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勇者転生魔王物語  作者: ぃぃぃぃぃぃ


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第十四話:ガルドの離反

 ガルドが宮廷を出たという報告は、夜明け前に届いた。

 リオからだった。

「西門より出立を確認。同行兵力、およそ三百。古参派主力です」

 短い報告だった。

 紙を置いたまま、しばらく動かなかった。

 三百。

 宮廷を制圧するには足りない。全面戦争を始めるにも足りない。

 だが、報復を始めるには十分だった。

「進路は」

「人間側国境方面です」

 予想通りだった。

 ガルドは宮廷を割るつもりではない。

 外へ向かった。

 人間側へ。

 俺は立ち上がった。

 ダナがこちらを見る。

「部隊を出しますか」

「いや」

「では、追撃を」

「違う」

 言葉を探して、少し止まった。

「……話しに行く」

 ダナが黙った。

 否定はしなかった。

 だが、その沈黙だけで十分だった。

 今さら話して何が変わるのか。

 そう言いたいのは分かった。

 俺も同じことを考えていた。

 それでも行くしかなかった。

 行かなければ、多分、後に残る。

 何が残るのかは、整理できなかった。

「馬を出せ」

「護衛は」

「最低限でいい」

 ダナは小さく息を吐いた。

「……分かりました」

 外はまだ暗かった。

 城門を抜ける頃、東の空が少しだけ白み始めていた。

 冬の風だった。

 乾いていて、冷たかった。

 馬を走らせながら、国境方面の地図を頭の中で確認する。

 ガルドが選ぶ進路は、おそらく旧街道沿いだ。補給地点が残っている。古参派の古い拠点もある。

 戦争を知っている者の動きだった。

 合理的だった。

 だから厄介だった。

 半日ほど進んだところで、先行していた斥候が戻ってきた。

「前方に古参派部隊を確認」

「数は」

「三百弱。進軍停止中です」

 俺は馬を止めた。

 もう気づかれている。

 逃げるつもりはないらしかった。

 丘を越えると、古参派の部隊が見えた。

 兵たちは既にこちらへ気づいていた。

 武器に手をかける者もいる。

 だが誰も動かなかった。

 その中央に、ガルドがいた。

 黒い外套を羽織り、馬上でこちらを見ている。

 その目は、俺を見ているようで、俺の後ろにある何かを見ているようにも見えた。

 俺は馬を進めた。

 護衛が後ろで止まる。

 ガルドも一人で前へ出た。

 互いの距離が、数歩のところで止まる。

 先に口を開いたのはガルドだった。

「追撃ではないようだな」

「ああ」

「止めに来たか」

「……確認に来た」

「何をだ」

「本当に行くのかを」

 ガルドは少しだけ目を細めた。

「見れば分かる」

「分かっていても、確認は必要だ」

 風が吹いた。

 部隊の旗が揺れる。

 後方の兵たちは、こちらを見ていた。

 ガルドは俺から視線を外さなかった。

「宮廷は、もう限界だ」

 老将は静かに言った。

「人間との交渉は潰えた。だが、お前はまだ続けようとしている」

「続ける」

「だから離れた」

 感情ではなかった。

 結論だった。

「古参派を抑えきれなくなった、という方が正確かもしれんな」

「お前なら抑えられた」

「力でならな」

 ガルドは答えた。

「だが、それをすれば、お前が昨日やったことを否定することになる」

 少しだけ沈黙が落ちた。

 昨日の弾劾。

 言葉で押し返した場面を、ガルドは知っていた。

「だから外へ出た」

 ガルドが続ける。

「内で割れるくらいなら、外で戦う」

「報復か」

「ああ」

「それで何が変わる」

「変わらんかもしれん」

 即答だった。

「だが、人間側に代償を払わせなければ、古参派は止まらん」

 理解はできた。

 理屈としては。

 古参派は既に感情の段階に入っている。

 ミラの件もある。

 交渉路線の失敗もある。

 抑え込めば、いずれ宮廷内部で爆発する。

 だから外へ向ける。

 ガルドはそう判断した。

「……戻れ」

 気づけば言っていた。

 ガルドは黙った。

「まだ遅くない。今なら戻せる」

「戻してどうする」

 俺は少し止まった。

 答えを整理しきれなかった。

「……時間を作る」

 昨日、自分で言った言葉だった。

「内部が割れたまま戦争を始めれば、本当に終わる」

「終わるかもしれんな」

 ガルドは認めた。

「だが、何もせずに腐るよりはましだ」

 そこで初めて、声が少しだけ重くなった。

「お前は見すぎた」

「……何をだ」

「人間をだ」

 風が止んだ。

「飢えた子どもを見た。老人を見た。敵にも生活があると知った」

 ガルドの視線がこちらを捉える。

「それは間違いではない」

 否定ではなかった。

「だが、それを知った者は、もう純粋な魔王には戻れん」

 俺は返せなかった。

 あの夜が浮かぶ。

 乾パンを割る老人。

 眠る子ども。

 あの時から、何かがずれていた。

 長い沈黙が落ちた。

 もう説得は無理だと分かっていた。

 この男は、考えた上でここにいる。

 感情だけで動いているわけではない。

 だから止まらない。

 俺は一つだけ確認した。

「……最後に聞く」

 ガルドが待つ。

「子どもには手を出すな」

 言葉は、それだけだった。

「それだけ守れ」

 それは説得ではなかった。

 最後の確認に近かった。

 後方の古参派がざわついた。

 ガルドはしばらく黙っていた。

 やがて、低く言った。

「お前の判断は、魔王らしくなくなった」

 責める声ではなかった。

「まるで勇者のようだ」

 俺は少し考えた。

 否定は、出なかった。

「……そうかもしれない」

 ガルドはしばらく俺を見ていた。

「お前は、人間を見すぎた」

 それだけ言った。

 責めてはいなかった。

 確認していた。

 そして小さく息を吐く。

「老兵の仕事だ」

 ガルドは馬を反転させた。

 古参派の兵たちも動き出す。

 誰も叫ばなかった。

 静かな出立だった。

 その背中を、止めなかった。

 止められなかった。

 砂埃だけが残った。

 部隊が見えなくなるまで、俺はその場に立っていた。

 ダナが後ろから近づく。

「追いますか」

「……いや」

「このまま行けば、人間側と衝突します」

「分かっている」

「では」

 言葉が続かなかった。

 俺も答えを持っていなかった。

 ガルドは止まらない。

 人間側も止まらない。

 その間にあるものだけが、壊れていく。

 空を見上げた。

 雲が低かった。

 雪になるかもしれなかった。

 帰還の途中、リオから新しい報告が届いた。

「人間側国境守備隊に動きあり。辺境拠点への増援を確認」

 間に合わないかもしれなかった。

 その考えが浮かぶ。

 何に、とは整理しなかった。

 整理しなくても分かっていた。

 馬を走らせた。

 風が冷たかった。

 その冷たさだけが、妙に現実だった。

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