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第41話:宿敵、現る
播磨の海沿いの街道に不気味なほどの静寂が広がっていた。道の真ん中に立つのは、派手な白装束に身を包んだ長身の美青年。旅人たちが物陰からひそひそと囁き合う。
「……見ろ、あの背中の長刀。間違いない、巌流の佐々木小次郎だ」「あの刀で、飛ぶ燕を三羽まとめて斬り落としたっていう……」
そんな周囲の緊張感を無視して、ムサシはふと道端にしゃがみ込んだ。おもむろに街道の湿った土を掬い上げるとまるで味見でもするかのように口へ放り込む。
「……ウマイ……」
「こらムサシ、人前で土を食うなと言ったろ! 柳生で少しは品が良くなったと思ったのに……これじゃあ、ただの不潔な泥人形じゃないか!」
又八が慌ててムサシの手を拭っていると小次郎が面白そうに目を細めて近づいてきた。その歩みには一切の隙がなく、風さえも避けて通るかのようだ。小次郎はムサシを覗き込み、鈴を転がすような声で言った。
「貴様が宮本武蔵か?吉岡を潰し、宝蔵院を折ったという男は……存外、無造作な構えだな」
小次郎の視線は、すでにムサシの虚無を見通していた。




