*32 空中ブランコ
「……なぁ」
ブランコに腰掛けながら、自販機で買ってきたばかりの缶コーヒーを開ける。
……公園のブランコなんて、何年振りだろう。
「んー?」
頭上から降ってくるように返事が返る。
……細かい事は気にしないことにする。
「どうするよ、こっから?」
言いながら彼女のいる方を向く。
……彼女の脚が目の前を通り過ぎて行く。
「……なんで立ちこぎなんだよ! せめて座って漕げよ! 見えるだろっ」
「これが案外難しくって。ブランクって怖いよねぇ」
キィキィと鎖が軋む音と、彼女の笑い声。
そんなもんか? とは思うが、とてもじゃないがブランコを漕ぐ気はしない。
『樋田さんが計画した樋田さんによる樋田さんの為の合コン』から無事に抜け出せたのはいいが、彼女─笹岡真麻─はすっかりブランコに夢中だった。
自販機に飲み物を買いに行っている数分の間の出来事である。
──そして、既に帰りたいと後悔している。
「笹岡真麻、行きますっ」
これからスキージャンプでも飛ぶのか? というような掛け声に、彼女を見上げる。
ブランコが一番高いところまで上がった時に、その手が離れる。
そして、彼女が夜の空に飛び上がる……ように見えた。
「……おい。大丈夫か?」
着地したはずの彼女がうずくまって立ち上がらない事に声を掛ける。
足折ったとか捻ったとか言わないよな?
「だ、大丈夫。多分……」
弱々しく聞こえた返事に『あーあ』と呆れる。
「足、じーんってなってる」
「そりゃ、なるだろ」
弱々しく涙声で訴える彼女に、思わず樋田さんに突っ込むような調子で答えてしまう。
女性に対しての言葉にしてはちょっと冷たすぎたか? とは、言ってしまった後で気付く。
「……悪い。言い過ぎた」
「いえいえ。平気、これくらい」
「その割には涙目だったよな」
「き、気のせいだよ、先輩」
ようやく持ち直したらしい彼女が隣のブランコへと戻ってくる。
「それ飲んだら、家まで送るな?」
そう言って自分の分の缶コーヒーを飲み干す。
そして視線の先にあったくずかごへと投げ入れる。
空き缶は綺麗な放物線を描いてカゴへと収まった。
彼女と俺の目の前で。
「綺麗に入りましたね。バスケでもやってたんですか?」
キイキイと微かに揺れるブランコ。
夜の空気によく馴染む彼女の声。
「スポーツは一通りやってたよ。でも本命は弓道だけど」
的に当てたり、ゴールに入れたりは得意だ。
本当にそれだけ、ではあるんだけど。
「だからなんですか。わかる気がします」
そう言った彼女もさりげなく、空き缶を放る。
いや、放り投げたのではない。
ゴールのゴミ箱に打たれた空き缶のシュートは、音も立てずに吸い込まれるように。
入った瞬間を、彼女はそれにもう目を向けてすらいない。
「……うちでコーヒーでも飲んでいきませんか?」
その軌跡に見惚れた俺に、驚く程に近くで予想外に誘いをかける。




