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第45話:少女の涙と泥
「ほら、ムサシ! お通ちゃん……じゃなかった、お光ちゃんが水を持ってきてくれたぞ。少しは休め!」
又八が縁側で少女の隣に座り、さも自分が働かせているかのような顔で呼びかける。ムサシは無言で動きを止め、泥だらけの鍬を傍らに置いた。
お光が差し出した手桶には、村の奥から湧き出る清らかな水が揺れている。ムサシがそれを飲み干すと体内に残っていた戦場の死の臭いが、さらに外へと押し出された。肩のひび割れからは、まだ黒ずんだ血が汗となって滴り落ち足元の土を汚している。
少女はそれを嫌がるどころか、自分の手拭いでムサシの泥の脚を優しく拭った。「こんなに泥だらけになって……ありがとうございます、武蔵さん」
彼女の目からこぼれた一粒の涙がムサシの胸の穴に吸い込まれるように落ちた。
その瞬間、ムサシの泥の肌が一瞬だけ柔らかい湿り気を帯びた。納屋の影からそれを見ていた沢庵が、満足げに鼻を鳴らす。
「黒い血が抜け、清らかな水が満ちる。こびりついた執着が剥がれ落ちていくな……又八、お前には見えまいが、この男は今ようやく真っ当な土に戻ろうとしているぞ」




