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第30話:泥との決着
「おいムサシ! 足が止まってるぞ、早く歩け!」
又八が後ろから叱り飛ばすがムサシの一歩が異常に重い。梅軒を右腕ごと体内に接着したせいで重心が完全に狂っている。おまけに伊賀の山道は柔らかく、ムサシの足は踏み出すたびにズブズブと地面に深く沈み込んでいった。
「……アシ……ヌケナイ……」
「何言ってるんだ、しっかりしろ! うわ、本当に腰まで埋まってるじゃないか!」
梅軒を取り込んだムサシの自重は、もはや土壌の限界を超えていた。ムサシが沈めば、当然くっついている梅軒も一緒に地中に引きずり込まれる。
「助けろ! このままでは俺まで生き埋めだ!」
「ちっ、欲張って連れて行こうとしたのが失敗だったか」
又八は舌打ちすると道端の太い枝を拾い、ムサシの首の隙間に力任せに突っ込んだ。
「悪いな梅軒、クビだ! 重すぎて商売にならねえ。その代わり、この戦いは俺たちが勝ったってことにしとくからな!」
テコの原理で梅軒の腕を泥から無理やり引き剥がすと又八は、ムサシの背中を全力で蹴り飛ばした。
「走れムサシ! 泥が固まる前に山を降りるぞ!」
泥まみれで放り出された梅軒を残し、槍をアンテナのように揺らしながら奇妙な主従は逃げるように大和へと向かった。




