第五話 校長先生
引き続き、第二章です。お楽しみください。
「え?メレディスは看護師になりたいの?」リアンナが尋ねた。彼女とローラン、カイル、そしてメレディスはまた学校の図書館で進路相談の用紙に記入していた。
「ええ、そうよ」とメレディスは答えた。「最近の出来事で物事の見方が変わったの。だから私は人助けに人生を捧げたいわ。」
「この用紙に『エンデクライオンの騎士』って書けばいいのか?」カイルはローランに小声で尋ねた。「それでうまくいくかよ?」
「いいじゃないか、僕もそう書いたよ」とローランは小声で答えた。「ここの職員の中には騎士団のことを知っている人がたくさんいるから。でも、もしそれが嫌なら親父さんの道場を継ぐって書けばいいんじゃないか?」
「おお、そうしよう」とカイルは言った。「えっと…道場…」
リアンナはカイルが道場のことを口にするのを耳にした。「じゃあ、カイルは道場を完全に引き継ぐのね」と彼女は言った。「すごいな、もう将来の計画があるんだ。それに比べて、私は何も決まってないや。興味のある大学はいくつかあるけどそこで何を専攻するかまでは考えてないし。フェンシングは好きだけどプロになりたいわけでもないしね」
「おいおい、少し落ち着こうよ、リアンナ」とローランが言った。「深呼吸して、頭を空っぽにしてみるんだ。それから、子供の頃に抱いていた夢について考えてみて。そこから始めてみよう」
「そうね、落ち着かなきゃ」リアンナは何度か深呼吸をした。「えーっと、子供の頃の夢……夢か……」突然、彼女の顔に不安の色が浮かんだ。「ちょっと待って。私、そもそも子供の頃に夢とか目標なんて持ってたっけ?」
ローランとカイルは戸惑った様子で顔を見合わせ、それからリアンナの方を向いた。「そういえば、君が将来の夢や何になりたいかについて話したことって一度もなかったな」とカイルが言った。
「まあ、君の家庭環境を考えれば、将来の夢みたいなものを特に優先してこなかったのもある意味納得できるかもしれないな」とローランが言った。
リアンナは沈んだ表情を浮かべた。彼女は立ち上がると言った。「今日は早めに帰ることにするわ。自分の将来についていろいろ考えなきゃいけないことがあるから。それじゃあ、またね」
リアンナが去った後、メレディスは「リアンナの家庭生活に何か問題があるの?」と尋ねた。
ローランは眉をひそめて、「複雑な事情があるんだ。個人的な問題だから具体的に話せないけど、リアンナは当初、家庭の状況を紛らわすためにアニメやゲーム、フェンシングといった趣味に没頭したんだ」と答えた。
「リアンナのキャリアの問題を解決する方法が少なくとも一つ思いつくよ」とカイルが言った。カイルの意図を察したメレディスは頷いた。
「ああ、何だい?」とローランは尋ねたが、答えは既に分かっているような気がしていた。
「リアンナにエンデクライオン騎士団のことを話してあげて」とカイルとメレディスは同時に言った。
ローランはため息をつきながら言った。「ああ、わかってるよ。ただ……」その言葉は、校内放送によって遮られた。
「ローラン・エカルドさん。ローラン・エカルドさん。校長室へ来てください」
ローランは苛立たしげに言った。「マジかよ? 校内放送を使うなんて」
カイルはにやりと笑って言った。「急いだほうがいいぜ。校長を待たせるわけにはいかないだろ?」
「ああ、わかっているよ」ローランはそう呟いて立ち上がった。図書室から出ようとしたとき彼は男子生徒二人の会話を耳にした。
「いいな、校長に呼び出されるなんて」と一人の生徒が言った。
「全くだ」と、もう一人が応じた。「校長っていい女だよな! 俺なら……」彼はローランが自分を鋭く睨みつけていることに気づきすぐに口をつぐんだ。
「ガキどもが」ローランは悪態をつきながら校長室へと向かった。そして部屋に入ると、「ローラン・エカルド、呼び出しに応じて来ました」と言った。
校長室自体は学校の管理職の部屋としてごくありふれたものだった。だが、机の向こうに座っていた女性は決してありふれた存在ではなかった。その女性校長は息をのむほどの美女で、40歳という年齢ながら、30代、あるいは20代にさえ見えかねない若々しさを保っていた。ストロベリー・ブロンドの長い髪を肩に自然に流し、グレーのスーツ・ドレスを身にまとった姿からはプロフェッショナルとしての威厳が漂っている。今、彼女の琥珀色の瞳は厳しくローランに向けられていた。
「ローラン」と校長は言いながら立ち上がった。彼女のプロフェッショナルな表情は瞬時に消え失せ心配と動揺の色が浮かぶ。彼女はローランの元へ駆け寄るとその顔を両手で包み込んだ。「ローラン、大丈夫なの? 怪我は? どこも悪くない? エリザベスから昨日あなたが撃たれたって聞いたのよ。上級職超力者には銃なんて効かないはずじゃなかったの?」
ローランは呆れたように目を回し、「母さん、僕は無事だよ。大丈夫だよ。今朝会ったばかりじゃないか」と言った。
校長のヘレン・コルトレーン・エカルドは、ローランの顔から手を離しはしたものの、まだ納得がいかない様子だった。「心配なのよ」と彼女は言った。「私の二人の息子が外で命を懸けて戦っているんだもの。母親としていつも心配でたまらないわ。息子たちに会いたくて仕方ない。夫にだって会いたいわ。最後に会ったのはいつだったかしら?」
「それも、今朝だ」ローランは再び呆れたように目を回した。「というか、二人ともそのラブラブぶりを少しは控えてくれないかな? 朝一番から親のイチャイチャを見せつけられるなんて法律で禁止すべきだよ」
「私たちはただお互いへの愛をオープンにしていたいだけなのよ、ぼうや」とヘレンは言った。
ローランは顔に浮かんだ苛立ちを隠そうともしなかった。「このためだけに校内放送を使って俺を呼び出したのか? それは権限の乱用だぞ。」
「もちろん違います。ちゃんとした理由があるのです」とヘレンは再びプロフェッショナルな口調で言った。「ローラン、ここ3日間、夜中に高校に侵入者がいるようです。何も盗まれていませんが学校の記録を調べて何かを探しているようです。」
「侵入者だって?」とローランは言った。「それなら警察に通報すべきじゃないのか?」
「そうしたいところですが」とヘレンは言った。「あらゆる証拠からするとこれらの侵入者は上級職超力者である可能性が高いのです。」
「なるほど、それは俺の管轄だね」とローランは言った。「まあ、毎晩学校に侵入者がいるなら昔ながらの方法で対処するのが一番だろう。」
「昔ながらの方法? それは何?」とヘレンは尋ねた。
「張り込みだよ。」
***
「ただいま」とリアンナはアパートに入りながら言った。返事など期待してはいなかった。家には誰もいないのだから。いつだって、誰もいない。
リアンナはため息をつきながら制服を脱ぎ、着心地の良い部屋着に着替えた。リビングの電気はつけず、ソファに腰を下ろしてぼんやりと壁を見つめた。8年前に両親が離婚して以来、母親は何よりも仕事を優先してきた。今や母はいくつもの注目度の高い案件を抱える引っ張りだこの敏腕弁護士だ。確かに、高級なアパートに住めるだけの稼ぎはある。だが、ほとんど家にいないのにそんな立派なアパートに何の意味があるというのだろう。
(いっそ、またエカルド家に泊めてもらおうかしら、とリアンナは思った。あそこならずっと「家」らしく感じられたから。)それでも、リアンナは座ったまま動かなかった。将来の進路について考えるために家に帰ると友達には言ったものの、いざアパートに戻ってみるとそんなことを考える気力など湧いてこなかったのだ。その代わりに、彼女はスマートフォンを取り出しゲームを始めた。
(もしエカルド家で暮らすことにしたらお母さんは寂しがるかな?)と彼女は考えた。(私がある日突然姿を消したとしてお母さんはそれに気づくかな?)
その瞬間だった。誰かが背後から忍び寄り、彼女の口に布を押し当てながらその体を捕らえたのだ。クロロホルムの臭いが鼻をつき、リアンナは悲鳴を上げることもままならなかった。
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