第十六話 戦いの結末
どうぞ、お読みください。 もし、難しい漢字などがありましたら是非教えください。
カオジェンによる襲撃の直後は完全な混乱状態にあった。死者は計23名に上り、そのうち6名はエンデクライオン騎士だった。現場には救急車とともに地元の警察官が集まり突然の襲撃に巻き込まれ動揺する人々をなだめようと奔走していた。
腕を走る激痛をこらえるのに必死でなければサーラは地元警察と「騎士団」の警察騎士との連携ぶりに驚いていただろう。警察騎士が地元法執行機関と同等の権限を行使していることは明らかだった。規制線の端に目をやるとトビーがナイツレスト郡の保安官マイケル・ボルズワースを連れてくるのが見えた。二人が向かっていた先には地面に座り込み、腕の中に顔を埋めているローランの姿があった。
「貴様!」ローランの姿を認めるなりボルズワース保安官は声を荒らげた。「エカルド、よくもこんな事態を我々の世界に持ち込んでくれたな! 超力者の連中は自分たちの問題は自分たちだけで始末することになっていたはずだ!」
ローランが顔を上げると、その血のように赤い瞳を目にしたふくよかな保安官は思わず後ずさりした。「評価してもらえて光栄だよ、保安官」ローランは立ち上がりながら皮肉っぽく言った。「普段は我々の存在などないものとして振る舞い、事態が手に負えなくなると都合よくスケープゴートにする……実に人間らしいやり方だ。誰のせいでもないことでも常に誰かのせいにしたがるんだからね」
「団長」とトビーが声をかけた。ローランは鼻を鳴らすとその場を立ち去った。「彼が怒っているのはあなたに対してではありません、保安官」トビーは説明した。「彼はただ今回の事態を防げなかったことに苛立っているだけなのです」
「そ、そうか」ボルスワースは口髭を撫でながら言った。彼は警官の一人に向き直り「報告を」と命じた。
「死者23名、負傷者42名です」と警官は答えた。「それから、少女が一人誘拐されました」
「また赤毛か?」ボルスワースが尋ねると、警官は「はい」と答えた。ちょうどその時、カイルが抵抗しながら救急車の一台に引きずり込まれていくところだった。
「離せ! 彼女を見つけなきゃいけないんだ! 助けなきゃ! メレディス!」彼は叫んだが、救急車のドアが閉まり彼を外界から遮断してしまった。
***
それから30分ほど経った頃、エンデクライオン本部の医務室に騎士たちの姿があった。ローランとカイルは共に激しい怒りに駆られていたがその表し方は対照的だった。カイルは医務官が手当てをしようとするのも構わず、怒鳴り散らしながら部屋の中を荒々しく歩き回っていた。一方、ローランは部屋の隅で拳を握りしめ、歯を食いしばって静かに座り込んでいた。だが、何よりも彼の怒りを物語っていたのはその瞳が血のような深紅に染まっていることだった。
「俺のせいだ! 全部俺のせいなんだ!」カイルは腕を振り回しながら叫んだ。「外に出ようと言い出したのは俺だ! ソランから彼女を守れなかったのも俺だ! 全て俺の責任なんだ!」
「誰もあなたを責めてなんていないわ、お兄ちゃん」とサーラが言った。彼女はエリザベスに腕の切り傷を治療されながら痛みに顔をしかめていた。だが、カイルは彼女の言葉を無視した。
「必ず彼女を見つけ出す!」カイルは断言した。「今すぐ行く。メレディスを連れ戻すんだ。そして、もしまたソランに遭遇したら誓って言えるが俺は……」
「その先を言ってみろ、ただじゃおかないぞ!」ローランが唸るように言った。その声に含まれた強烈な敵意にカイルとサーラはたじろぎカイルの怒りもすっかり冷めてしまった。
「RJ……」カイルはためらいがちに言った。「騎士として過ごしてきた中で君だって……」
「俺は……人を……殺さない!」ローランはきっぱりと言い放った。「それに、俺の部下の騎士たちにもそんなことはさせない! エンデクライオン騎士団は人殺しがいるような場所じゃない!」そう言い捨てるとローランは激しい足取りで医務室から出て行った。
カイルとサーラはローランが去った方向をじっと見つめた後、エリザベスの方を怪訝そうに振り向いた。「騎士団の公式方針では、平時においては他に選択肢がない限り騎士は人を殺さないことになっています」とエリザベスは説明した。「しかし、ローランに関しては常に別の選択肢があるのですよ。さあ、じっとしていてください」
サーラの腕の上にエリザベスの手から明るい光が放たれるとサーラは驚いて目を見開いた。数秒のうちに傷は痛みとともに完全に消え去った。「どうやって…」
「私はエレメンティアンなの」とエリザベスは説明した。「細胞を急速に再生する能力、いわば治癒力を持っているの」
「あ、ありがとうございます」とサーラは言った。顔を上げるとトビーがベッドの一つに一人で座っているのに気づいた。傷は軽傷ではあったがそれでも負傷している。しかし、エリザベス(サーラの治療の前にトビーの様子を確認していた)を除いてどの医療従事者もトビーの手当てをする気配はなく、中には距離を置いている者もいた。サーラは氷彫刻祭で目撃したトビー・ハートウェルのサディスティックで暴力的な一面を目の当たりにしたことを思い出した。彼女は身震いしながら「どうして誰もトビーを信頼してないの?」と尋ねた。
エリザベスは肩をすくめ、何気ない様子で言った。「まあ、そもそもトビーは元カオジェンだし」
「えっ!?」カイルとサーラは驚きの声を上げ、トビーを見上げた。
当のトビーはいささか気まずそうな表情を浮かべていた。「……あまり振り返りたくない黒歴史なのです」
「カオジェン出身でエンデクライオン騎士になったのはトビーが初めてじゃないけれど、副団長という高い地位に就いたのは彼が初めてよ」エリザベスはプレッツェル・スティックをかじりながら言った。「彼がその地位に就いた経緯は多くの騎士がローランを快く思っていない理由にも関わっているの」驚くカイルとサーラの顔を見て、彼女はこう続けた。「二十五歳以上の騎士にまだ一度も会っていないこと不思議に思ったことはない?」
「……言われてみれば、気づかなかったな」とカイルは認めた。
「ローランが騎士団長に任命された際、古参の騎士の大多数が抗議して辞任し残った者の中にも海外への転属を希望する者が少なくなかったわ」とエリザベスは説明した。「ローランは史上最年少の騎士団長というわけではないのだけど、年長の騎士たちの間には十代の若者から命令など受けたくないという空気が確かにあったわ。多くの騎士は彼のような若者にその任が務まるとは思っていなかったの。しかし、ローランは彼らの懸念が間違いであることを容易かつ一貫して証明してみせたの。若手や新人の騎士たちもすぐに彼に心を開くようになったわ。彼はまた、手薄になっていた戦力を補強するために多くの新しい騎士を登用してきたの。ローランは騎士団の将来について確固たるビジョンを抱いていて、この騎士団こそが超力者と非超力者の双方にとって大きな希望となり得ると心から信じているのよ」
「それで、トビーは?」とサーラが尋ねた。
「ローランが騎士団長に就任してから一ヶ月半ほど経った頃、前任の副団長が……」一瞬、エリザベスの表情に変化が走った。嫌悪、憎悪、悲しみ、そして恥辱が入り混じったようなその表情はすぐに消え去った。「まあ、一言で言えば彼はどうしようもないクズだったわ」とエリザベスは続けた。「彼が解任された後、誰を次期副団長にするかで議論になったの。ローランはトビーをその役に推薦したわ。幹部騎士の選出は現職の幹部騎士たちによる内部投票で行われるのよ。騎士団長は3票を持てる。もし副団長が在任していれば副団長には2票が与えられるはずだった。そして、各部隊の隊長はそれぞれ1票を持つことになるの」
「それで、どうなったの?」とサーラが尋ねた。
「選挙の結果は控えめに言っても……物議を醸すものだったわ」とエリザベスは言った。「医療部隊の隊長である私はトビーに賛成票を投じたし、当時戦闘部隊の隊長だったあなたのお父さんも同じだった。もちろん、ローラン自身も自分が推薦したトビーに投票したわ。でも、他の4人の隊長は全員反対票を投じたの。だから、形式上は賛成3票、反対4票という結果になった。でも、ローランは騎士団長として3票を持っていたからトビーは賛成5票対反対4票で選出されたことになったわ」
「それは……複雑な話だね」とカイルが言った。
「聖職部隊の隊長はトビーに反対票を投じたのは単に彼の経験不足を懸念してのことだったと認めていたわ」とエリザベスは言った。「それ以来、二人はかなり親しい仲になり、もし今選挙が行われたらトビーに賛成票を投じただろうと彼自身が認めるほどよ。モリソンとギブンズは『まあ、それが選挙の結果だから』という態度でトビーを副団長として概ね受け入れていてね。ただ、ローレンスはそうはいかないようだけど」エリザベスは嫌悪感を露わな表情を浮かべ心の中でこう思った。(もっとも、彼女の場合は自分こそが副団長の座に就きたかったわけだから、その恨みの根底にあるのは嫉妬心だろうけれどね。)
***
怪我から回復したサンダース兄妹はトビーと共に作戦司令室へと向かった。そこではローランが何らかの手がかりを求めて衛星からの映像をくまなく調べていた。「奴らがメレディスをどこへ連れて行ったのか、その糸口になるものが必ずあるはずだ」と彼は断言した。「カオジェンの動きを示す兆候を見つけたら――たとえそれがどんなに些細なものであっても――すぐに報告してくれ」
「団長、奴らがミストカリアへ向かった可能性はありますか?」アイリーンが控えめに尋ねた。
サーラは眉をひそめ、「ミストカリア?」と問い返した。
「超力者の王国のことです」とトビーが答えた。「国民全員が超力者で構成されている古代王国ですよ。イギリスからそれほど遠くない北海に位置する島国です」
「超力者の王国だって?」カイルが声を上げた。トビーはそれに応えて頷いた。
「それはまずありえないな」とローランは言った。「カーンが言っていたのは彼らが行おうとしている儀式は今夜の真夜中だということだ。ミストカリアでは遠すぎる。それに、あの国は外界から隔絶された孤立国家だしな。いや、距離の問題を抜きにしても適切な準備なしに、ましてやこれほど急な事でミストカリアへ飛行機や船を向かわせるのは極めて困難だ。俺の推測だと奴らはまだニューヨーク州内、もしくはニューイングランドのどこかにいるはずだ」
「でも、手がかりが少なすぎるわ」とアイリーンは言った。
ローランは左手で右の肘を支えながら右手で顔を覆い苛立ちを抑えるように歯ぎしりをした。やがて彼は言った。「どこかで頭を冷やしてくる。何か分かったらすぐに連絡してくれ」
***
気持ちを落ち着けようとローランは一時的に帰宅していた。だが、エカルド家の自室にこもって思い悩むばかりで事態の打開にはつながらなかった。起きてしまった出来事はどうしようもなかったとはいえ、命を落とした人々やさらわれてしまったメレディスに対する圧倒的な罪悪感や責任の重さは少しも和らぐことはなかった。
(騎士団長を務めるというのは、こういうことなのか――)彼はそう思った。(どんな状況であれ自分の指揮下にある命、そして守ると誓った命すべてに対して責任を感じずにはいられないのだ。まったく、この職務に伴う責任の重さをこれほど痛感するとは……。)彼はベッドから身を起こし、眼鏡を外して目元をこすった。(それに、メレディスがさらわれてしまった。彼女を見つけ出さなければならないが、どうやって?そもそも、なぜ彼らは彼女を狙ったんだ?赤い髪と緑の瞳という遺伝的特徴に一体どんな価値があるというのか。)
コン、コン。ローランが顔を上げるとドアのところにリアンナが立っていて驚かされた。「あなたのお母様から連絡があったのよ」と彼女は説明した。「あなたが何かにひどく思い悩んでいるって。それに、ニュースで氷の彫刻祭の事件を見て、なんとなく、あなたが何らかの形で関わっているんじゃないかって気がしたの」
ローランは親友の顔をしばらく見つめた後、ついにこう打ち明けた。「あの出来事を防ぐためにもっと何かできたんじゃないかって気がするんだ」
「ふうん、自分が関わっていたことは否定しないわけね」とリアンナは言った。彼女はローランの椅子を机から引き離すと背もたれを前にしてそこに腰を下ろし、ベッドに座っているローランと向き合った。「ローラン、あなたがどんな二重生活を送っていたのかは知らないわ」と彼女は言った。「でも、あなたがただの人間だということは分かってる。自分の力ではどうにもならないことだってあるのよ」
「僕には大きな責任があるんだ」とローランは言った。
「あなたは全能じゃないのよ、ローラン」
ローランはため息をついて立ち上がると、窓辺に歩み寄り外をじっと見つめた。「時々……自分が全能だと錯覚してしまうことがあるんだ」と彼は認めた。「僕はありふれた平凡な人間じゃない。それは君も知っているだろう。でも、自分の限界があまりに高い位置にあるとその限界が見えにくくなってしまうことがあるんだ」
リアンナは立ち上がり、窓際のローランの隣に立った。「さあ、我が友よ、あなたには二つの選択肢があります」と彼女は言った。「ここで自己憐憫に浸り自分の過ちを悔やむか、それとも外に出てそれを正すか。さあ、ローラン・エカルド、あなたはどちらを選びますか?」
ローランは片方の眉を上げてリアンナを見上げた。そしてついにニヤリと笑って答えた。「答えを知っているのにどうしてそんなことを聞くんだ?」
「だって、私が全部答えてあげたら面白くないじゃない」とリアンナは微笑みながら言い返した。
ローランは頷いた。「その通りだ。自己憐憫に浸っている場合じゃない。では失礼する。間違いを正さなければならないんだ」
「その意気よ」とリアンナはくすくす笑いながら答えた。「さあ、行ってこい、この間抜け!みんなの頭上に立ち込める霧を晴らしに行け!」
その言葉にローランはぴたりと足を止めた。「霧…」彼はほとんど独り言のように呟いた。彼は振り返って「リアンナ、君は天才だ!」と叫んだ。
リアンナはローランがどうしてそんな発言をしたのか正確には分からなかったが、自分が何らかの形で彼を助けたのだろうと思った。「ええ、そうね。でもあなたは?」と、彼に付き合ってみることにした。
「君にすごく借りができたよ」とローランは言った。「ごめん、もう行かなきゃいけないけど必ず埋め合わせをするよ」
リアンナは眉を上げて尋ねた。「テレビの前でアイスクリームを食べながら念願の『冒険者の刃』を一気見する夜はどう?」
「チョコレートかバニラか?」とローランは答えた。「あと、アクションと爆発シーンのある映画を少なくとも1本は観たい」
「チョコレートでいいわ」とリアンナは言った。「いいわよ」
『エンデクライオンの騎士団』を読んでありがとうございます。前書きにも書きましたがもし、難しい漢字などがありましたら是非教えください。物語は続きますのでこれからもお楽しみください。




