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第49話:天下無双との決別
雲ひとつない秋晴れだった。収穫の日、又八は眩しそうに黄金の海を見渡した。
「ムサシ、腰が痛いからあっちの端まで頼むよ。俺はお光ちゃんの家で休んでくるからさ」
もはや又八にとってムサシが完璧に働くことは、明日も太陽が昇るのと同じくらい当然の日常だった。
ムサシは無言で頷き、田んぼの真ん中に立った。その体はもはや、半分透き通っているかのように淡い。一歩踏み出すたびに泥の足元から小さな欠片が零れ落ち、土に吸い込まれていく。愛おしそうに稲穂を抱くその指は、もう剣の握り方すら忘れたかのようだった。
一方、巌流島。波打ち際で佐々木小次郎は、ただ無言で水平線を睨んでいた。一羽の海鳥が小次郎の肩に止まろうとして、そのあまりに鋭い殺気に触れ慌てて羽を羽ばたかせて逃げていく。
小次郎が待っているのは、かつて戦場で血を啜った怪物。だが今、ムサシのひび割れた体から溢れ出しているのは、清らかな水と収穫を喜ぶ柔らかな光だけだった。二人を結んでいたはずの宿命の糸は、どちらが切ったとも知れぬまま、潮風に吹かれてプツリと消えていた。




