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第32話:ムサシと小鳥
「おいムサシ、もっとビシッとしろ! 柳生庄に入る前からそんなに猫背でどうする!」
又八が叱り飛ばすがムサシは無反応だ。それどころか、あまりに動かず殺気も気配もまったくないからか森の小鳥たちがムサシをちょうどいい止まり木だと勘違いし始めていた。
「……アタマ……オモイ……」
ムサシの頭頂部には、三羽の雀が器用に並んで止まっている。さらには、胸に刺さった十文字槍の枝分かれした部分にはメジロが止まって熱心に毛繕いをしていた。
「おい、どかせ! 威厳が台なしだろ! 剣豪に鳥が懐いてどうする!」
又八が追い払おうと手を振るが小鳥たちは逃げるどころか、隣の又八をうるさい生き物だと一瞥するだけだ。ムサシがあまりに無であるため、動物たちには彼がただの古い石像か泥の塊にしか見えていないのである。
「……コレ……ドウ……スル……?」
「どうもこうもないよ! 柳生の偉いヤツが見たら、おお、無刀取りの極致、自然との一体化だ!って勝手に感動してくれるかもしれないけどさ……」
又八は呆れ果てた。一国一城を夢見る主従の頭上では、小鳥たちが呑気にさえずっている。殺意も野心もない、ただそこにあるだけの泥。それが柳生の門を叩こうとしていた。




