第七話 アンドリュー・エカルド登場
引き続き、第二章です。お楽しみください。
一瞬、信徒たちの間に静寂が訪れた。やがて、一人が口を開き「これは我々のチャンスだ!兄弟二人を同時に倒せれば、カオス・ジェネレーションズにとって計り知れない利益になる!」と言った。
「君のポジティブ思考は素晴らしいよ」とアンドリューは言い、杖の先端を引っ張るとそれが仕込み鏃であることが明らかになった。彼が抜き出した長さ1メートルの直刀は刃が完全に氷でできていた。「だけど、ポジティブ思考だけでは限界があるのさ」彼はローランの方を見て、「さあ兄さん、やりますか?」と尋ねた。
「いつでも準備はできているぞ」とローランは宣言した。彼は突然、体から激しい炎を噴き出し周囲の氷の結界を吹き飛ばすとアンドリューのいる場所へと突進した。ローランが近づいてくるのと同時にアンドリューは振り返り、二人の兄弟は背中合わせに立ちカオス・ジェネレーションズの信徒たちが彼らを取り囲んだ。
ローランは観空型の構えをとっていた。彼の主な武道は極真空手(ただし、彼はかなり即興的な動きをする傾向があった)であり、観空型は常に彼が最も得意とする型だった。一方、アンドリューは霞の構えで刀を構えていた。それが彼のお気に入りの構えだった。何よりも、単純に見た目がかっこいいと思っていたからだ。兄弟は二人とも目を細めると相手に向かって飛び出した。
ローランとアンドリューは、信徒たちの間で暴れ回り彼らを次々と打ち倒していった。ローランは以前よりも躊躇なく自身の炎の能力を行使していた。それは明らかにアンドリューが氷の能力で炎による二次被害をすべて無効化できるからだった。ローランは攻城槌のような勢いで敵に突進し、圧倒的な速度と力、そして文字通りの「火力」で敵を完全に制圧していった。一方のアンドリューは繊細かつ計算された戦いぶりを見せた。彼はカウンターや正確な剣撃、そして時折放つ氷の攻撃を駆使し必要な分だけ的確に敵を仕留めていった。対照的な戦闘スタイルでありながら、二人の兄弟は互いの動きを完璧に補い合い、相手が取りこぼした敵を確実に処理していた。信徒たちが全員制圧されるのは時間の問題だった。
「よし! エカルド兄弟の勝ちだな!」ローランはそう叫び、アンドリューとハイタッチを交わした。
「ああ、こんなふうに思い切り暴れたのは久しぶりだね」とアンドリューは言った。「兄さんと一緒に現場に出るのが本当に恋しかったよ」
***
それから間もなく、警察騎士が聖アヴィントンに到着し捕らえられた「信徒」たちを連行し始めた。その数は全部で百人ほどにのぼった。
「まったく、驚いたな。俺がエンデクライオンに所属して以来これほど多くの信徒を一度に捕まえたのは初めてかもしれない」とローランは言った。「一体、これほどの人数で何をするつもりだったんだ? まさか、俺と鉢合わせした時のためだけじゃないだろう?」
「兄さんを倒すのに必要な人数だったかどうかはさておき、彼らが聖アヴィントンで何をしていたかその理由は言えるよ」とアンドリューは答えた。「彼らは『王女』を探していたんだ」
「王女だって?」ローランは眉をひそめた。「待てよ、ミストカリアの行方不明の王女のことか? 彼女は聖アヴィントンの生徒だったのか?」
「どうやらそのようだね」とアンドリューは言った。「ミストカリアではその噂で持ちきりだよ。僕が戻ってきたのもそれが理由さ。ミストカリアから外部へ通信を送るのは極めて困難だから、それならいっそ国を出て直接報告を届けたほうが手っ取り早かったんだ。『行方不明だった王女が見つかったかもしれない』てな」
アンドリューは拘束されてはいるものの、まだ警察騎士に連行されていない信徒たちのほうへ歩み寄った。「こいつらはそこらのカオジェン信徒とはわけが違うんだ。ミストカリアから直接やって来た連中だ。カオジェンは今も王女を自分たちのものにしようと狙っているが、彼女の正体を知るのは今のところ貴族のごく一部の人間だけさ。だからミストカリアの工作員たちに王女を連れ戻される前に彼女を見つけ出そうとわずかな手がかりからその正体を突き止めようとしていたのさ」
「なるほど、だから町役場にいたのか」とローランは言った。「人口調査の記録から彼女の身元を特定しようとしていたわけだ」
アンドリューが何か言いかけようとした時、聞き覚えのある女性の声が「アンドリューよ!アンドリューが帰ってきたわ!」と叫んだ。満面の笑みを浮かべたヘレン・エカルドが、夫のエドワードを伴って駆け寄ってきた。
「母さん?父さん?」アンドリューは二人の姿を見て明らかに驚いた様子で言った。ヘレンは彼を抱きしめ、恥ずかしがる彼の顔にキスを浴びせ始めた。
「おやおや、アンドリューが帰ってきたぞ」エドワードは満面の笑みを浮かべて言った。「これでようやく家族みんなで集まれるな」
「あの、父さん、今、大勢の信徒を逮捕している最中なんですけど」ローランが言った。「だから、ちょっと忙しいんです」
「家族と過ごす時間はあるだろう?」エドワードは眉をひそめて言った。「その後もエンデクライオンはそこにあるんだぞ」
「そうよ」ヘレンも眉をひそめて言った。 「私たち4人が一緒に過ごすのは本当に久しぶりなのよ。家族と過ごす時間を作るべきよ。」
ローランがアンドリューに目を向けると、彼は肩をすくめて応じた。「いいじゃないか。こういう仕事なら、後でいくらでも片付けられるし」
「ああ、そうだね」とローランは言った。「仕事は明日まで待てる。今夜は家族との時間だ」
「やったー!」ヘレンは言った。「さあ、行きましょう!」彼女とエドワードは校長室へと歩き始めローランとアンドリューもすぐ後ろをついて行った。
アンドリューはローランの方を向き、「ミストカリアでみんなとしばらく離れていたからはっきり言えるんだけど、ちょっとした煩わしさがある方が、全く煩わしさがないよりずっといいよ」と言った。
その言葉はローランの心に響いた。サーラが父親が卒業式に出席できないことを嘆いていたこと、カイルが予想よりもずっと早く家族の道場を引き継ぐこと、メレディスが孤児院で育ち今は聖アヴィントンの寄宿舎で暮らしていることを思い出した。そういえば、トビーとエリザベスも本部で暮らす孤児だった。今夜、おそらく一人ぼっちでアパートにいるであろうリアンナのことを考えると特に胸が締め付けられた。
「ああ、リアンナ、カイル、サーラ、メレディスが置かれている状況を考えると、父さんと母さんのことを文句言うべきじゃないな。もう彼らにイライラしないように努力するよ」両親の様子を見て、彼は顔をしかめた。「でも、もう少し人前でのイチャイチャを控えてほしいな」
「同感だよ」とアンドリューは言った。「ちょっと待って。メレディスって誰?」
***
リアンナはぼんやりと目を開けた。うっ、あの唸るような音は何だろう? 彼女は眠気を拭おうと目をこすりながら、そう思った。ふと昨夜の出来事を思い出し、彼女は周囲を見回した。そこは見知らぬ部屋でまるで高級ホテルのような空間だった。それだけでなく、不気味なほど馴染みのある振動と何かが唸るような低い音が感じられた。嫌な予感を抱きながらリアンナが窓のブラインドを開けるとその予感は即座に的中した。
彼女は飛行機の中にいたのだ。
(なんてこと! なんてこと! なんてこと! なんてこと! なんてこと! なんてこと!) 彼女はパニックに陥りかけていた。(誘拐されたんだわ! なんてこと! 誘拐された。先月、あの赤毛の女の子たちがそうだったように。でも、あの子たちはみんな無事に見つかって家に帰れたはず。私の髪は赤褐色だけど……あれって「赤」に近い部類に入るのかしら? 私はずっと、茶色に近い色だと思っていたけれど。)
不思議なことに、進路相談のシートを作成していた時のローランの言葉が脳裏をよぎった。「深呼吸して、頭を空っぽにしてみるんだ。」
「よし、落ち着いて」と彼女は言った。何度か深呼吸をして高ぶる気持ちを鎮める。「さて、まずは誰かに連絡しなきゃ。ローランに電話しないと」
彼女はスマートフォンを探そうとしたが恐ろしいことにそれを持っていないことに気づいた。(誰にも連絡できない! ローランに連絡できない!)と彼女は思った。再びパニックに陥るまいと必死にこらえる。(ローランに連絡できない! もし二度と彼に会えなかったらどうしよう?)
その考えがよぎったとき、彼女は動きを止めた。パニックになりかけていたわけではない。それとは別の思いが、心に浮かび上がってきたのだ。(もし二度と彼に会えなかったら? もし誰にも二度と会えなくなったら? ローラン、カイル、サーラ、アンドリュー、メレディス、エカルド夫妻……)
そんな思いとともに、ある感情がリアンナを完全に支配した。それは「絶望」だった。
涙がとめどなくあふれ出し激しい嗚咽が彼女の体を揺さぶった。リアンナはこれまでの人生で経験したどんな時よりも深く、激しく泣きじゃくった。ベッドに倒れ込み、枕に顔を押し付けて抑えきれない嗚咽を漏らしながら彼女は周囲のすべてを遮断しようとした。やがて嗚咽が静まり始めた頃になってようやく彼女は隣の部屋から聞こえてくる声に気づいた。
「こんなやり方じゃなかったはずだ」と声が言った。「彼女を説得して連れて行くはずだったのに、誘拐するなんて!」
「もう済んだことだ」と別の声が言った。「ジラス卿は説得がうまくいかなかった場合は機会があれば別の方法で連れて行くべきだと提案していた。俺はチャンスを見つけたから利用したんだ!」
「誘拐する前に説得しようとすらしなかったのか!」
(もしかしたら、無理やり連れて帰らせることができるかもしれない)と彼女は思った。(私は高校のフェンシングチャンピオンなんだから。剣の代わりになるものを見つけられるかもしれない)
寝室には剣の代わりになるようなものは何もなかった。彼女は武器になりそうなものを探そうと隣の部屋のドアに向かった。その時、ドアが開き二人の男が入ってきた。しかし、男たちは彼女が目を覚ましていることに気づくと彼女が全く予想していなかったことをした。
彼らは彼女の前にひざまずいた。
「お目覚めになったようですね」と男の一人が言った。「リアンナ王女殿下」
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