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第7話:泥の受け太刀
吉岡道場の中庭。門弟の一人が木刀を構え、筵に包まれたムサシと対峙していた。又八は、道場の隅で祈るように手を合わせている。
「……いけ、ムサシ! 軽くひねってやれ!」
門弟が鋭い踏み込みと共に木刀をムサシの胴へ叩き込んだ。確かな手応え、本来なら肋の一本も折れる衝撃だがムサシの体はボフッという鈍い音を立て木刀を深く飲み込んだ。泥の柔らかさが衝撃をすべて無効化したのだ。
「なっ……!? 手応えがない……!?」
驚愕する門弟に対しムサシはただ、ゆっくりと丸太のような腕を振り上げた。剣術など知らない、ただ敵を排除せよという泥の本能に従い重力に任せて拳を落とした。
「……テンカ……ムソウ……」
凄まじい質量に門弟は防御も間に合わず、泥の塊のような一撃を食らって地面に沈んだ。伝七郎を含め、見ていた者たちは言葉を失う。彼らの目には、それが相手の力を受け流し最小限の動きで仕留める極意に見えてしまったのだ。
「……信じられん、今の受け太刀……もしや柳生にも勝る無為の境地か?」
「え…ええ、まあ! これがムサシ流、その名も泥沼の構えですよ!」
又八は調子に乗り、デタラメな技名を都の空に響かせるのであった。




