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第16話:十文字槍の衝撃
宝蔵院の道場に張り詰めた空気が流れる。対峙するのは、若き天才胤舜と、褌で腕を縛り直した泥のムサシだ。胤舜が踏み込むと同時に十文字槍が電光石火の速さで繰り出された。
「……せいッ!」
鋭い穂先がムサシの胸の真ん中を正確に深々と貫いた。道場にいた僧兵たちが勝負あったと確信したその瞬間、奇妙な音が響く。グチャリという、およそ肉体を突いたとは思えない湿った音だ。
「な、なんだ……? 手応えがない……」
胤舜が目を見開く。槍は確かに命中しているがムサシは微動だにせず、ただ無機質な赤い目で胤舜を見下ろしている。それどころか、引き抜こうとした十文字槍の鎌の部分がムサシの体内の泥にがっちりと噛み合い、びくともしなくなったのだ。
「うわあ! 出た! ムサシ必殺の肉体飲み込みの術だ!」
脇で見ていた又八が出鱈目な解説を叫ぶ。胤舜は必死に槍を引くが引けば引くほど泥の粘着力が増し、名工の打った槍がムサシの体の一部になり始めていた。
「これではまるで、泥沼を突いているようなもの……武蔵殿、貴殿は何を考えておられるのだ!」
困惑する胤舜。しかしムサシは、何も考えていない。ただ、食事の泥を消化中なだけである。




