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第10話:一乗寺の果たし状
伝七郎が屈辱に震えながら道場を去った翌朝、又八のもとに一通の書状が届いた。それは「一乗寺下り松にて、吉岡一門総出でムサシ殿をお迎えする」という、事実上の集団私刑の宣告であった。
「な、なんだよこれ! タイマンじゃないのかよ!」
又八は腰を抜かしたが都では既に「名門吉岡が、謎の達人ムサシに追い詰められた」という噂が広まっていた。引くに引けない又八は、ガタガタと震えながらムサシの泥の体を必死に整える。
「いいかムサシ、今度は多勢に無勢だ。でもお前は泥なんだから、斬られても死なない。とにかく突っ立って、みんなをドロドロにしてやればいいんだからな」
ムサシは無機質な目で都の空を見上げ、地鳴りのような音を立てて呟いた。
「……マダ……イクサハ……キレ……コロセ……」
一方、吉岡一門は焦っていた。伝七郎の木刀を飲み込んだあの不気味な感触。彼らはムサシを人智を超えた暗殺術の使い手だと確信し、数百の門弟で取り囲んで圧殺する計画を立てていたのである。
「吉岡の看板、泥を塗らせるわけにはいかん……!」
皮肉にも彼らが守ろうとしている看板こそが泥の怪物へと近づいていくのであった。




