大グマ墨丸との大勝負
「はっけよい、のこった!」
キジの鋭い鳴き声を合図に、金太郎と大グマの墨丸の、大おすもう大会が始まりました。
ドスン! と大きな音が響き渡ります。
墨丸は丸太のように太い両腕を突き出し、金太郎の小さな体に強烈な突っ張りを食らわせました。
普通の人間なら、一突きで森の向こうまで吹き飛んでしまうほどの威力です。
しかし、金太郎は真っ赤な両足を地面にしっかりと踏み締め、びくともしません。
それどころか、金太郎の足が踏ん張った場所の地面が、めりめりと音を立てて深く沈み込んでいきます。
「ほう、なかなかやるな、小僧!」
墨丸は目を丸くしながらも、今度は自慢の怪力で金太郎の体をがっしりと抱え込みました。
そのまま力任せに、金太郎の体を地面から持ち上げようとします。
うおーっ! と墨丸が雄叫びを上げると、まわりの木々からパラパラと木の葉が落ちてきました。
ウサギやお猿、お鹿さんたちは、息をのんでその様子を見守っています。
みんな怖くて、お互いの体をぎゅっと寄せ合っていました。
「金太郎、負けないで!」
お猿さんが木の上から、ちいさな手を一生懸命に振って応援します。
金太郎は、墨丸の大きな胸に顔をうずめながらも、ちっとも苦しそうな顔をしていません。
それどころか、やっぱり楽しそうにニッコリと笑っていました。
「クマさん、とってもいい力だね。だけど、僕だって負けないよ!」
金太郎は「ふんっ!」と一呼吸おくと、お母さんからもらった赤い前掛けを揺らし、墨丸の太い腰を両手でがっちりと掴みました。
そして、大グマの重たい体を、なんと自分の胸の高さまで、かるがると持ち上げてしまったのです。
「う、うわわっ!? 足が地面につかないぞ!」
宙に浮いた墨丸は、驚きのあまり手足をバタバタとさせました。
金太郎はそのまま、墨丸の体を傷つけないよう、ふかふかの苔のクッションが敷いてある場所をめがけて、優しく、しかし力強く「どんっ!」と投げ飛ばしました。
見事な一本背負いです。
大グマの墨丸は、目を回して仰向けにひっくり返り、大きなお腹を空に向けて突き出しました。
「勝負あった! 金太郎の勝ち!」
キジが嬉しそうに羽を羽ばたかせ、まわりの動物たちは「わーっ!」と大歓声を上げました。
ウサギたちは嬉しくてピョンピョンと跳ね回り、お猿さんは木から下りてきて金太郎の肩に飛び乗りました。
金太郎はすぐに墨丸のそばへ駆け寄り、小さな手を差し伸べました。
「クマさん、大丈夫? 痛いところはなかった?」
墨丸は、自分の何倍もちいさな男の子を見上げ、ぽかんとした顔をしていましたが、やがて顔を真っ赤にしてガリガリと頭をかきました。
そして、金太郎の手を握って力強く立ち上がりました。
「まいった、まいった! 俺の負けだ。お前は本当に強いな。それに、投げ飛ばすときに俺が怪我をしないよう、手加減してくれただろう? 強いだけじゃなく、なんて優しいんだ」
墨丸はすっかり金太郎に降参し、そして彼の優しい心に深く感動しました。
「さっきは威張って悪かったな。俺も今日から、お前たちの仲間に入れておくれよ」
「うん、もちろんさ! これからはみんなで仲良く遊ぼう!」
金太郎がそう言うと、墨丸は嬉しそうに目を細め、ウサギやお猿たちにも
「よろしくな」
と優しく声をかけました。
こうして、森で一番強かった大グマの墨丸も金太郎の頼もしい子分になり、あしがら山の動物たちはこれまで以上に仲良くなったのでした。




