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第47話:天下無双の農具
村の命運を分ける最後の難所。巨大な岩盤を前に村人たちは「人の力では無理だ」と諦めかけていた。だがムサシは無言で岩の前に立ち、剣ではなく大地の重みを受け止める土の構えを取った。
「よしムサシ、ドカンと一発やってくれ!」
又八の叫びと共にムサシが拳を叩きつけると地響きを立てて岩盤が砕け散った。その裂け目から待望の清流が勢いよく噴き出す。激しい水しぶきがムサシの泥の体を真っ向から洗った。
その瞬間、体にこびり付いていた戦場の黒い汚れや死の臭いを孕んだどす黒い汗が奔流に押し流されるようにすべて剥がれ落ちた。ムサシのひび割れた内側に村の冷たく澄んだ水がなだれ込み満ちていく。かつて殺気で濁っていた彼の体は、今や田畑を潤す水路のように一点の曇りもない清浄な輝きを帯びていた。
歓喜に沸く村人たちの中でムサシは摩耗し、一回り小さくなった己の腕を静かに見つめた。その指先は削れているが瞳には水面のような穏やかさが宿っている。
納屋の沢庵が清らかな水音に耳を傾け、独りごちる。
「天下無双の剣が、命を育む田の土へと成ったか……小次郎よ、お前の待つ相手は、もうこの世のどこにもおらぬぞ」




