人の男が言った。彼は若々しく、少年の面影を残す美貌の持ち主だった。鮮やかな赤毛に茶色の瞳をしており、その立ち居振る舞いからはじっと大人しく待つようなタイプではないことがうかがえた。「彼女はロケットを持っているし亡き王妃と瓜二つだ。それだけで十分な証拠になるはずだ!」
「静かにしろ、ドリアン・ハンプトン子爵!」エヴァンテイル侯爵は語気を強めて言った。「ただでさえ、お前は厄介な立場にあるというのに!」
リアンナは自分の前に跪く二人の男を見つめた。彼女は無意識のうちに幼い頃から身につけていた首元のロケットを握りしめていた。それは、彼女が行方不明の王女であることを証明するものだとされる品だった。「もしDNA鑑定に時間がかかるのならせめてその間は自宅にいさせていただけませんか? DNAの提供なら私自身が行います。そして、私が王女であるという確実な証拠が得られた時点で、その後のことを私自身に決めさせていただけないでしょうか?」
エヴァンテイル侯爵は心底申し訳なさそうな表情を浮かべた。「申し訳ございません、殿下。しかし、もはや手遅れなのです。あなたをお連れして戻ることはできません」と彼は言った。「ミストカリアは孤立した国です。それは単に政治的な意味だけではなく、地理的な意味でもそうです。北海に浮かぶ島国でありその特殊な環境ゆえに、船であれ飛行機であれ、たどり着くことさえ極めて困難なのです。航行には入念な準備が必要で一度出発すれば針路を外れることは許されません。途中で進路を変えれば、最悪の場合、命に関わる事態になりかねないからです」。彼は頭を垂れ、こう続けた。「それに……残念ながら、私たちはすでにミストカリアの領空に入っているのです」
リアンナは無表情のまま男たちを見つめ続けた。しばらく沈黙した後、彼女は「今は一人にしておいてください」と言った。二人の貴族は互いに顔を見合わせると部屋から出ていった。
貴族たちが立ち去るやいなやリアンナは苛立ちを露わにして声を上げ、拳でベッドを叩いた。だが、以前とは違い今の彼女には「使える材料」があるように思えた。「いいわ!そういうことならこの『ゲーム』に乗ってやるわよ!」と彼女は宣言した。「この国、ミストカリアについて徹底的に調べてやる。政治、人口、歴史、経済……『王女』としての立場を強固にし、何らかの力を振るえるようになるための材料なら何でも。そうして王女という地位を最大限に利用し、実家へ帰る方法を見つけ出すのよ」彼女は深呼吸をして心を落ち着かせた。「少なくとも、この立場を利用してローランと連絡を取る方法を探ることはできるはずだわ」それは微かな希望だったが、それでも確かに希望ではあった。
***
「ああ、戻って来られて本当に嬉しいよ」とアンドリューは言った。彼とローランはエンデクライオン本部のメインホールを歩き回っていた。「見たところ、特に変わったところはないみたいだけど…僕がいない間に何か大きな出来事はあったかい?」
「いや、特にないよ」とローランはぼんやりと答えた後、少し考え込んだ。「いや、訂正する。お前がいない間にいくつか大きな変化があったんだ」
「そうかい?」とアンドリューは言いながら、ローランと共に医療棟に入った。見覚えのある人物を見つけるとアンドリューの顔がぱっと明るくなった。「リズだ!やあ、リズ!僕だよ!ただいま!」
エリザベス・マッカーサーは、口にプレッツェルスティックをくわえたままワークステーションから驚いて顔を上げた。彼女の表情はすぐに喜びに変わった。「アンドリュー!おかえりなさい!」アンドリューが彼女のところへ歩み寄ると、彼女は立ち上がり、二人は抱き合った。
「兄さんが君の仕事量を増やしすぎていないかい?」とアンドリューは言った。 「任務中は彼がどれだけ不注意になるか君も知っているだろう?」
「ええ、機会あるごとに不満を表明してきましたよ」とエリザベスは冷ややかに言った。
「おい、俺はここにいるぞ」とローランが言った。「エリザベスの医療部長としての働きぶりは、まさに模範的だ」
「まあ、そうでなければ、彼女は僕たちのリズじゃないだろう…」アンドリューは治癒騎士研修生の制服を着た赤毛の少女が医療棟に入ってくるのを見て言葉を止めた。「新人か?ちょっと失礼」
ローランとエリザベスは二人とも何が起こっているのかを見てうんざりした表情を浮かべた。「ああ、またかよ?」とローランは呟いた。
「失礼ですが、お嬢さん」とアンドリューは滑らかな声で言った。「あなたのように繊細な花のような方にお会いするのは初めてです。僕の名前はアンドリュー・エカルド、戦闘部隊の隊長です。どちら様でしょうか?」
「え?」と赤毛の少女は明らかに戸惑った様子で言った。「あ!ええと、すみません。私の名前はメレディス・テランスです。」
「美しい女性にふさわしい、素敵な名前ですね」とアンドリューは言った。「もしお時間があれば本部のレイアウトをご案内しましょうか。それから、コーヒーショップで一杯おごらせていただくのもいいかもしれません。」
「あ、ええと、お申し出ありがとうございます」とメレディスは言った。「でも、申し訳ありませんが、実は、ええと、今、付き合っている人がいるんです。」
「おい!俺の女に手を出すな!」カイル・サンダースはメレディスの後ろに回り込み、少し独占欲が強かったがメレディスは気にしていないようだった。そしてアンドリューを睨みつけた。
アンドリューは瞬きをした。「カイル?」
カイルもまた、笠帽の下の顔を見て瞬きをした。「アンドリュー?」彼は実際に微笑みながら言った。「やあ、やあ!戻ってきたのか!海外にいたって聞いてたよ。」しかし、すぐに表情は険しくなった。「だが、同じことだ。俺の女に手を出すな!」
「ああ、ごめん」アンドリューは少し気まずそうに言った。「彼女が君の彼女だと知っていたらデートに誘ったりしなかったよ――」アンドリューは何かを思い出して言葉を止めた。「待てよ。カイル、君はここにいる。本部に立っている。エンデクライオン騎士団本部に立っている。そして君には彼女がいる。」彼は笑いながら、「これは愉快だ!」と宣言した。
「ああ、お前がいない間にいろいろあったよ。でも、サーラも俺も今は騎士団の一員なんだ。」と、カイルは言った。彼は眉をひそめて尋ねた。「で、その帽子は何だ?」
「おい、笠に触るなよ。これは僕の特注装備なんだ」とアンドリューは言った。
「そうかい」とカイルは答えた。彼はメレディスの方を見て、「こいつはローランの弟、アンドリューだ」と言った。
「はじめまして」とアンドリューは、今度はきちんとした口調で言った。「戦闘部隊長のアンドリュー・エカルドです。」
「ええ、はじめまして」とメレディスは答えた。
アンドリューはふと思いついた。ローランの方を向き、「あの、カイルのお父さんの昔の仕事を僕が引き継いだのは気まずくないかな?」と尋ねた。
「カイルが本当にそれを問題視すると思うか?」とローランは尋ねた。
「もちろん、問題ないよ」とカイルは言った。「どうして問題視するんだ?」
「ごめん、馬鹿な質問だった。ただ…」アンドリューは言葉を途中で止めた。別の少女が医療棟に入ってきたのだ。彼女はフード付きのポンチョを着ていて、長いブロンドの髪がフードから覗いていた。顔は隠れていたもののかなり魅力的であることは明らかだった。
アンドリューは彼女のところへ駆け寄り、再び愛想よく声をかけた。「こんにちは、お嬢さん。アンドリュー・エカルドと申します。戦闘部隊長です。よろしければ、コーヒーでもご馳走させていただけませんか?」
少女の表情は驚きから苛立ちへと変わった。 「正直言って、アンドリュー?久しぶりに会ったのにこんな挨拶をするの?全然変わってないなんて、安心すべきか、それともイライラすべきか分からないわ」と、彼女はフードを後ろに引いて言った。
アンドリューは嬉しそうに目を丸くした。「サーラ!君も本当にエンデクライオンの騎士になったんだね!」彼は再び洗練された声に戻した。「とはいえ、コーヒーのお誘いは…」
「遠慮しておくわ」
「ちくしょう!」
「アンドリューは相変わらずですね」トビーも医務室に入りながら言った。
「やあ、トビー」アンドリューが声をかけた。「何を持ってきたんだ? 僕の報告書の続報かい?」
「まあ、そんなところです」トビーはローランの方へ歩み寄った。「団長、戦闘部隊長が提出した報告書の続報があります。どうやらミストカリアの王女が発見されたようです。ただし、見つけたのはカオジェンではなく、ミストカリアの工作員たちでした」
ローランは目を細めた。「我々の許可なくナイツレストでミストカリアの工作員が活動していたというのか? それは『アルクス・レガリウス条約』への明白な違反だぞ! 彼らはまだ街にいるのか?」
「いいえ、団長。諜報部隊長アイリーン・ローレンスによれば、彼らはすでに王女を連れてミストカリア行きの航空機に搭乗したとのことです」とトビーは答えた。
ローランはため息をつき、言った。「まあ、すでに出発してしまったのならミストカリアに正式な謝罪を求める以外に打つ手はないな。もっとも、それが何の役に立つかは疑問だが」
「結局、カオジェンの動きはすべて無駄骨に終わったわけか」アンドリューが言った。「彼らより先にミストカリア側が王女を見つけ出し確保したんだからね。はっ! いい気味だ」彼はローランに向き直り、尋ねた。「じゃあ、この件は一件落着と考えていいかな?」
「そう急ぐなって」ローランは言った。「カオジェンは依然として王女を狙っているんだから。確かにミストカリアが彼女を奪還した以上、王女の安全は我々ではなく彼らの責任だ。だけどそれだけで済ませる気にはなれない。あの条約のせいでアルクス・レガリウス内での全面的な活動は制限されているけど、現場の工作員に彼女の動向を監視させることくらいはできるはずだよ」彼はトビーの方を向き、尋ねた。「他に何かあるかい?」
「他に特筆すべきことは何もないですが、一つだけ…奇妙な点があります」とトビーは眉をひそめて言った。「どうやら、王女は飛行機に搭乗した時、ぐっすり眠っていたらしいです。ローレンス隊長は重要視していなかったようですが念のためメモを取っていたそうです」
「ぐっすり眠っていただと?」ローランも眉をひそめて言った。「それは…奇妙な点だね。だけど、それが重要な点かどうかは分からないな」
「ローレンスは王女が飛行機に搭乗する時の写真を何枚か撮っていました」とトビーはローランに封筒を手渡しながら言った。「私はまだ見ていませんが」
「よし、ではその謎の王女の姿を見てみよう」ローランは封筒から写真を取り出しながら言った。「本当にうちの学校の生徒なのか…」ローランは写真を見た途端に言葉を止めた。目を見開き、顔色を青ざめさせ、口をあんぐりと開けた。「えっ?何?」彼は叫んだ。そして別の写真に目を移した。 「どうして?何?こんなことあり得るのか?」彼は別の写真に目を移し、「何か説明はあるのか?一体何が起こっているんだ?」と叫んだ。やがて彼は激昂し、すべての写真を次々と見ていき、ますます動揺しながら「説明はあるのか?どういうことだ?一体何が起こっているんだ?」とつぶやき続けた。
他の騎士たちは心配し始めた。「えっと、RJ?」とカイルが言った。「どうしたんだ?その写真には何が写っているんだ――」
ローランは突然写真を床に投げ捨て、医務室から飛び出した。他の騎士たちは互いに顔を見合わせ、それから写真に目を落とした。そこに写っていたものに、カイル、サーラ、メレディス、アンドリューは驚きのあまり目を見開き、同じ名前を叫んだ。
「リアンナ?!」
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