第12話:名門の終焉
一乗寺の松の下には、刀を奪われ泥に塗れて転がる門弟たちが山をなしていた。もはや戦いではなく、泥流に飲み込まれた被災地のような惨状である。そこへ、返り血ならぬ返り泥を浴びた当主清十郎が青ざめた顔で進み出た。
「……貴様、何者だ。剣術など使っておらん。ただの、泥の塊ではないか」
清十郎の震える声にムサシはゆっくりと振り返った。筵の隙間から覗く赤い目が感情なく清十郎を捉える。その瞬間、清十郎は悟った。目の前の存在は、鍛錬を積んだ武士ではない。関ヶ原の死霊が泥を依り代に蠢いている、ただの怪異だと。
「……化け物が……名門吉岡の剣が、土くれに敗れるとは……」
清十郎は刀を投げ捨て、崩れ落ちた。勝負ではない。人間が天災に勝てぬのと同じ理屈だ。又八は物陰から飛び出し、勝利を宣言する。
「い、如何にも! これぞ我がムサシ流の真髄、土くれの境地の術! 名門吉岡も土には勝てなかったってわけだ!」
又八は、崩れかかったムサシの肩を強引に支え、夜明けの京の街へと逃げるように立ち去った。名門吉岡は、一人の嘘つきと一塊の泥によって、その誇りを完全に打ち砕かれたのである。
「……ハラ……ヘッタ……」
「食べなくていいから! 早く行くぞ、ムサシ!」
こうして京都の騒乱は、おぞましい静寂と共に幕を閉じた。




