第二十四話 事件解決。そして...
第一章の最終話です。今までありがとうございます。
その後の出来事は、カイルとサーラにとってどこか曖昧な記憶として残っている。エンデクライオンの騎士団の警察騎士が神殿になだれ込み、ゴーシャンとエヴァナンスを、そして捕らえられた何百人もの信徒たちを連行していったのだ。警察騎士はカーンの遺体も運び出していった。サーラは騎士団には遺体安置所があるのだろうとは思ったものの、その詳細までは知らなくていいと判断した。
エッグゼービエル・ソランの姿はどこにもなかった。ローランが放った一撃は決して致命傷ではなかったが、ソランは海へと吹き飛ばされたため多くの騎士たちは彼が死んだものと見なしていたようだ。しかしローランはソランが生きていると確信しつつも彼を見つけ出すことはできないだろうと諦めている様子だった。
エリザベスが少人数の治癒騎士たちを伴って現れ負傷した騎士たちの手当てを始めた。ローラン、トビー、サーラに大きな怪我はなかったが、カイルはソランとカーンの攻撃の大部分を一身に受け止めたことによる後遺症にまだ苦しんでいた。幸い、それらはエリザベスの治癒の力で容易に処置され、彼女はカイルの健康状態に問題なしと判断した。だがカイル自身はそれよりもメレディスのことを案じていた。
エリザベスがその赤毛の少女の様子を診ている間、カイルは「彼女に何かされたのか? 無事なのか?」と問い詰めた。
「ど、どこか悪いところでも?」メレディスは小さく、おずおずとした声で尋ねた。
「私の知る限り体に異常はないわ」とエリザベスは言った。「本部に戻ったら改めて詳しく診察したいけれど最悪の事態はもう脱したと言っていいでしょう」。彼女は優しく微笑み、「あなたは勇敢な子ね」と付け加えた。
メレディスはその若い女医に感謝の笑みを向けた。彼女がお礼を言うより早く、カイルが歓声を上げて彼女を抱き上げくるくると回った。すぐに二人は楽しげに笑い合った。カイルに抱きかかえられたままメレディスは微笑んで言った。「カイル、みんな。ありがとう。助けてくれてありがとう」
「おい、何度だって同じことをするさ」とカイルは叫んだ。そして、ためらいが消えないうちに彼はメレディスの唇に自分の唇を重ねた。
「あら、これはどういうこと?」サーラが茶化すような笑みを浮かべて言った。「彼女はガールフレンドじゃないって言い張ってなかったっけ?」
「うるさいな」とカイルはぶっきらぼうに言いもう一度メレディスにキスをした。サーラは思わずクスクスと笑い声を漏らした。
「はいはい、人前でイチャつくのはそこまでにして」とローランが言った。「もう帰ろう。俺としては明日の授業の前にせめて数時間は眠っておきたいんだ」
***
数日後、聖アヴィントン私立学園にて。
「みんなさん、今日から新しい生徒が加わることになりました」と教師が告げた。「今日から加わる転校生、メレディス・テランスさんだ」
「……こ、こんにちは」赤毛の少女は無意識のうちに小さくお辞儀をしながら少しうつむき加減で静かに言った。「ニュースに出てた子じゃない?」という囁きもいくつか聞こえたが、それらの声の大部分は男子生徒たちからの野次や口笛にかき消されてしまった。
「もう、男って本当に最低ね」リアンナが不満げに呟いた。
「僕は含まれてないよね?」隣の席のローランが言った。「カイルや僕の弟も……いや、弟は含まれるかもな」
「もちろん、あなたたちは違うわよ」リアンナは答えた。「弟だってそう。まあ、頭を何度かひっぱたく必要はあるかもしれないけど。でも、私が言いたいことはわかるでしょ?」彼女は、野次の先頭に立っているカーソンの方を指差した。
「全くだよ。男であるのが恥ずかしくなるくらいだ」ローランはそう言うと、「おい、嘘だろ?」と不満を漏らした。カーソンが、自分の隣の席に座っていた生徒を突き飛ばしてその椅子を奪い取ったからだ。
「よし!どけ!新しい美女が俺の隣に座るぞ!」カーソンが宣言した。ローランとリアンナは同時にうめき声を上げた。
カーソンはメレディスを隣の席に誘おうとしたが彼女はすでにカイルの隣に座っていた。頭に血管が浮き出るほどの怒りを感じたカーソンは、「おい、サンダース!」と叫んだ。
「何か問題でもあるのか、カーソン?」カイルがカーソンに送った睨みは他の男たちをたちまち黙らせるのに十分だった。リアンナはカイルとメレディスが手をつないでいることに気づいた。
「あら、これは何?」リアンナは立ち上がりカイルとメレディスの方へ歩み寄った。「こんにちは、私はリアンナ・ケリス。カイルの親友の一人よ。」
「あ、えっと、こんにちは。メレディスです。カイルとローランがあなたのことを話していたわ。」
「はじめまして」とリアンナは言った。 「もしよかったら学校を案内していろいろ説明してもいいかしら。フェンシング部の練習をご覧になる?最近、彼女らにかなり厳しい練習をさせているの。」
「ええ」とメレディスは言った。「ぜひ見たいです。」
「よかった」とリアンナは答えた。彼女はローランの方を向きウインクした。ローランもウインクを返した。
「ええと、生徒諸君」と教師は言った。「よろしければ、授業を始めたいと思いますが。」
***
「メレディスを案内してくれてありがとう」とローランが言った。授業が終わり、二人は外を散歩していた。「彼女、最近ちょっと大変な時期を過ごしていてね」
「どういたしまして」とリアンナは言った。「それにしても、ついにカイルの彼女に会えたわ」
「彼は付き合い始めたのは二日前だって言い張ってるけどね」とローラン。「少なくともファーストキスはその時だ。僕も無理やり見せられたからね」
「あなたの二重生活はますます複雑に絡み合ってきているみたいね」とリアンナは言った。
ローランはふと足を止めた。二人の間にその言葉が宙に浮いたまま残る。やがて彼は言った。「もうすぐだよ。約束する、リアンナ。近いうちに話すから。約束は約束だ」
「どれくらい?」リアナは少し切なげな笑みを浮かべて尋ねた。
ローランは少し考えてから答えた。「一ヶ月」
リアンナはまばたきをした。「一ヶ月?」
「一ヶ月だ」とローランは繰り返した。「今日からきっかり三十一日後」
「わかったわ」リアンナの笑みが今度はもう少し心からのものになった。「一ヶ月ね」彼女は長い髪を後ろにかき上げ自分の頬をつねると言った。「それじゃ、フェンシングの練習があるから。また後でね」
「わかった」とローランは答えた。走り去るリアンナの姿を見送ると彼は木立の一つへ歩み寄り、その幹に背を預けた。「鎌を持ってこなくてよかったよ。高校のキャンパスに『死神』気取りの人間がいたらどんな憶測を呼ぶかわかったもんじゃないからな」
トビー・ハートウェルが木の陰から姿を現した。「一ヶ月でいいのかい、ローラン?」
「やれやれ、それまでに十分な勇気を奮い起こせればいいんだがな」とローランは呟いた。「で、報告は?」
「ヘレコンからの報告が届いています、団長」トビーはそう言って数枚の書類をローランに手渡した。ローランは眼鏡の位置を直し書類に目を通した。
「大したことは書いてないな。ゴーシャンやエヴァナンス、それに信徒連中によるいつもの喚き散らしばかりだ。連中もカーンが本当は何を狙っていたのか見当もついていなかったんだろう。あのエッグゼービエルにしても、おそらく知らなかったはずだ」
「概ね、そういう結論に達しています」とトビーは答えた。「ですが、あの事件から確実に推測できることが一つあります」
ローランは厳粛に頷いた。「アルカンタラも知らないということだ」
「私もそう考えています」とトビーは言った。
「興味深い話だと思わないか?」ローランは思案深げに言った。「カオジェンの上級幹部が『預言者』に秘密を隠し彼女の背後で動くなんてな。カーンはメレディスの何についてアルカンタラの手には渡したくないと考えたんだろう? 主である彼女が手に入れる前に自らの命を危険にさらしてまで確保しようとしたものとは一体何なんだ?」
トビーはため息をつき、言った。「残念ながら、私にも見当がつきません」
「俺にもな」とローランは答えた。「そしてそれが判明するまでは、カオス・ジェネレーションズの動向をこれまで以上に厳重に監視しておく必要がありそうだ」
みなさん、今まで読んでいただき誠にありがとうござい。『エンデクライオンの騎士団 第一章 騎士団の開会式』はこれにて完結です。次回から第二章始まりですので楽しみにしてください。




