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第46話:泥のひび割れ
季節は巡り、村には爽やかな風が吹き抜けるようになった。ムサシの献身的な働きによって荒地は見違えるほど整い、村人たちの視線もいつしか畏敬の念へと変わっていた。
だが、その代償はムサシの体に刻まれていた。連日の猛労働と体内から死の血を出し尽くした反動か、泥の体には無数の深いひび割れが生じ始めていた。作業の合間、ムサシが木陰で休んでいるとお光が心配そうに駆け寄ってきた。
「武蔵さん、またひびが……」
お光は小さな手でムサシの腕の深い亀裂をそっと撫でた。それは、かつてお通がそうしたように慈しむような手つきだった。彼女が汲んできたばかりの冷たい水をその傷口に垂らすとムサシは、無言で目を細める。それは痛みではなく、乾いた大地が雨を喜ぶような静かな充足感だった。
お光の目に涙が溜まるのを見て、ムサシは大きな泥の手を伸ばしかけ、汚れを気にして止めた。代わりに足元の名もなき野花を指差す。
「……咲いたな」
そんな幻聴が聞こえたかのようにお光は顔を上げ、小さく微笑んだ。
夕暮れ時、二人の影が長く伸びて重なる。ムサシの体からこぼれ落ちた泥の破片は、そのまま豊かな土壌となり来たるべき収穫の時を静かに待っていた。




