第六話 家族張り込み
引き続き、第二章です。お楽しみください。
「あのさ、これは張り込みであって家族の集まりじゃないんだぞ」とローランは不満げに言った。彼は校長室の椅子に座り、いつものエンデクライオン騎士団の服装を身にまとっていた。対照的に、彼の母親はカジュアルな服装をしている。
「私は校長よ。学校内で起きるあらゆる出来事を監視するのは当然のことだわ」とヘレンは言った。「それに、ワクワクするじゃない。聖アヴィントン校に忍び込むなんて高校の時以来だわ。今や私がここの責任者だっていうのがなんとも皮肉だけどね」
「母さんの言う通りだね」とローランの父親がポップコーンの容器を二つ抱えて部屋に入ってきた。エドワード・エカルドは、二度の受賞歴を誇るベストセラー作家だ。口ひげを蓄え、厚いレンズの眼鏡をかけている彼はローランを年取らせたような容貌をしていた。「ああ、懐かしいな。昔はこのキャンパスでとんでもない冒険や騒動を繰り広げたものだよ」
「当時はまだ正式に付き合ってさえいなかったのよね」とヘレンは言った。「そうよ、いいこと思いついたわ。昔よく行った場所を巡ればまたあの頃みたいにドキドキできるかも。何しろ、当時はまだ正式なカップルじゃなかったんだから」
「それは名案だ」とエドワードは言った。「友人たちが言うところの『くっつくの?くっつかないの?』なんていう野暮な話に邪魔されることなく純粋に楽しめるからね」彼はヘレンに暖かい笑みを向け、ヘレンもそれに応えて微笑んだ。そしてローランの方を向き、「ポップコーン、いるか?」と尋ねた。
「ありがとう、父さん」ローランはぶつぶつ言いながらポップコーンを受け取った。「毎日こんな調子なんだよ」
「まあまあ、ローラン。親が互いへの愛をオープンにすることの何が悪いんだい」とエドワードは言った。「君の弟がここにいないのは残念だね。いたら本当に『家族の集まり』になったのに」
「そういえば、あの子はいつ戻ってくるのかしら?」とヘレンが尋ねた。「せめて卒業式までには戻ってきてほしいわ。二人の息子に直接卒業証書を渡したいのよ。片方が欠席なんて嫌だもの」
「そう長くはかからないはずだ」とローランは言った。「もっとも、あの国は忍び込むのと同じくらい、こっそり抜け出すのも難しい場所だから……」ローランは言葉を切り、表情を険しくした。彼は両親に静かにするよう合図すると膝をつき、床に耳を当てた。「奴らが来た!」
***
3人の男が学校の事務室で書類を漁っていた。彼らは皆、先ほど町役場に潜入した者たちと同じ仮面とローブを身にまとっていた。作業に没頭していたため入り口に誰かが立っていることに当初は気づかなかったようだ。
「よお、お前ら」と、入り口から声がかかった。驚いて顔を上げた3人の目に映ったのはそこに立つローランの姿だった。「うちの学校に転入したいなら正規の手続きを踏んでもらわないとな」
男たちは互いに視線を交わすとローランに最も近い2人が彼に向かって突進した。ローランは後ずさりして相手を廊下へと誘い出すと2人の顔面に同時に回し蹴りを叩き込んだ。一人は即座に気絶し、もう一人はよろめきながら後退した。ローランは素早く前蹴りを2発繰り出しその男を仕留めた。
その頃には、3人目の男も戦いに加わっていた。彼はローランに攻撃を仕掛けたがローランはそれを軽々とかわした。そして、相手の胴体にパンチと2発の蹴りを叩き込み地面に沈めた。男が這い上がろうとした瞬間、ローランは彼の頭部に肘打ちを食らわせ完全に気絶させた。
「よし、これで厄介ごとは片付いた。次は――」ローランは言葉を途中で切った。周囲のオフィスからカオジェンの信徒たちが次々と姿を現し始めたからだ。気づけば、ローランは15人ほどの信徒に包囲されていた。「何だと?」
「それほど驚くことか、エカルド?」信徒の一人が言った。「町役場で我々のチームを排除した後、お前がこの任務に介入してくることは織り込み済みだった。だからこそお前を仕留めるのに十分な人数を揃えてきたというわけだ」
町役場の一件に触れられ、ローランは自分のサイリック・シールドがいかにして無効化されたのか未だにその原因が分かっていないことを思い出した。それに、ここは学校の屋内だ。炎を操る能力を全力で使うことには抵抗がある。普段なら15人の信徒など容易く相手にできるローランだったが、今の状況には少なからず神経を尖らせていた。それでも彼は信徒たちを睨みつけ、こう言い放った。「かかってこい」
信徒たちが一斉にローランへ襲いかかった。ローランは素早い動きで二人を退けるとそのまま跳躍し上空からさらに三人の頭上へと舞い降りた。だが、信徒を倒せば倒すほど他の部屋や廊下の両端から次々と新たな信徒が押し寄せてくる。やがてローランは何とかして彼を圧倒しようと執拗に迫る少なくとも五十人もの信徒を相手に戦う羽目になった。しかも、敵の数は増え続ける一方だった。
炎を操る能力の使用を極力控えていたおかげで圧倒的な数の敵を相手にしてもローランの体力は持ちこたえていた。とはいえ、あまりにも多すぎる敵を相手にするのはさすがの彼にとっても過酷だった。次第に、ローランは追い詰められつつあった。
「誰か助に来てくれないかな……まさに今、この瞬間に……」さらに多くの信徒が群がってくる中、彼は苦々しくそう呟いた。
一度に少しずつ相手にできる信徒の数には限りがあったため多くの信徒が順番待ちで後方に並んでいた。そんな信徒の一人が最初に異変に気づいた。「おい、ここ、ちょっと寒くなってきたな」と彼は言った。
「ああ、そうだな」と別の信徒が答えた。「どうして急に…うわっ!」信徒は滑って仰向けに倒れた。その時、床が凍っていることに気づいた。
ローランは必死に侍者たちと戦っていたが、突然、鍾乳石のように太い氷柱が床から突き出し彼の周りに防護壁を形成した。信徒たちは皆氷柱に戸惑い立ち止まった。そして初めて床が凍り、壁が霜で覆われていることに気づいた。一方、ローランは、最初は困惑と驚きの表情を浮かべていたがすぐに喜びの表情に変わった。「おや、これは何だ?」と彼は叫んだ。信徒たちが攻撃をやめた今になってようやく彼らは自分たちのほうへ向かってくる足音を聞くことができた。
足音の主は、身長183センチほどの若者だった。何より目を引いたのは、顔をすっぽりと覆い隠す「托鉢笠」を被っていることだ。その装束は、ローランが身につけていた赤と青の衣装をそのまま白一色にしたようなものだったが、その上から藍色の襟の低いノースリーブの上着を羽織っていた。それらの衣装は黒い帯で留められている。腕には銀と黒の指ぬき籠手を装着し、足元は白足袋に下駄という出で立ちだ。左手には何の飾り気もない長さ1.5メートルの杖を携えていた。
「フーン、僕の助けが必要なのかな?」と、その男は言った。
「なあに、自分一人でも十分片付けられるさ」ローランはにやりと笑って言った。「だが、お前が手を貸してくれるというならもちろん断りはしないよ」
「ははっ、さすがは僕の双子の兄さんだ」男はそう言うと、笠を持ち上げて顔を露わにした。そこにはローランと瓜二つの顔があった。唯一の違いは、髪の色がわずかに濃く短めに切り揃えられていること、肌の色がほんの少しだけ明るいこと、そして左の顔面に走る傷跡があることくらいだ。「で、どうする? 正式にやる、それとも気楽に済ませる?」
「正式にやろう」ローランは言った。「さっさと片付けてしまったほうがいいさ」
「承知しました」男は背筋を伸ばし左手で杖を真っ直ぐに構えつつ、右手は腹のあたりに添えてまるで礼をするかのような姿勢をとった。「団長、戦闘部隊長アンドリュー・エカルド、海外任務より帰還し正式に報告いたします」
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