第2話:宮本村への長い溜息
慶長五年、十一月。関ヶ原から二ヶ月後。
武蔵と又八の故郷、宮本村の入り口には深々と笠を被り、顔をボロ布で隠した奇妙な二人組が立っていた。一人は、おどおどと辺りを窺う又八。そしてもう一人は、武蔵の着物を無理やり着せられた岩のように巨大な泥の塊である。
「……ムサシ、頼むから静かにしててよ。特にコロセとかは絶対禁止、分かった?」
又八が必死に耳打ちするが巨大な泥の巨人は、無機質な声を漏らすだけだ。
「……マダダ……イクサハ……コロセ……」
又八は慌てて巨人の口らしき裂け目を泥で塞いだ。
そこへ、武蔵の帰りを待ちわびていたムサシの恋人お通が駆け寄ってくる。お通の前には、又八の隣にかつてのムサシの面影など微塵もない、異様に背が高く土臭い何かが立っている。
「……武蔵様? その、お姿は……」
絶句するお通に又八は、滝のような冷や汗を流しながら、考えてあったデタラメを吐き出した。
「いやあ……ムサシはね、戦ですごい病にかかっちゃって! 日に当たると肌がボロボロ崩れるし、喋ることもできないんだ! だから、絶対に近寄っちゃダメだよ!」
お通が涙ぐんで泥の腕に触れようとした瞬間、ムサシの奥底から混じり合った兵士たちの叫びが漏れ出した。
「……テンカ……ムソウ……イクサハ……」
「……ほら、言ったろ! 完治するまで、補修……じゃなくて、静養が必要なんだ!」
又八は、引きつった笑顔で不気味に蠢く巨大な親友を強引に納屋へと押し込んでいくのであった。




