第26話:泥の抱擁
「鎖が抜けぬなら、このまま懐へ飛び込むまでよ!」
梅軒は機転を利かせた。鎖を引くのを諦め、逆に鎖をたぐり寄せながらムサシの至近距離へと一気に踏み込んだのだ。手元に残った鋭利な鎌が月光を浴びて冷たく光る。
「死ねっ!」
梅軒の鎌が、ムサシの太い首筋を真横から深く切り裂いた。並の人間なら首が飛ぶ一撃だ。しかし、手応えがおかしい。刃は吸い込まれるように首の中へ入っていくが、そこには断つべき骨も噴き出すべき血もなかった。
「……ソコ……クスグッタイ……」
ムサシが無機質な声を漏らすと首の切り口からドロドロの黒い泥が溢れ出し、梅軒の鎌を包み込んだ。
「な、何だ!? 鎌が……俺の鎌が飲み込まれていく!」
梅軒は慌てて鎌を引き抜こうとしたがもう遅い。泥は鎌の刃を接着剤のように固定し、さらに梅軒の握り拳までをズブズブとムサシの首の中へ引き込んでいく。
「いけムサシ! そのままハグだ! 離すんじゃないぞ!」
岩陰から又八がガッツポーズを作った。
「鎖鎌の達人とドロドロに密着なんて、前代未聞の防衛術だ! これで勝てば天下無双の粘り腰って売り出せるぞ!」
梅軒は片腕をムサシの首に埋めたまま泥の巨人と至近距離で見つめ合うという、世にも奇妙な地獄に突き落とされた。




