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*38 ティータイム

 紅茶を淹れる。


ティーバッグだけどポットで。


カップで淹れるよりもポットで淹れるほうが美味しいと思うから。


(あたし的には、だけど)


沸かしたばかりのお湯を注ぐと、紅茶のふわっとした香りが一人だけの研究室に拡がった。


が、すぐにその至福の時間は強制終了させられる。


「あ、佐伯じゃん。何やってんの? 久しぶり」


「……なんか順番がおかしくないですか、樋田さん?」


「いや、まぁ、気にすんな? ってか、お茶? コーヒーでなく?」


「紅茶です。なんか、飲みたくなったんで」


「ふぅん。珍しいな。いつもはコーヒー派の佐伯が」


「そうですかね」


 今朝、急に思い立ち、自宅からティーバッグとポットを持参してきたのだ。


元々、紅茶もコーヒーもどちらも好きだったりする。


「樋田さんも飲みます?」


「うん、貰おうかな。しっかし、料理も出来ないのに、変なトコこだわってんのな」


「……要りませんか、そーですか」


「あぁっ! ごめん、ほんとごめん」


 平謝りで手を合わせて頭を下げる樋田さんの前に、ちょっと乱暴にマグカップを置く。


ってゆーか、あんたには言われたくないわ。


(前作・Dearest for You.(仮)参照)


「ありがとうごぜぇますだ、奈津様」


「わかればよろしい」


 『俺専用』と油性マジックで書かれたマグカップ(樋田さん専用。自分で書いたのだろう、多分)を掲げ、そう言う樋田さん。


本当に自分より年上なのか、怪しくなってくる。


実際の所、学年では2年違いだが、1歳しか歳は変わらなかったりするのだが。


(あたしが一年浪人しているので)


「お、旨いな、これ。苦くない」


「ティーポットで淹れると苦くないような気がするんですよね。まぁ、気のせいかも、なんですが」


 だからいつも、ティーバッグでもポットで淹れるのだ。


こだわっているというより、もう習慣みたいなもので。


「っはよーございまーす」


 樋田さん相手にお茶をしていると入って来たのは、糸屋くん。


今日は栂谷(つがや)くんは一緒じゃなかったらしい。


樋田さんも同じことを思ったようで。


「おぉ、珍しい。栂谷と一緒じゃないのか?」


「俺はさっきので今日の講義は終わったんですけど、栂谷はまだ講義あるみたいです」


 なるほど。


納得がいった。


「……二人だけっすか?」


「あー、なんかまだ皆来てないみたいだな。俺が来た時には、佐伯だけだったし」


「ふぅん」


 長机の上にどかっとメッセンジャーバッグを置いて、糸屋君が座る。


それは丁度、あたしの向いで。


「糸屋君もいる? 紅茶だけど」


「うん。貰います」


そう言いながら、机の上のお菓子箱のクッキーに手を伸ばす。


(通称・お菓子箱。M2の森田さんが設置。貰い物のお菓子なんかを入れておく。なくなると誰かが買って来て補充している)


「ごっそさん。俺はもーいいわ」


 樋田さんがマグカップ片手に立ち上がる。


「あれ、いいんですか?」


「おー、一服したいしさ? そろそろ行かないとだし、保田(やすだ)先生とこに」


 ポケットの中の煙草の箱をチラッと見せてくる。


「あはは。お疲れさまです」


「そう言ってくれるのは佐伯だけだよ。もー、この際、佐伯でもいいから癒してー」


 そう言いながら、擦り寄ってくる樋田さん。


酔ってんのか? この人は。


「あたしが怖いって皆に言ってたのは誰でしたっけ?」


 樋田さんを右手でかわしつつ、にっこり笑顔で拒否する。


「えー。言葉のあやだってー」


「はいはい。セクハラですよー。さっさと行かないと、保田センセーに怒られますよー」


 保田先生の名前を出すと、それまでグダグダごねていた樋田さんも途端に大人しくなる。


そして名残惜しそうに、恨めしそうに研究室を出て行く。


「……あれって」


 そんなあたしと樋田さんのやり取りを黙って見ていた糸屋君が口を開く。


「ん?」


「マジでセクハラ入ってますよねぇ? いいんすか?」


「うーん、良くはないよね。もう慣れたっていうか、だけど」


 はい、と、淹れたばかりの紅茶を糸屋君の目の前に置く。


「どうも。……樋田さん、そろそろ一回〆た方がいいですかね?」


 〆るって何?


糸屋くんは一体何者?


思わず、ちょっと引く。


「あ、いや。来年は女子が入ってくるかも、だし。今の調子でやられたら困るじゃないですか」


 まぁ、そうだけども。


私や森田さんは慣れてるから普通に交わすが、この調子で行かれるとなぁ。


「でも、どうせ〆るなら、森田さんとか保田先生のが適任だと思うよ? 話してみようか?」


「あぁ、確かに。そのほうが良さそう」


 森田さんも保田先生も、二つ返事で引き受けるに違いない。


うん、想像すらしたくない。


「あの、」


「うん? なぁに?」


 糸屋君の遠慮がちな問いかけに、首を傾げる。


「このあと、時間ありますか? ……ちょっとでいいんで」


 そう言って真っ直ぐにあたしを見る彼は、思い詰めたような表情で。


断るつもりはなくても、とても断れるような雰囲気ではなかった。

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