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第40話:沢庵と対話 ー断捨離ー
「ほう……ようやく人間であることを諦めて、ただの空に成り下がったか」
柳生庄を去る又八とムサシの前に沢庵が立ちはだかった。槍を抜かれたムサシの胸には、ぽっかりと空虚な穴が開いたままだがそこには痛みも悲しみも、何より生への執着すら存在しなかった。
「沢庵の坊主、見てくれよ。石舟斎の爺さんに槍を抜いてもらったらムサシの奴、まるっきり反応がなくなっちまった。最強の剣豪なんだろ? なあ?」
又八がムサシの肩を揺さぶるがムサシはただ風に吹かれるまま、ボーッと虚空を見つめている。
「最強も最弱もない。今のムサシは、石舟斎殿が一生をかけて追い求めた無そのものよ。人間がどれほど座禅を組み、悟りを開こうとしても届かぬ境地に心を持たぬこの泥は、槍一本抜かれただけで辿り着いてしまった。なんとも皮肉なものだな」
沢庵は、実体のないムサシの体を虚しく見つめた。
「……オレ……ナイ……?」
「そうだ、お前は最初から無かったのだ。名声も、形ある命も、すべては幻。又八、お前が連れているのは天下無双の剣豪ではない。ただの、歩く虚無だ」
沢庵の冷ややかな笑いが何もないムサシの胸の穴を通り抜けていった。




