第一話 序章
第二章のはじまりです。どうぞ、お楽しみください。
ブリテン諸島の東、北海のただ中に一つの島があった。周囲の海に立ち込める霧に常に覆われていたため、そこは無人の島であり誰も住んでいないかのように思われた。しかし実際にはその島には人々が暮らしていたばかりか一つの王国が存在していた。それこそが超力者の王国「ミストカリア」である。
「超力者」――彼らは、何らかの力によって平均的な人間を凌ぐ能力を発揮する謎めいた人々である。体温保持の仕組みが異なるため、超力者は一般の人々に比べて身体能力が高く、強靭で、健康な傾向にあった。さらに、「上級職」に分類されるほどの強大な力を持つ者は驚異的な「サイリック・シールド」を展開し皮膚をあらゆる攻撃から事実上無敵にすることさえできた。中には、周囲の分子を自在に操る「エレメンティアン」と呼ばれる上級職超力者も存在した。
ミストカリア王国は超力者のみで構成された国である。彼らは1000年以上にわたり欧州の他の地域からの影響を受けつつも、一線を画し島という聖域の中でひっそりと孤立して暮らしてきた。建国以来、この王国は一つの王家によって統治されており、欧州諸国と並行して歴史を歩んできたにもかかわらずその全期間を通じてほぼ途切れることなく同一の王家が国を治め続けてきたのである。
それでもなお影は常にそこに潜んでいた。
それはレグルス9世の治世下での出来事でした。長年にわたり、王と王妃は子を授かろうと努めてきましたがそのたびに期待は裏切られてきました。国民の間では果たして後継者が生まれるのだろうか、それとも千年以上にわたって国を治めてきた王家もここで途絶えてしまうのだろうかと案じる声も少なくありませんでした。
そして、王女が誕生したのです。
9月初旬に生まれたその幼き王女は雷鳴のような歓声と拍手をもって王国に迎え入れられました。王家が誇らしげにその娘を国中に披露すると彼らはどこへ行っても熱狂的な称賛を浴びました。ミストカリヤの人々は3ヶ月もの間、幼き王女の誕生と王統の存続を祝いました。しかしその一方で、表向きは喜びを装いつつも、心からそうは思っていない国民も少なくなかったのです。
ある12月の夜、レグルス王は一年を締めくくる盛大なクリスマス舞踏会を催しました。アルクス・レガリウス宮殿で開かれたこの華やかな催しには王国のあらゆる貴族や公爵、廷臣たちが招かれました。宴の料理は国内随一の素晴らしさで音楽も極上の出来栄えでした。王や王妃をはじめとする多くの貴族たちが夜通しダンスを楽しみ祝宴は壮大な花火の打ち上げでクライマックスを迎えました。それは超力者王家の揺るぎない力の象徴であり何ものにも損なわれることのない光景でした――ただ一人招かれざる客が乱入してくるまでは。その人物の名はカオス・ジェネレーションズの「シャドウ・ストーカー」、モルガナ・ブラックハート。
「カオス・ジェネレーションズ」(略称「カオジェン」)は、上級職超力者こそが、あらゆる「下等」な存在を支配する運命にあると信じるテロリスト・カルト集団であった。ブラックハートはカルトの指導者である「闇の預言者アルカンタラ」の伝言を携え国王と王妃の前に姿を現した。彼女は大胆にも王女がカオス・ジェネレーションズの神である「大魔王」の象徴的な伴侶となる「名誉」に選ばれたと宣言し王室に対して王女を引き渡すよう要求した。激怒したレグルス王はその場でブラックハートを逮捕するよう命じた。しかし、衛兵たちが彼女に近づくよりも早くそのエレメンティアンのシャドウ・ストーカーは嘲笑を浮かべ、カオス・ジェネレーションズの要求を拒んだことを王はいずれ後悔することになると言い放つと閃光と煙の渦に紛れて姿を消した。
それからわずか数日後、モルガナ・ブラックハートの宣言は現実のものとなった。闇に紛れ、カオジェンの工作員たちがミストカリアの首都にある主要な建物に放火し、街中で大規模な暴動を扇動したのだ。暴徒たちはたちまち王宮の門を取り囲みついにはその門を打ち破った。暴徒が王宮の敷地になだれ込む中、カルトのエリート暗殺者集団であるカオジェンの「シャドウ・ストーカー」もまた王宮を急襲し、そこに住む多くの人々の命を奪った。混乱の最中、王妃もまた命を落とし、国王も行方不明となって死亡したものと見なされた。千年以上続いた王室の統治はわずか数時間のうちにあまりにも唐突かつ悲劇的な終焉を迎えたのである。
幼い王女の遺体はついに発見されず民衆の間では彼女は殺害されたか、あるいは結局のところカオス・ジェネレーションズの「大魔王」の象徴的な伴侶にさせられたのだろうと推測された。だが、その推測は真実とは似ても似つかないものであった。
襲撃の夜、王妃はいち早く事態を察知していました。娘の寝室へ駆け込み幼い王女を抱きかかえると乳母と共に脱出を試みたのです。しかし不運にも、玉座の間でカオジェンのシャドウ・ストーカーに見つかってしまいました。王妃は剣を手に取り、乳母に逃げるよう命じると自ら必死の覚悟で暗殺者たちに立ち向かいました。乳母は苦渋の決断の末、王女を連れて逃走しました。その間、王妃は二人が逃げ延びるのに十分な時間を稼ぐべく勇敢に戦い続け、やがて敵に負わされた傷がもとで命を落としました。
乳母は幼い王女を連れてイギリスへと逃れました。当初はそこで定住し自ら王女を育てるつもりでしたが、再びシャドウ・ストーカーの追っ手に発見され不意を突かれることになります。「カオジェン」の手から逃れ、王女が真に安全でいられる場所はただ一つしかないと悟った乳母はアメリカ行きの飛行機に乗り込みました。やがて二人がたどり着いたのは「ナイツレスト」という町でした。そこは、「カオス・ジェネレーションズ」の宿敵である「エンデクライオン騎士団」が密かに本拠地を置く場所だったのです。しかし乳母は、たとえエンデクライオンの保護下にあっても王女は常に危険にさらされると考え、胸の張り裂けるような決断を下します。それは、王女を狙う者たちからも、そして守ろうとする者たちからも隠すように彼女を孤児院に預けることでした。数日後、乳母はホテルの自室で遺体となって発見されました。その背中には、「カオジェン」の短剣が突き刺さっていたのです。一方、王女は身元を隠され安全な場所へと匿われていました。彼女の正体を示す唯一の手がかりは身につけていたロケットに刻まれたその名前だけでした。
LEANNA
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