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第37話:泥の反撃
「打てと言われれば、容赦はいたしませぬ!」
兵庫助の木刀が閃光となってムサシの肩口を襲った。しかし、泥の体は衝撃を吸い込みバシャリと鈍い音を立てて波打つだけだ。兵庫助は即座に二の太刀、三の太刀を浴びせるが打てば打つほど木刀が泥に絡め取られ重く沈んでいく。
「……オマエ……イタイコト……スル……」
ムサシの瞳がどす黒い赤に染まった。石舟斎の言葉によって自覚させられた執着が戦場の怨念を呼び覚ます。ムサシは避ける動作を一切捨て、泥の腕を鞭のようにしならせて振り抜いた。
「うおっ!?」
兵庫助は紙一重でかわしたが頬を掠めた泥の滴が、皮膚を焼くような熱を帯びていた。それは剣術ではなく、戦場の濁流そのものだ。ムサシの背後の泥がまるで幾千の死者の手が這い出すようにうねり、兵庫助を包囲していく。
「見よ、兵庫。これが戦そのものの姿だ。理屈も技も通じぬ、ただ命を飲み込むだけの泥沼よ。お前の綺麗な剣では、この深淵は斬れぬ」
石舟斎の静かな解説が響く中、ムサシは胸の槍を自ら掴み引き抜こうとするのではなく、それを芯にして体を独楽のように回転させ始めた。泥の飛沫が座敷を戦場に変えていく。




