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第34話:過信と誤解
「おのれ、我ら柳生を愚弄するか! その不気味な構え、見切ってくれる!」
血気盛んな門弟、木村が耐えきれずに木刀を抜いた。だが、ムサシは微動だにしない。ただ泥の瞳で門弟の背後に飛んでいる蝶をぼんやりと追っているだけだ。その隙だらけの無防備さが逆に木村の恐怖を煽る。
「……動かぬだと? どこから打っても返り討ちにするという自信か。あるいは、この槍の穂先が私が踏み込んだ瞬間に蛇のごとく襲いかかる仕掛けか……!」
木村は一歩踏み込んでは下がり、額に大粒の汗を浮かべた。ムサシがふいに「……フワフワ……」と蝶を指差してつぶやくと木村は「来たか!」と叫んで後ろに飛び退き、自ら庭の石に躓いて転倒した。
「ば、馬鹿な……指先一つの動きに私の剣気が完全に封じられた……!」
「おい木村、大丈夫か! 今、何が起きたんだ?」
他の門弟たちが駆け寄る。
「……見えなかったのか。あの男の指が動いた瞬間、私の間合いが死に体に変わったのだ。あの槍はただの飾りではない。あれは周囲の空気を吸い込む、巨大なアンテナだ!」
又八は隣で鼻をほじりながら確信した。柳生は、案外チョロいかもしれない……と。




