第三話 町役場からの逃走車
引き続き、第二章です。お楽しみください。
夜の闇に包まれたナイツレストの町で警察による追跡劇が繰り広げられていた。事の発端は30分ほど前、町役場でサイレント・アラームが作動したことだった。警察が現場に駆けつけると駐車場から走り出そうとする一台の古びた黄色い車に遭遇した。職務質問のために車を停止させた警官たちはそこで驚くべき光景を目にする。車内には黒いローブをまとい、フード付きのマスクで顔を隠した3人の男たちが乗っていたのだ。次の瞬間、車は急発進し警察は追跡を開始すると同時に応援を要請した。それからすでに30分近くが経過していた。少なくとも5台のパトカーがサイレンを鳴らして追跡していたが逃走する車は一向に速度を落とす気配を見せなかった。
「おい、テトラー!」運転席の男が叫んだ。「相手が誰だかあの非超力者どもに思い知らせてやれ」
「了解、サージさん!」マスク姿の男の一人が応じた。彼は銀色のキャニスターを取り出すと追跡してくるパトカーの一台に向けて投げつけた。パトカーは瞬時に爆発し青い炎の渦に包まれた。車がさらに加速していく中マスク姿の男たちは高笑いを上げた。
警察無線がけたたましく鳴り響いた。「容疑者らは手榴弾と思われる武器を所持している。繰り返す。容疑者らは手榴弾と思われる武器を所持している。致死力の使用を許可する。」これに対し警官たちは逃走する車に向けて発砲を開始した。
「はっ、愚かな非超力者め」とテトラーと名乗る男が言い放った。「お前らの貧弱な弾丸で上級職にダメージを与えられるとでも思っているのか?」彼はさらに手榴弾を投げ込み2台の車を爆破した。
「テトラー、ちょっと試させてくれ」と3人目の男が言った。彼は未来的なショットガンに少し似た機械装置を取り出した。
「何を持っているんだ、ズム?」とテトラーが尋ねた。
「電磁パルス発生器だ」とズムは答えた。「どれほどわずかな電力を使っているにもかかわらずあらゆる機械を瞬時に停止させる。」ズムは残りのパトカーに向けて発生器を発射した。彼らは瞬時に青白い電磁パルスを受けその場で動きを止めた。車体からは火花が散りエンジンからは煙が立ち上った。
覆面をした男たちは一斉に笑い出した。すると突然、別の車が彼らの後ろに停車し明らかに追跡してきた。
「またか?」と、運転席のサージが吐き捨てるように言った。
「あの……サージさん、こいつはただ者じゃないみたいですぞ」とズムが言った。
「何だと?」サージはバックミラーを調整し追跡してくる車を詳細に見て息を呑んだ。その車体は銀白色を基調とし、赤と青のストライプが施されていた。全体的なフォルムはランボルギーニ・ディアブロを彷彿とさせフロントガラスは車体の後方寄りに配置されている。すぐに目を引いたのはDTMスタイルのリアウィングと車体後部に取り付けられたロケットブースターらしき装置だった。だが、サージを真に戦慄させたのは車体に描かれた稲妻のような「E」の文字と、「AEON STRYKER」というロゴだった。
「サ、サージさん?あれって、もしかして『エンデクライオンの騎士』なんじゃないですか?」テトラーがどもりながら言った。
「た、ただの『エンデクライオンの騎士』じゃねえ」サージもまた声を震わせながら言った。「あ、あれはエイオン・ストライカーだ! ロ、ローラン・エ、エカルドだ!」
「何ですと?」と、他の二人の男が声を上げた。パニックに陥ったテトラーは車両に向かって手榴弾を投げつけたがエイオン・ストライカー号は軽々と進路を変え、爆発を回避した。テトラーは我を忘れて次々と手榴弾を投げたもののエイオン・ストライカー号が縦横無尽に動き回るためことごとく外れてしまう。
「どけ!」とズムが叫び、車に向けて電磁パルス発生器を発射した。だが、エイオン・ストライカー号はその電磁パルスも容易にかわしてみせた。
「追いつかれるぞ!」とテトラーが叫ぶ。
「黙れ!」とズムは言い返し、さらに二発撃ち込んだがどちらも外れた。二発目の発射による閃光が車内を照らし出した瞬間、ズムは衝撃的な光景を目の当たりにした。
「サージさん! 中は空っぽです!」と彼は叫んだ。
「空っぽだって? どういうことだ」
「運転手がいないんです! 自動操縦になっています!」
「何だと?」サージは声を上げた。「じゃあ、エカルドはどこへ行った?」
その瞬間、近くのビルから人影が舞い降りてきた。車の屋根に何かが着地する音とそれに続く足音に仮面の男たちは驚愕した。
ローランは身を低くし念じることで両手に炎をまとわせるとそれを車の屋根に突き立てた。炎の熱で屋根が溶け、手が通り抜けるほどの穴が開く。炎を帯びた手袋越しに屋根が引き剥がされていく様子に男たちは恐怖に駆られ混乱して叫び声を上げた。炎の熱で金属が柔らかくなっていたのだ。絶体絶命の状況下ズムは屋根に向けて電磁パルス発生器を発射したが、パルスはローランをかすめるにとどまった。
「下っ端にしてはずいぶんハイテクな装備だな」ローランは呟いた。作戦を変え、彼は屋根から車のボンネットへと飛び移った。怯える運転手に向かって不敵な笑みを浮かべると若き騎士は拳でフロントガラスを突き破りハンドルを掴み取った。ローランはそのまま逃走車をコンクリートの壁へと突っ込ませ、激突の直前にグラップル・ショットを放って車から脱出した。
信徒たちが朦朧としながらも無傷で残骸から這い出してきたとき、若き騎士は驚かなかった。上級職超力者自身の皮膚から「サイリック・シールド」と呼ばれる薄く透明な障壁を作り出すことができる。それによって皮膚はほぼ無敵の硬度を誇り、強烈な打撃の衝撃も和らげられるからだ。「おい、お前ら。その乗り物ちょっと整備が必要みたいだな」彼はしゃがみ込んだまま軽口を叩いた。
サージと呼ばれた男は、ローランの言葉に激昂した様子だった。彼はサブマシンガンらしき銃を取り出しエンデクライオンの騎士であるローランへと向けた。
「やれやれ」とローランは言った。「銃火器なんて、上級職超力者のシールドにはほとんど効果がないってのは常識だろ……」サージが引き金を引く直前、ローランは人生最大の衝撃に見舞われた。自身のサイリック・シールドが完全に消失してしまったのだ。「な、何だって!?」ローランは辛うじて身を転がし乱射された銃弾の雨を回避した。サージは射撃を続け、ローランは超力者特有の反射神経を極限まで駆使して弾丸を避けながら右へ左へと走り回るしかなかった。一発の弾丸がローランの左頬をかすめ、彼は痛みにうめき声を上げた。「おいおい、これは俺の想定外だぞ!」彼は叫んだ。
好機と見るや、ローランは3メートル近く跳躍しサージの頭部に強烈なサマーソルトキックを叩き込んだ。相手が怯んだ隙にローランは回し蹴りでサージの手から銃を弾き飛ばしさらに顎へのフックを打ち込んで彼を完全に気絶させた。
サージが倒されるのを見てテトラーは我に返ったのか、サージが落とした銃へと飛びついた。「そうはさせるか!」とローランが叫ぶ。彼は即座に火の玉を放ちテトラーが銃を拾い上げた瞬間にそれを直撃させた。急激に高熱を帯びた銃を落としテトラーは苦痛の悲鳴を上げた。その好機を逃さず、ローランは素早く踏み込んでテトラーの腹部に中距離からの蹴りを叩き込み彼の息の根を止めるような衝撃を与えた。さらに頭部を上から押し下げる一撃を加え、テトラーを完全に無力化した。
「さて、残りは誰だ?」とローランが宣言する。パニックに陥ったズムは逃げ出そうとした。ローランは指を左右に振り、「チッ、チッ、チッ」と舌打ちをした。彼は放り出された電磁パルス発生器に向かって助走をつけ、右脚を大きく後ろに引くとその武器をサッカーのシュートさながらの完璧なフォームで蹴り飛ばしズムの後頭部に直撃させた。墜落の衝撃ですでにサイリック・シールドが弱まっていたズムはそのまま意識を失った。ローランは右腕を突き上げ、「ゴール!」と叫んだ。
***
ほどなくして、「騎士団」の治安部門長であるランドール・ギブンズが「警察騎士」の小隊を率いて到着しその三名を拘束した。三名が護送車に収容されるやいなやギブンズは言った。「準備は整いました、団長」
「早急に尋問を行わせろ」とローランは命じた。「ハウランに担当させろ。もし奴らに対する俺の疑いが正しけりゃ……うっ」ローランはひりつく頬に指を当てた。指を離して見て彼は愕然とした。白い手袋の指先に赤い液体がはっきりと付着していたからだ。
「エカルド団長?」ギブンズが明らかに心配そうな様子で尋ねた。
「だ、大丈夫だ」とローランは言った。「じ、自分の血を見るなんて久しぶりだったからね」
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