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第39話:不動心
石舟斎の手によって十文字槍が引き抜かれた瞬間、ムサシの体からドス黒い粘液が抜け落ちた。代わって現れたのは、陽光を浴びてキラキラと輝く、生命力に満ちた瑞々しい土の体だった。
「おお……ムサシ、お前、なんだか綺麗になったな。泥臭さが消えて、いい匂いがするぞ」
又八が驚いて駆け寄る。槍という殺生の象徴を失ったことでムサシは戦場の怨念から解放され、万物を育む大地そのものの姿へと進化したのだ。
「……カルイ……ドコデモ……イケル……カンジ」
ムサシは力強く大地を踏み締めた。足元からは、崩れるどころか踏んだ畳から小さな草花が芽吹きそうなほどの活力が溢れている。
「兵庫よ、見たか。これが真の無刀取り。武器を捨て己を空にすることで、この者は大地と一体になった。もはや剣などという小さな器には収まらん」
石舟斎は満足げに笑い、抜いた槍を無造作に庭へ放り投げた。
「行け、武蔵殿。お主のその体を次は何者かを斬るためではなく何を育むか、ゆっくり考えるがよい」
ムサシは石舟斎に小さく一礼した。その背中は、以前よりも一回り大きく、そして揺るぎない不動の風格を纏っていた。




