第三話 コンビニにいた少女
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カイルは自分のピックアップトラックに乗り込むと眉をひそめて尋ねた。「ここで何しているんだ?」
助手席に座っていたのは聖アヴィントンの制服を身にまとい無邪気な笑みを浮かべた金髪の少女――カイルの妹、サーラ・サンダースだった。「ああ、先生には今日はお兄ちゃんの仕事を手伝うって言っておいたの」と彼女は言った。サーラは亡き父サイモン・サンダースから金髪を受け継いでいたがカイルは母アデレード・サンダースから黒髪を受け継いでいた。しかし、髪の色を除けば二人は実によく似ている。
「授業をサボる口実を探していたわけじゃないだろうな?」
「お兄ちゃんだってそうじゃないの?」
「おい、俺の場合は少なくとも母ちゃんの手伝いをするためだぞ」とカイルは言った。「授業をサボれるのは、あくまでおまけみたいなもんだ」
「オッホホホ。リアンナに言っちゃおうかな」サーラはニヤリと笑って言った。「彼女、お兄ちゃんにこってりお説教するわよ」
「間違いないね」カイルは言った。「だからこそこの会話はトラックの外には持ち出さないってわけさ」
「了解」とサーラは言った。「あ、そうそう、今日ジョニー・カーソンと揉め事があったって聞いたわ。だから、ちょっとしたプレゼントをあげようと思ってね」
「へえ」とカイルは急に興味を示し「詳しく聞かせてくれ」と言った。
「大したことじゃないよ」とサーラはわざとらしく謙遜して言った。「ニキビ取りクリームを糊にすり替えて、車の運転席にドーナツを置いといたのよ。今頃アリさんが喜んでるでしょうね」カイルとサーラは二人とも大笑いした。
「よくやったな、妹よ」とカイルが言いハイタッチをしようと手を差し出した。サーラはそれに応じた。
「当然の報いよ」とサーラは言った。「これで少しはクラスの女子たちが『ジョニー・カーソンって本当に素敵』なんてうっとり語るのを聞かずに済むかも。聞くたびに吐き気がするのよね。とにかく、ママには電話して今夜はお兄ちゃんの仕事を手伝うって伝えておいたから」
***
数時間後、配達を終えたカイルはトラックをガソリンスタンドに入れた。車から降りた二人はまだ11月だというのに雪が降り始めていることに気づいた。「雪か」とカイルは言った。「ひどくなるのかな」
サーラはスマートフォンを確認し顔をしかめた。「もうすぐ猛吹雪が来るみたいよ」と彼女は言った。
「巻き込まれる前にここでの用事を済ませておこう」とカイルは言った。
二人はガソリンスタンドのコンビニエンスストアに入った。店内は閑散としており、レジから最も離れた隅にいる十代の少女以外は客の姿はなかった。彼女は茶色の冬用コートを身にまとい、ファーのついたフードの下に顔の大部分を隠していた。
「何か欲しいものがあったら遠慮なく選んでいいぞ」とカイルは言った。
「本当にいいの?」とサーラが尋ねる。
カイルは肩をすくめた。「まあ、予算次第かな」と言いかけたその時、一人の男がコンビニに入ってきた。男は何食わぬ顔で店員に近づくとダッフルバッグを店員の顔面に投げつけた。店員が事態を把握する間もなく銃口が彼に向けられた。
「そのバッグに金を入れろ! 今すぐだ!」
カイルとサーラは顔を見合わせパニックに陥った表情で同じことを考えていた。
(まずい!)
二人は床に倒れ込み隅にいたフードを被った少女も同様に倒れた。
「どうしよう?」サーラが囁いた。「ドアまで行く?」
「あっちまで這って行こう」カイルが囁いた。「逃げられるかもしれない」彼はフードを被った少女の方を向き「こっちだ」と口パクで伝えた。
少女は頷くと身を低くして横たわっていた兄妹のほうへ這い寄った。そのまま3人は出口に向かって這い進もうとした。やがて、十分な距離まで近づいたと判断したカイルが「今だ!」と声を上げた。3人は出口めがけて一気に駆け出し、突然の動きに強盗は不意を突かれたようだった。ただでさえ神経を尖らせていた彼は逃げようとする若者たちのほうを向き――
バンッ!
後頭部に突然激痛が走りカイルは危うくバランスを崩しかけた。「いでええええええっ!!!」と叫びながら彼はとっさに後頭部を押さえた。だが、痛みが引き始めるとパニックはたちまち怒りへと変わっていった。逃げることなどすっかり忘れ、彼は激しい怒りを露わにした表情で身を翻し強盗に向かって猛然と詰め寄った。一方の強盗は衝撃と恐怖に顔を引きつらせその場に凍りついたように立ち尽くしていた。
「どうして……何が……どういうことだ……なぜだ?」彼はごく小さな声で呟いた。「お前は……化け物だ……」
「イテェじゃねえか、この野郎!」カイルは叫び中国武術の突きを強盗に叩き込んだ。怒りに我を忘れていた彼は強盗を3メートル近くも吹き飛ばしたことにも、銃口からまだ煙が上がっていることにも気づいていなかった。
***
「ねえ、どうして警察が来る前に現場を離れちゃうの?」とサーラが尋ねた。彼女とカイルはすでにトラックに乗り込み雪が激しくなり始めた中その場を後にしていた。
「面倒なのはごめんだからな」とカイルはつぶやいた。「関わり合いたくなかったんだ」
「強盗を阻止したことでご褒美をもらえたかもしれないのに」サーラは茶目っ気たっぷりに笑って言った。
「あるいは、『自警団まがいの行為』だの、何だのってくだらない理由で罪に問われていたかもしれないだろ」とカイルはつぶやいた。
「そう言うならね」とサーラは言った。「でもね、たぶん防犯カメラに映っていると思うわ。だから後で誰かがうちのドアをノックしてきても驚かないで――今の音、聞こえた?」
「何が…」カイルもトラックの荷台からかすかな音が聞こえたので言葉を止めた。彼とサーラは顔を見合わせてうなずいた。カイルはトラックを停めサーラと共にトラックの両端から外に出た。カイルは3つ数えて荷台を覆っていた防水シートをめくった。「ここで何しているんだ?」と彼は叫んだ。
フードを被った少女が荷台から這い出してきた。「ごめんなさい」と彼女は言った。「行ける場所がなくて……だから、その……一緒に行かせてもらえないかなっと思って」
「なんで俺たちに付いてきたんだ?」とカイルは尋ねた。
少女は当惑したような表情を浮かべた。「コンビニで何があったか気づいてないの?」彼女はそう言いながらフードを脱いだ。カイルは即座に彼女の容姿の美しさに目を奪われた。だが、それ以上に目を引いたのは肩のあたりまで伸びた鮮やかな赤髪でその毛先は内側にカールしていた。
サーラは兄の袖を引っ張った。「お兄ちゃん」と彼女はささやいた。「あの子、赤毛よ」
「ああ、気づいてる」
「赤毛の女の子が次々と誘拐されている事件あるでしょ」とサーラは言った。「このままあの子を放っておくわけにはいかないわ。いつ猛吹雪が始まってもおかしくないんだから」
「わかってる」とカイルはつぶやいた。「家まではちょっと距離があるな。吹雪が来る前にたどり着くのは無理だ」彼は少し考え込んでから言った。「ローランのところへ連れて行こう。あそこならここから近い」彼はその少女を見上げるとこう言った。「よし、俺たちについてきていいぞ」
少女は感謝の表情を浮かべトラックの助手席に乗り込んだ。運転席にはカイルが座り二人の間にはサーラが座っていた。短くも気まずい沈黙の後少女は二人の方を向いた。何気ない会話を始めようとしているのか彼女はこう言った。「その制服……もしかして、聖アヴィントン校の生徒さん?」
「そうさ」とカイルが答えた。
「すごいですね」と少女は言った。「私は普通の公立校に通っているんです」彼女は一瞬言葉を切り、こう付け加えた「まあ、少なくとも以前はそうだったんですけどね」
(何か訳ありだな、)とカイルは思った。「ああ、大したことじゃないよ」と彼は言った。「とにかく、俺はカイル・サンダース」
「私は妹のサーラよ」とサーラが明るい口調で答えた。
その少女は微笑んだ。「私の名前はメレディス」と彼女は言い緑色の瞳を輝かせた。「メレディス・テランスです」
『エンデクライオンの騎士団』をお読みいただき、誠にありがとうございました。
物語はまだ続きますので、ぜひこの先もお読みいただければ幸いです。




