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勇者転生魔王物語  作者: ぃぃぃぃぃぃ


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12/24

第十二話:告発

 ミラが告発されたという報告から、三日が経っていた。

 その間、俺は城の中にいた。

 表向きは通常通りだった。宮廷への出席。報告書の確認。ダナへの指示。日常の動作を、日常の速度でこなしていた。

 しかし何かが変わっていた。

 変わっていることは分かっていた。何がどう変わったのかを言葉にしようとすると、うまくいかなかった。

 四日目の朝、リオが来た。

 城下の市場区画だった。いつもの接触場所だった。リオの顔は、この四日間で見た中で最も疲れていた。目の下に影がある。移動が続いていたのかもしれなかった。

「ミラの状況を確認した」

 リオが言った。

「投獄されています。外交局内の査問室です。まだ尋問の段階で、公式の裁判にはなっていない」

「尋問の内容は」

「把握できていません。内部に入れる人間がいない」

「どのくらい持つ」

 リオは少し間を置いた。

「分かりません。ミラがどこまで黙っていられるか。あるいは、強硬派がどこまで待てるか。どちらが先に動くかで変わります」

 俺は頷いた。

 沈黙があった。

 長い沈黙だった。

 リオは何も言わなかった。俺も何も言わなかった。

 二人の間に、言葉にする必要のないことがあった。三日前、俺は保護を後回しにした。その結果がこれだった。計算は合っていた。しかし間に合わなかった。それを今ここで言葉にしても、何も変わらない。だから言わなかった。

 リオも言わなかった。

 それが、今の二人の関係だった。

 しばらくして、俺が口を開いた。

「動けるか」

「どういう意味ですか」

「ミラを出すことは」

 リオは少し考えた。

「難しい。今の状況で動けば、魔族側が工作していることが確定します。ミラへの疑いが確信に変わる。それは、ミラをより深く追い詰めることになる」

「つまり、動けない」

「動かない方がいい、という判断です」

 俺は頷いた。

 動かない。

 また、動かないことを選んでいた。

 今回は保護を後回しにしたのではなく、動けない状況になっていた。前回の選択が、今回の選択肢を消していた。

 その連鎖を、頭の中で確認した。

「もう一つあります」

 リオが続けた。

「交渉ルートの状況です。ミラと繋がっていた外交局内の人間が、全員動きを止めました。ミラの告発が、彼らを萎縮させています」

「どのくらいで動き直せるか」

「分かりません。状況が落ち着けば、また動く人間は出てくるかもしれない。ただし今は、誰も動かない」

 交渉ルートが遮断された。

 その事実を、もう一度確認した。ミラが動かなくなれば、交渉は止まる。今まで積み上げてきたものが、この三日間で止まっていた。

 右手を確認した。

 指を動かす。問題ない。もう一度。わずかに遅れる。

 今日は誤差が大きかった。魔力を使った場面はなかった。しかし誤差が出ていた。

「別のルートはあるか」

「探しています。ただし、今のミラの状況が人間側に知れ渡っている間は、動こうとする人間は出てこない。ミラが魔族の内通者として扱われている以上、魔族側と接触することは、同じ疑いをかけられるリスクがある」

「つまり、しばらくは止まる」

「はい」

 俺は少しだけ黙った。

「分かった」

 リオが去り際に、もう一度振り返った。

「別の件です」

「聞く」

「古参派の動きが変わりました」

 俺は少し身構えた。

「ガルドを中心に、結束が始まっています。今週に入ってから、古参派内での会合が増えている。内容はまだ把握できていませんが、何かを決めようとしている」

「弾劾か」

「可能性はあります。交渉路線への不満が蓄積されていた。ミラの告発が、古参派に勢いを与えた形になっている。人間側との交渉が失敗したという形に見えるから」

「ガルド自身は」

「動きは把握できていません。ただし、会合には出ていない」

 俺は少し考えた。

 ガルドが会合に出ていない。古参派が結束しているのに、その中心にいるはずのガルドが出ていない。それが何を意味するのか、この段階では分からなかった。

「引き続き監視しろ」

「了解しました」

 リオは去った。

 一人になった。

 市場の人の流れが、周囲に続いていた。

 問題が重なっていた。

 ミラが投獄された。交渉ルートが遮断された。古参派が結束し始めた。

 一つ一つは対処できるかもしれない。しかし三つが同時に起きていた。どれかを動かせば、別のどれかに影響が出る。

 計算が複雑になっていた。

 複雑になると、誤差が増える。誤差が増えると、精度が落ちる。精度が落ちると、判断が遅れる。

 その連鎖を、頭の中で確認した。

 確認して、どうするかは、まだ出なかった。

 城に戻ってから、ダナに報告を入れた。

「交渉ルートが止まった」

「知っている」

 ダナはすでに把握していた。

「どうする」

「今は待つ」

 ダナは少し間を置いた。

「古参派は」

「動きを見ている」

「弾劾が来るかもしれない」

「来るなら来い」

 ダナは何も言わなかった。

 しばらくして、出ていった。

 夜になってから、一人で考えた。

 机の上に、報告書が積まれていた。補給路。停戦監視。古参派の動向。数字が並んでいる。その中に、ミラの名前だけがあった。他の紙は数字だった。ミラの報告だけが、人間の形をしていた。

 今、査問室で何が起きているのか。尋問がどこまで進んでいるのか。ミラがどこまで黙っていられるのか。どれも分からなかった。

「彼女は、まだ引き返せると思っています」というリオの言葉が、また頭に浮かんだ。

 今のミラは、引き返せる場所にいない。

 三日前の選択が、その状況を作っていた。

 俺はミラに会ったことがない。顔を知らない。声を知らない。リオの報告書の中にだけ存在していた人間だった。名前だけを知っていた。

 名前だけを知っていた人間が、今、投獄されている。

 その事実を、どう処理すればいいのか、分からなかった。

 処理しようとして、うまくいかなかった。

 廃屋の夜を、また少し思い出した。

 乾パンの硬さ。喉を通る時の摩擦。老人の手。子どもの寝息。

 ミラは今、何を食べているのか。あるいは、食べられているのか。

 それも分からなかった。

 深夜、書状が届いた。

 リオからではなかった。差出人の名前がなかった。封の形を見た。城の内部から来たものだった。

 開いた。

 短かった。

「明日の宮廷会議で、古参派が議題を提出する予定です。内容は、交渉路線の撤回と、魔王の統治方針に関する公開討議の要求です」

 弾劾だった。

 公開の場での弾劾だった。

 俺は書状をしばらく見ていた。

 差出人が誰かは、この段階では分からなかった。古参派の内部にいる誰かが送ってきたのか、あるいは別の誰かなのか。

 ガルドは会合に出ていない。しかし書状は届いた。

 その二つが頭の中で重なった。

 重なって、答えが出なかった。

 書状を火にくべた。

 炎が消えてから、立ち上がった。

 明日、宮廷で弾劾が来る。

 魔力で押さえ込むことはできる。しかしそれをすれば、古参派との対立が一気に表面化する。今の状況で内部が割れれば、外側からの圧力に耐えられなくなる。

 力で黙らせない。

 言葉で押し返す。

 それしかなかった。

 言葉で押し返せるかどうか、分からなかった。

 分からないまま、一日を終えた。

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