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第48話:沢庵と対話 ー小乗大乗ー
「……あ、そういえば」
夕餉の席で又八が箸を止めて首を傾げた。お光が運んできた温かい味噌汁の湯気の向こうでムサシは、静かに座っている。
「何か思い出したんですか?」
「いや、なんか大事な約束があったような……誰かとどこかの島で待ち合わせしてたような気がするんだけどさ??」
「お疲れなんですよ。さ、冷めないうちに」
お光に言われ、又八はあっさり納得した。巌流島も小次郎も、今では昨夜の献立を思い出すより遠い。
夜、納屋を覗いた又八は暗闇で目を見開いている沢庵に苦笑いした。
「坊主、まだ怖い顔してんのか?平和はいいぜ、腹も膨れる」
「……又八、小乗と大乗という言葉がある。自分一人を乗せて悟りの岸へ渡るのが小乗、多くの民を乗せて救うのが大乗だ。小次郎の剣は、己の天下無双を証明するだけの狭い小乗の小舟よ」
沢庵は、月光に透けるムサシの泥の体を見つめた。
「だが、あの男が打つ鍬は、村中を乗せて皆を飢えから救う大乗の大舟となった。己一人の強さなど、この大きな救いの前では無に等しい……。人を活かす、これこそが真の天下無双。今のムサシは、もはや誰にも負けぬよ」
又八は「相変わらず難しいね」と笑い、お光の待つ家へと戻っていった。




