8/10
第8話:清十郎の疑惑
「……泥沼の構えだと?」
門弟が一人、一撃で沈められたという報告を受けて当主清十郎が中庭に姿を現した。京の遊び人風ではあるがその瞳の奥には鋭い光が宿っている。彼は、筵に包まれたまま微動だにしないムサシを値踏みするように眺めた。
「おい、又八と言ったか。お前の連れは、先ほどから呼吸一つしておらん。死人のように静かだが、どういう仕掛けだ?」
清十郎の鋭い指摘に、又八の心臓が跳ね上がった。
「い、いやあ! これこそが我がムサシ流の真髄、無呼吸の法ですよ。息をしないで気配を消し、自然と一体になるんです。……なぁ、ムサシ?」
又八がムサシの背中を叩くと衝撃で中身の泥がグチャリと蠢いた。
「……マダ……コロセ……シニタクナイ……」
「ほう、その声。地を這うような気迫だな」
清十郎はニヤリと笑い、腰の扇子を広げた。
「面白い。伝七郎、次はお前が相手をしてやれ。名門吉岡の剣が、その無呼吸とやらに通用するか試してみようじゃないか」
伝七郎が苛立ちと共に一歩前へ出る。ムサシの赤い目が新たな標的を捉えた。




