あしがら山の黒い雲とまぼろしの大蛇
巨大な岩を動かして村の川をすくってから、またしばらくの月日が流れました。
金太郎はさらに体が大きく、たくましくなり、山の動物たちとの絆もますます深まっていました。
そんなある夏のはじめのことです。
それまでカンカンと照りつけていた太陽が、急に大きな黒い雲に覆われました。
その黒い雲は、普通の雨雲とは違っていました。
まるで生き物のようにウごめき、あしがら山のてっぺんを包み込むように、どんどん低く垂れ込めてきたのです。
「なんだか、いやな風が吹いてきたぞ……」
大グマの墨丸が、不安そうに鼻をヒクヒクさせました。
お猿さんもウサギたちも、寒くもないのにガタガタと体を震わせて、金太郎のまわりに集まってきます。
やがて、ポツリ、ポツリと雨が降り始めたかと思うと、次の瞬間には、バケツをひっくり返したような大雨になりました。
それだけではありません。
ヒュールーーー! と、木々が根元からへし折れそうなくらいのはげしい暴風が吹き荒れたのです。
「みんな、僕のうしろに隠れるんだ!」
金太郎はまさかりをしっかりと握りしめ、動物たちを大きな岩の陰へと避難させました。
その時です。
山の奥深く、普段は誰も近づかない「霧の谷」のほうから、地響きのような不気味な鳴き声が聞こえてきました。
「グオオオオオ……ルオオオオオ……!」
その声とともに、山の上からゴロゴロと大量の土砂や泥水が流れ落ちてきました。
このままでは、山の木々がなぎ倒され、ふもとの村まで泥に飲み込まれてしまいます。
「みんな、ここで待っていて。僕、山の様子を見てくる!」
金太郎は動物たちにそう言い残すと、激しい雨風の中を、一歩、また一歩と山の奥へ向かって走っていきました。
泥水をかきわけ、たどり着いた霧の谷の入り口で、金太郎は驚くべき光景を目にしました。
そこには、なんと、太い大木よりもさらに何倍も大きな、真っ黒いウロコを持った
「巨大な大蛇」
がのたうち回っていたのです。大蛇が苦しそうに尾を激しく振るたびに、まわりの岩が砕け飛び、大雨を呼ぶ黒い雲がさらに濃くなっていきました。
「お前がこの嵐を起こしているのか! どうして山をいじめるんだ!」
金太郎が大きな声で叫ぶと、大蛇はギラリと赤く光る目を金太郎に向けました。
「グオオオッ! 痛い、痛いぞ……!」
大蛇は怒っているのではなく、何かを必死に訴えるように、地面に頭をぶつけて苦しんでいました。
よく見ると、大蛇の大きな背中には、先日の大嵐のときに崖から崩れ落ちてきたと思われる、尖った大きな岩がぐさりと突き刺さったままになっていました。
その傷が膿んでしまい、大蛇は痛みのあまり暴れ回り、その妖力ではげしい嵐を巻き起こしてしまっていたのです。
「そうか、苦しかったんだね。よし、いま助けてあげるから、じっとしていて!」
金太郎はまさかりを地面に置くと、恐ろしい大蛇の背中へと、するすると登っていきました。
大蛇のウロコはぬるぬると滑り、激しく動くため、何度も振り落とされそうになります。
しかし、金太郎は自慢の怪力で大蛇の体をぎゅっと抱きしめ、なんとか岩が突き刺さっている場所までたどり着きました。
「痛いけど、ちょっとだけ我慢してね!」
金太郎は、大蛇の背中に深く埋まった巨大な岩を両手でつかみました。
そして、お腹の底から声を張り上げました。
「うぬぬぬぬ……えいっ!!!」
金太郎が力を込めると、バリバリと音を立てて、大蛇の背中から大きな岩が引き抜かれました。
それと同時に、金太郎は自分のポケットから、お母さんが持たせてくれた薬草の葉を取り出し、大蛇の傷口に優しくすり込みました。
すると、あんなに苦しそうに暴れていた大蛇が、ふうっと大きなため息をつき、静かになりました。
不思議なことに、大蛇の傷が癒えていくにつれて、あしがら山を覆っていた真っ黒な雲がみるみるうちに晴れ、雲の隙間から温かい太陽の光が差し込んできたのです。
大蛇はちいさな金太郎を見つめ、静かに頭を下げました。
「人間の子供よ、救ってくれてありがとう。お前の強さと優しい心に感謝する。これからは、この山を荒らすような嵐は二度と起こさないと誓おう」
大蛇はそう言うと、静かに霧の谷の奥へと消えていきました。
空には美しい虹がかかり、あしがら山には再び、静かで平和な時間が戻ってきました。
駆けつけてきた墨丸や他の動物たちは、金太郎が無事だったこと、そして山が守られたことを涙を流して喜びました。
金太郎の優しさは、人間の村だけでなく、山の不思議な生き物たちにまで届いたのでした。




